Factory Automation

情熱ボイス

【MELSEC iQ-R篇】1か月にわたった“会議室での日々”
ちゃぶ台返しを乗り越え、新コンセプトを探求

2016年3月公開【全3回】

第3回 苦渋の決断で発売を5カ月延期

 各チームが2014年1月の発売に向けてひたすら前進する日々。しかし進捗の遅れは次第に決定的となった。2013年秋、北村は「このままでは来年1月の発売は無理だ」と判断する。技術陣はあくまで当初予定をあきらめず、ギリギリまで頑張ろうとする。しかし、これ以上引っ張って、それでも開発が遅れてしまったら、営業やマーケティングなどさまざまな部門に多大な迷惑をかけることになる―――。北村は悩みぬいた末に、発売の5カ月延期を社内の関係者に進言した。

 実は北村が発売延期を進言する直前、坂本は大阪にあるフィールドエンジニアリング部へ異動することになる。その時の心境を「一番忙しい時期に抜けることになり、皆に申し訳ない気持ちで一杯だった」と坂本は振り返る。

 発売延期決定直後の2013年11月、重苦しい雰囲気に包まれた開発陣を勇気づける出来事があった。東京で開催された展示会「システム コントロール フェア2013」にiQ-Rシリーズを「近日発売」として参考出品したところ、大反響を得たのだ。「見た目も機能もすべてが新しい」という訴求ポイントが、来場者に強いインパクトを与えたようだった。

 開発メンバーもなんとか時間をひねり出してこの展示会に赴いた。「こんなに反響があるのか」。驚くと同時に、翌年6月の発売に向け、最善の努力を積み重ねる決意を新たにした。

 年が明けて2014年に入ると、それぞれの部門がネジを巻き直して開発のスピードアップを図った。

 発売時期が決定し、北村も忙しさを増していった。新シリーズの名前は北村が1年にわたり考え続け、iQ Platformの「iQ」と、“4つのE”に代わる新たなコンセプト“3つのR”(Reducing TCO=TCO削減、Reusability=継承、Reliability=信頼性)を前面に打ち出した「iQ-R」と決まった。発売直後から開始するキャンペーンや各種販促物などの作成……。北村はようやく本来のマーケティングの仕事に追われるようになる。

苦渋の決断で発売を5カ月延期

 中でも多忙を極めたのが、やはりファームウェアとエンジニアリングソフトの開発部隊だった。結局、両部隊のメンバーの多くが、その年のゴールデンウィークをつぶすことになる。

 ハードウェアの開発は比較的順調だったが、生山もゴールデンウィークに体を休めることはできなかった。専任に昇格するための論文の締め切りと重なったためだ。順調とはいえ、開発の総仕上げの時期だけに仕事は山ほどある。落ち着いて論文を執筆できるのは、ゴールデンウィークくらいしかなかった。

苦渋の決断で発売を5カ月延期

 ゴールデンウィークが明けてからも、詰めの作業は続いた。毎週金曜日に全体の進捗状況を確認する会議を開いていたが、ゴールデンウィーク明けからは、普段出席しないFAシステム第一部長も必ず顔を出して、進捗状況をチェックするようになる。

 本当に間に合うのか。ファームウェアとエンジニアリングソフトの開発部隊は、夜遅くまで残業することが多くなっていく。ファームウェア開発部隊を率いる谷出が「6月の発売に間に合う」とようやく実感できたのは、ゴールデンウィークをはるかに過ぎた頃のことだった。

お試しキャンペーンは予想を上回る反響

 そして発売2週間前、最後の試験が無事終了した。

 実際の娘はまだ幼いのに、「自分の子どもが巣立つときのような感慨があった」と谷出はしみじみ回顧する。

MELSEC iQ-R

 北村が企画し、発売直後から展開したお試しキャンペーンには、予想を上回る応募が寄せられ、最終的には予想を5倍も上回った。そして試用したユーザーからは、開発メンバーたちを喜ばせる、うれしい声が寄せられた。スピードが向上したことに加え、操作性、そして新機能のデータベースも高く評価されたという。

 大阪で仕事をしている坂本も、1人喜びをかみしめた。エンジニアリングソフト「GX Works3」の開発からは離れたものの、今度はセールスエンジニアとしてiQ-RシリーズやGX Works3を販売する立場にいる。そのために、発売以前からその特徴を分かりやすく説明する動画などを準備していた。その出来栄えは、北村が販促に活用するほどだった。

 坂本はプロジェクトの日々をこう振り返る。「部門をまたがって話ができ、さまざまな人間関係の中で物事を決める難しさを経験できたことは、私の会社人生にとって大きな収穫だった」。

 小林はiQ-Rシリーズ発売直前の4月にFA開発第二課長に昇進し、管理職となった。結果的にiQ-Rシリーズが、現場のエンジニアとして手がける最後の製品となった。

 その小林はインタビューをこう結んだ。

 「三菱電機の強みは品質。でも、どんな製品にもトラブルは起きる。エンジニアとしての自信を抱きつつ、より品質が高く使いやすい製品を、謙虚な姿勢で世の中に送り出す気持ちは、常に肝に銘じていたい」

*所属名や役職などは取材時(2016年1月)のものです

製品紹介

MELSEC iQ-Rシリーズ

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激しい市場競争に打ち勝つために、生産性が高く、製造品質の安定したオートメーションシステムを構築したい。このようなお客様の課題を、MELSEC iQ-Rシリーズは「TCO削減」「信頼性」「継承」の3つの視点から解決します。

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