Factory Automation

FA業界コラム

「異物」であり続ける。名古屋製作所の「変な組織」が仕掛けるイノベーション炭崎竜平氏

2026年5月公開【全2回】

第2回 良い刺激を広げる「異物」——連鎖を加速する共創

ゴールは決めず、「面白そう」でまず動く

炭崎は、ゴールを明確に定義することに慎重だ。事前のゴール設定が、イノベーションの多様性を阻害することがある。あらゆる可能性を、自ら閉ざしたくないからだ。ゴールを立てて細かな計画を詰めるよりも、まず動く。動いた結果として見えてくるものがある、というのが炭崎のスタンスだ。

象徴的な事例が「Fun Factory」だ。製造現場にゲーム要素を取り入れたフィードバックをすることで、作業者のエンゲージメント向上を図る取り組みである。>興味深いのは、プロジェクトの始まり方だ。最初は「ゲーミフィケーション(ゲームの要素や仕組みを、業務や作業といった非ゲーム領域に取り入れる考え方)とFAで掛け算ができたら面白そう」という、極めてシンプルな発想だった。それがスタートアップとの連携、自社工場での実証実験を経て、メディア掲載やCEATEC(国内最大級のデジタルイノベーションの総合展示会)での展示へとつながっていった。

振り返ってみると、Fun Factoryの取り組みは製造業を取り巻く大きな潮流とも合致していた。世界経済フォーラム(WEF)は、これからの製造業が注力すべき5領域のひとつに「タレント(人材)」を挙げている。炭崎自身も、さまざまな企業の経営層と話す中で、関心の変化を感じているという。経営層になればなるほど、人材の確保、エンゲージメント、ウェルビーイングといった「人」の課題への意識が高まっている。FA業界ではこれまで十分に手が回っていなかった領域に、「面白そう」から始まった取り組みがぴったりはまった。

戦略的に計画されたものではなく、「面白そう」という直感が事後的に意味を持つ。それはまるで、星座のようなものだ。

「まずは一等星になり得る、光る星をいくつも作る。線でつないで星座にするのは、その後でいい。」

星のない夜空に、星座は描けないのだ。

同様の成功事例が、生成AI事業である。あるお客様との対話をきっかけに、製造現場で使われる制御プログラム(ラダープログラム)の自動生成という発想が生まれた。計画策定に時間をかけず行動を優先した結果、社内でも最先端の取り組みとして形になりつつあり、IIFES(オートメーションと計測の先端技術総合展)での展示にもつながった。

ゴールを設定しないとはいえ、組織としての構想がないわけではない。視野に入れているのは、「生成AI」「モビリティプラットフォーム」に続く第三の事業開発グループの立ち上げだ。軌道に乗った事業開発グループが組織を卒業し、事業化していく。そして空いたスペースで、また新しい芽を育てる。新陳代謝を繰り返していくことが、組織として望ましい姿だと考えている。

イノベーションの「連鎖」と共創パートナーへの期待

Fun Factoryや生成AI事業は、いずれもスタートアップやお客様との共創から生まれた成果だ。では、なぜ彼らは三菱電機と組むのか。

まず、世界中のお客様の製造現場との接点を持つこと。長年の経験から蓄積された技術とノウハウもある。さらにCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)との連携により、外部リソースへアクセスできる体制も整っている。これらのアセットを組み合わせることで、スタートアップ単独では難しい規模での価値創出が可能になるのだ。

連鎖するイノベーションによる新結合と事業化の流れ

こうした共創を重ねる中で、炭崎が強く意識するようになったのが「イノベーションの連鎖」という考え方だ。「新結合」を提唱したヨーゼフ・シュンペーターは、イノベーションを5つに分類している。新しい「材料」「プロセス」「プロダクト」「ビジネスモデル」「組織」。もともとはイノベーションで大爆発を起こしたいと考えていた炭崎だが、少し考えが変わってきたという。単発の大爆発よりも、小さな爆発が次々とつながっていく方が、結果として事業につながりやすいのではないか。たとえば、あるスタートアップとの共創では、最初に材料の技術革新が起きた。そこから新しいプロセスが生まれ、対応する製造装置が必要になった。三菱電機が装置を作り、最終的には新しいビジネスモデルが生まれようとしている。

