R&D NOTE

開発NOTE

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尾中さん、岸田さんが並んでいる写真尾中さん、岸田さんが並んでいる写真

地球的課題の解決に向けて、空調機の省エネ性を
飛躍的に高める新構造の熱交換器を開発
鉛直アルミ扁平管熱交換器

  • 先端技術総合研究所:尾中 洋次
  • 先端技術総合研究所:岸田 七海

人類共通の課題であるカーボンニュートラルと持続可能な社会の達成に向けて、ビルなどで使われるエネルギーの多くを占める空調設備の省エネ性向上は重要なテーマです。

三菱電機では、従来の設計思想を転換して伝熱性能を大幅に高めた「鉛直アルミ扁平管熱交換器」を開発しました。そこに携わった先端技術総合研究所の2人に、新発想の技術開発に伴うエピソードを聞きました。

「水平」から「垂直」に。
発想も構造も“90度転換”して課題を解決

ビルや商業施設といった大規模建築物の空調は多大なエネルギーを消費することから、熱を効率的に取り出せるヒートポンプ式空調機のニーズが高まっています。ただ、地球温暖化に負の影響を与えやすいフロン冷媒を使っているため、環境負荷を減らすには冷媒量を減らさなければならず、そうすると伝熱性能も落ちてしまうジレンマがあります。「冷媒量を削減しながら伝熱性能を上げる」という相反するテーマ。これらの両立が、カーボンニュートラルに貢献する空調機をグローバル展開するためには不可欠でした。

より少ない冷媒で熱交換を行うには、熱交換器内部の冷媒を流す「扁平管」を細くし、高密度に多数配置することで、冷媒と空気が触れる面積を拡大しつつ、熱交換器内の容積を削減し少ない冷媒で効率的に熱交換を行うことが有効です。ところが従来の水平アルミ扁平管熱交換器(HFT熱交換器)は、冷媒分配器内部を下から上に向かって冷媒が流れ、冷媒分配器から水平方向に複数配置されたアルミ扁平管に冷媒が分流する構造であったため、アルミ扁平管の数が増えると、重力の影響で気体と液体が混合した冷媒をすべてのアルミ扁平管に均等に行き渡らせることが困難でした。

この課題を解決するプロジェクトがスタートしたのは2015年のこと。当初は研究所のメンバー数人で、扁平管が水平に並ぶ構造ではなく、新たな熱交換器を開発したいと企画立案し、それが鉛直アルミ扁平管熱交換器(VFT熱交換器)の開発につながりました。扁平管が垂直方向に並んでいれば冷媒分配器は水平になり、重力の影響を受けずに多数の扁平管へ気体と液体の均等な冷媒を分配できるのではないか。まさに横から縦へと“90度”の発想転換でした。

HFT熱交換器とVFT熱交換器の比較の図
先端技術総合研究所 熱環境・エネルギー制御技術部 尾中 洋次さんの写真

先端技術総合研究所
熱環境・エネルギー制御技術部
尾中 洋次

大学時代からの継続した研究テーマに
不思議な縁を感じます

先端技術総合研究所 熱環境・エネルギー制御技術部 尾中 洋次さんの写真

先端技術総合研究所
熱環境・エネルギー制御技術部
尾中 洋次

尾中

私は大学時代からカーボンニュートラルに関する研究を行っていたので、入社してそのテーマに寄与できる熱交換器に携わるようになったのには不思議な縁を感じます。

当初数人で編み出した“横から縦へ”の発想に基づく熱交換器のコンセプトについて原理検証を進めていく中、想定通りの良い結果が生まれ、技術面の確かさは確認できたのですが、難しかったのは、ここからでした。実際の製品に搭載するためには、製品づくりを前提として設計し、かつ品質面もしっかり高めていく必要があるのですが、この段階では本当に製品に実装できるのか、正直まだ分からない部分も多くあり、難しさを感じていました。そこで研究所から製作所に技術提案し、協力を仰いだ結果、最終的には総勢100人以上で開発を進めるプロジェクトになったのです。

先端技術総合研究所 熱環境・エネルギー制御技術部 岸田 七海さんの写真

先端技術総合研究所
熱環境・エネルギー制御技術部
岸田 七海

参加当初は周りのメンバーを質問攻めに
畑違いの研究で分からないことだらけでした

先端技術総合研究所 熱環境・エネルギー制御技術部 岸田 七海さんの写真

先端技術総合研究所
熱環境・エネルギー制御技術部
岸田 七海

岸田

私は製品化に向けたプロジェクトが始動した、ちょうどその頃に入社し、すぐにチームへ参加しました。VFT熱交換器を実現するうえではフィンの構造も課題で、私は入社早々フィンの開発を担当することになったのです。実は大学時代、農学部で植物プラントの研究をしており、エアコンに関する技術は全くの畑違い。ですから参加当初は分からないことばかりで、とにかく必死に取り組む中、尾中さんや周りのメンバーにいつも質問してばかりでした。

フィンの開発は、大量に生産され、低コストで高い熱交換性能を発揮する自動車用熱交換器のフィンを使えるのではという発想からスタートしました。自動車用熱交換器は基本的に冷房でしか使われません。対してヒートポンプ式空調機は暖房時、霜をとかす除霜運転を行うため、とけた水が排水されずに結露すると空調能力を低下させてしまいます。そこで、排水性の問題を解決する新構造の開発が私の主な役割となりました。

