開発NOTE

現場の特性や課題に向き合い、
本当に役立つAIに。

現場の特性や課題に向き合い、本当に役立つAIに。

国立研究開発法人 産業技術総合研究所 兼村 厚範 様国立研究開発法人 産業技術総合研究所
兼村 厚範 様

産総研は、AIの草創期から豊富な実績を築いており、これまでも多くの企業と連携しながら、AI技術の実用化に取り組んできました。近年は「実世界で信頼できるAI」、「人間と協調できるAI」、「容易に構築できるAI」を3つの柱とし研究開発を通じて、社会を豊かにすることを目指しています。

私自身も様々な分野でAI活用を広めていくために、適用対象となる現場の特性や課題に真正面から向き合い、既に確立したAI技術を適用するだけではなく、適用対象に応じた効果的な手法を新たに開発するなど、よりベストなAIを求め、多くのプロジェクトに携わってきました。

AIを本当に役立つものにするためには、AIを活用する現場のデータをどれだけ多く揃えることができるかが勝負になります。その点、貴社は長年FA分野で幅広い製品を提供しており、データ、技術、経験ともに豊富です。また「Maisart®」をはじめ、AI強化に取り組んでおられ、今回の研究のパートナーとして素晴らしい相手だと思います。

当初、私はFA機器の知識が乏しく、まずは機器の動作原理から学びました。AI適用についてはプロジェクト前にある程度、私自身目処はついていたのですが、想定通りにうまく行ったところもあれば、予想外のこともあり、その際に研究所の方々の発想で解決につながったことが何度もありました。

労働人口減少など、これからの日本のモノづくりにとって、ますますFA機器への期待は高まっています。今回は3つの機器について研究を行ってきましたが、FA機器は他にも様々あります。AIのFA適用は、それぞれの機器特性に応じて工夫や検証が必要ですが、取り組む価値のある課題だと思っています。産総研でも今回の共同研究には大きな期待を寄せています。

リアルタイム性・高精度・高信頼を備えたこれまでにないAIです。

先端技術総合研究所 西野 慎哉先端技術総合研究所 西野 慎哉

CNC切削加工機の開発を担当しました。これまで当社でもAI技術の開発を行ってきましたが、今回、産総研に最先端のAI技術をご提供いただき、それを当社の情報技術総合研究所でFA機器に適用できる技術として落とし込み、我々がFA機器に実装しました。

CNC切削加工機では、常に変化する加工誤差を1μmレベルで補正する必要があり、またAIの推論結果には高い信頼性が求められます。FA機器制御と並行して高精度・高信頼な誤差推定をリアルタイムで適用できる、このようなAIはこれまでなかったと思います。

さらに今回、転移学習という手法を採用しています。加工対象物の変更などにより再学習が必要となる場合がありますが、学習に時間がかかるとお客様の生産ラインに影響します。そのため、すでにある学習結果をベースに短時間で学習できる技術です。

開発に際しては、どういったデータを学習させればいいのか、どんなアルゴリズムを設計すればいいのかなど、産総研・先端技術総合研究所・情報技術総合研究所それぞれが持つ強みを活かしつつ取り組んできました。FA側からの知見、AI側からの知見、それぞれが分野の垣根を超え、互いに理解を深めることができたからこそ、今回のような大きな成果につながったと思います。

実用化に向けては、より多くのCNC切削加工機で、評価を進めていきたいと思っています。究極的な目標として、どんな人でも熟練作業者と同等の加工を行えるようにすることです。望む加工を誰でも簡単にできる、そんな理想に向かってこれからも開発を進めていきます。

ここまで積極的に産業用ロボットにAIを適用した例はほとんどありません。

先端技術総合研究所 松岡 諒先端技術総合研究所 松岡 諒

産業用ロボットの開発に入社以来、取り組んできました。ロボットアームの手先負荷の推定は、理論と実機の誤差が大きく、どんな動作条件でも高精度な結果を得ることがとても難しいのです。誤差の原因は振動や摩擦など様々ありますが、現象として複雑なために、全てを定式化するのは困難です。今回の開発では、ロボットの特性に関する当社のこれまでの知見を活かした精緻なロボットの動作モデルをベースに、推定が困難な部分にAIを活用することで、高速・高精度で手先負荷を推定し、信頼度も同時に算出できるようになりました。

ある時、実験でロボットを動かしていると「ロボットはこれだけ速く動くものなのか」と見ている人に驚かれました。現状、ロボットの手先負荷に応じて人がパラメーターを適切に調整するまでは、安全面などを考慮し速度を落として動かしています。今回の技術を適用すれば、把持する部品が頻繁に変わる生産現場でもロボット本来の性能を活かし、人が驚くほど速く動作できるのです。

手先負荷の推定から信頼度の算出まで、ここまで積極的にロボット制御にAIを適用した例はあまりないように思います。今回の開発では産総研の中でもロボットに造形が深い方々と連携できたことにより、課題へのアプローチ方法など、適切な多くのアドバイスをいただきました。

今回の技術に対する社内外の反響は思いのほか大きく、AIのFA適用やロボットの高速化への期待が大きいことを改めて感じます。今後、信頼度をより高速に算出する手法を検討するなど、生産性や使い勝手の向上を目指していきます。人・ロボットが共存する次世代のモノづくりの現場を実現するために、双方にとって最適なソリューションを提供する立場にいることを自覚して、今後も研究開発に精励する所存です。