「材料からプロセスへ、プロセスからプロダクトへ、そしてビジネスモデルへ。異なる種類のイノベーションが連鎖的に起きて、初めて事業になる。」

炭崎は、この「連鎖」こそが重要だと考えている。イノベーションの連鎖を起こすには、パートナーの存在が欠かせない。では、パートナーに何を求めているのか。意外にも、炭崎の答えは「技術力」ではなかった。面白がれる感性、やる気、人柄、一緒に成長していけるかどうか。技術は後から補うことができるが、同じ方向を向いて走ろうとする姿勢がなければ、共創は続かない。

炭崎にとって共創とは、単なる「技術連携」ではない。人と組織の面白さを起点とした「新結合」であり、価値創出のプロセスそのものだ。ビジョンを共有し、試行錯誤を楽しみながら進める関係が、パートナーシップの本質だと捉えている。

良い刺激を広げ続ける「異物」として

名OI推部が目を向けているのは、従来のFA業界の枠に収まらない領域だ。これまでの共創事例には、産業用のパルス電界技術を食品加工に応用し、風味を保ったまま殺菌・加工を可能にする「パルス電界処理による非加熱調理」、都市緑化とIoTを組み合わせてヒートアイランド対策に貢献する、大阪万博にも出展した「IoT Green Shade」などがある。いずれも、既存のFA事業とは異なるフィールドで「新結合」を起こしてきた。

製造業の未来は、工場の中だけにあるわけではない。FA技術を起点に、どこまで領域を広げられるか。その可能性を閉じずに探り続けることこそが、名OI推部の役割だと炭崎は考えている。

こうした挑戦の経験を、名OI推部は社内にも広げようとしている。名OI推部のメンバーは、2〜3年を目安に異動していく。一見すると、組織の弱体化につながるように見えるかもしれない。しかし炭崎は、それすらも狙いだと語る。この部で得た視点や経験を、既存のビジネスに活かしてほしい。従来のやり方と新しい発想を組み合わせて、何かを生み出す。それもまたイノベーション、まさに「新結合」だ。

炭崎は、名OI推部を「イノベーションのウイルス」と表現する。良い刺激を社内に広げ、周囲を巻き込みながら変化を生み出す存在だ。硬い組織を真正面から壊すつもりはないが、部門の壁を越えて、会社全体をよりイノベーティブにしていく。実際に、炭崎のもとで育った人材が他の部署で活躍し始めている。そうした姿を見ると嬉しくなるという。

三菱電機は「イノベーティブカンパニー」を掲げた。炭崎はその言葉を、誰よりも本気で受け止めている。

「ゴールは見えていません。でも、とにかく今より一歩前に進む。その先に何があるか、それは行ってみないとわからない」

良い刺激を広げ続ける「異物」として。名OI推部の挑戦は、まだ始まったばかりだ。

取材・文:竹島千遥 / 撮影:山田星太郎

本コラムはインタビューをもとにライターが取材・構成・編集したものです

製品・ソリューション紹介

オープンイノベーション

経営資源を有機的に結合させる「オープンイノベーション」により新しい価値を一緒に創りませんか。

アンケート

Q1今回の記事に興味関心を持ちましたか?

※必須項目です。選択してください。

Q2Q1で答えた理由を教えてください。また次回題材でご希望があれば教えてください。※なお、ご質問に対する回答はいたしかねますのであらかじめご了承願います。

ご回答いただきありがとうございました

一覧に戻る

  • FAトップ
  • The Art of Manufacturing
  • 第2回 「異物」であり続ける。名古屋製作所の「変な組織」が仕掛けるイノベーション 炭崎竜平氏