岸田

解決のキーになったのが、独自開発の排水解析技術です。この技術は解析技術を専門とするメンバーや、海外の研究開発拠点とも連携しながら確立したもので、水の流れを模擬的に可視化できるため、実際に時間をかけてフィンを試作することなくトライ・アンド・エラーを重ねられます。この技術を活用してさまざまな形状を試した結果、最も効果の高い形としてフィンに排水スリットと導水するための切り起こし構造を設けたところ、排水性を大幅に高めることができました。

「パイプの中に内パイプ」で課題をクリア
パイプの中で冷媒噴出~攪拌する
新しい発想

尾中

開発で最も苦労したのが冷媒分配器です。
100本レベルの大量の扁平管に冷媒を均一に流すことを想定すると、技術的な高いハードルがありました。分配器内部の気体と液体の流れを可視化・観察したうえで開発したのが、二重管構造の冷媒分配器です。外パイプの中に内パイプを設け、気体と液体の冷媒を内パイプの多数の小さな穴から噴出させて撹拌・混合することで、均一に流せる構造を作り出し、分配を高性能化しました。

高性能冷媒分配器の図

基本的構造にたどり着いたあとは、実際に製品に組み込み、量産するための設計のフェーズです。ここでも形状が量産に適しているか、幅広い使用条件や機種で同じような性能を出せるかといった課題が次々と生まれ、製作所などのメンバーと伴走しながら解決していきました。製品化を視野に従来の形を変えていくのは実に大変な作業でしたが、結果的に多くのハードルを乗り越え、HFT熱交換器と比べて伝熱性能の最大約40%向上を実現し、かつ冷媒量削減にも成功できたことは本当にうれしい限りです。

熱い思いを持った仲間たちや海外拠点との連携。
ここで得た経験が財産になり、自分の世界を広げていく

尾中

2024年9月、VFT熱交換器を搭載したビル用マルチエアコン室外ユニット「グランマルチ」シリーズの発売に至りました。私自身初めて新たな熱交換器をイチから開発した経験、その中で熱い思いを持った仲間たちから多彩な視点をもらえたことが、今回の取り組みを通じて得た最大の財産です。ここで得られたものは、これから若手メンバーにもしっかり伝えていきます。

尾中さん、岸田さんの写真
尾中さん、岸田さんの写真
尾中さん、岸田さんの写真

ADVANCED TECHNOLOGY
R&D CENTER

岸田

開発を振り返ると、研究所内外の本当に多くの人たちに助けてもらった実感があります。周りの人たちに次から次へと質問を重ねていったおかげか、コミュニケーション能力は上がったと思います。というより、とにもかくにも聞きにいってみようという積極さが身についた、といったほうがいいかもしれませんね。先端技術総合研究所は、多彩な分野を専門とする人たちが同じ建物にいて、気になったことをすぐ聞きにいける環境にあるのが大きなメリット。開発を通して多くの人たちと知り合い、海外拠点との連携も経験したことで、自分の世界が広がってきたと感じています。

────三菱電機の魅力と、三菱電機を目指す皆さんへのアドバイスをお願いします。

新たな課題にチャレンジしたい人は、三菱電機にぜひ飛び込んでほしい

尾中 洋次さんの写真
尾中

「三菱電機は技術好きが多く集まる会社というイメージがあります。だからこそ新しいことへの感度が高く、新技術を提案したときも受け入れる高い受容性があり、その結果として他社が手掛けていない技術に基づく製品を世界に先駆けて送り出せるのでしょう。私は“Changes for the Better”という言葉が好きなので、まだ解決されていない課題にチャレンジしていく気持ちを持った人は、臆せず三菱電機に飛び込んでほしいですね」

岸田 七海さんの写真
岸田

「三菱電機は幅広い事業に対応していることで、さまざまな分野の最新情報が集まりやすい。その多彩な専門性の高い情報を持っている人がそこかしこにいるので、分からないことは分からないと言える素直な人のほうが自分の世界を広げられるのではないでしょうか。私自身もエアコンはわからないことだらけでしたが、三菱電機で研究を続けていれば高度な知識も身につきます。専門性にこだわらず、やってみたいことがあるなら、ぜひ挑戦してほしいと思います」

PROFILE

尾中 洋次さんの写真

先端技術総合研究所
熱環境・エネルギー制御技術部
尾中 洋次

2012年4月入社。入社以来、熱交換器の研究に取り組む。2014年の米国短期留学で得た冷媒を可視化する計測技術は、取りまとめ役として牽引した今回の開発でも大いに活きた。趣味は読書で、休日は6歳の子との散歩が楽しみ。最近2人目が生まれて子育てにも忙しい毎日。

2012年4月入社。入社以来、熱交換器の研究に取り組む。2014年の米国短期留学で得た冷媒を可視化する計測技術は、取りまとめ役として牽引した今回の開発でも大いに活きた。趣味は読書で、休日は6歳の子との散歩が楽しみ。最近2人目が生まれて子育てにも忙しい毎日。

岸田 七海さんの写真

先端技術総合研究所
熱環境・エネルギー制御技術部
岸田 七海

2018年4月入社。大学では農学部で農業工学を専攻し、入社後すぐに全く知識がなかったという今回の熱交換器の研究開発に参加。基礎から学びながら排水解析技術と高排水フィンの開発を担った。友人とおいしいものを食べにいくのが大切なリフレッシュになっている。

2018年4月入社。大学では農学部で農業工学を専攻し、入社後すぐに全く知識がなかったという今回の熱交換器の研究開発に参加。基礎から学びながら排水解析技術と高排水フィンの開発を担った。友人とおいしいものを食べにいくのが大切なリフレッシュになっている。