Factory Automation

情熱ボイス

より高みを目指せ!ロボット愛あふれる技術者たちの挑戦の物語~キーワードは「インテリジェンス&
インテグレーション&セーフティ」~

2018年3月公開【全3回】

第2回
ハード開発チームを悩ませたノイズ対策

「すごい。この“絵”はまさに職人技だ」

ロボット製造部開発第一課専任の藤井宏一は、試作が終わった新コントローラのプリント回路板のレイアウトを見た瞬間、ため息を漏らした。狭い領域に、数多くの電子部品が整然と配置されている。ムダのない配置で、どこかをいじれば全体のバランスが崩れてしまいそうだ。そんな思いを藤井は抱いた。

その回路板を試作したのは、ハードウエア開発チームのリーダーを務める同課専任の山下智也だ。

6種類の
プリント回路板を開発

「MELFA FRシリーズ」ではロボットアームを前モデル「Fシリーズ」をベースとするため、ハード開発チームのテーマは、コントローラの新規開発に絞られていた。とはいえ、開発しなければならないハードは多い。新たに開発するコントローラ「CR800-R」「CR800-D」はアーキテクチャを一新するため、6種類の回路板を新たに開発することが必要だった。

山下は2002年に大学を卒業後、家電メーカーで回路板の開発を担当した。学生時代は産業用ロボットを使ったアプリケーション開発を研究テーマとしており、ロボット関連メーカーへの就職も考えないではなかったが、結果的に家電製品の回路板開発に携わることになった。

三菱電機に転職したのは2014年のこと。ロボット製造部に配属され、ハードウエア開発を担当することになる。「今後の技術の発展を考えると、やはりロボットに将来性を感じて転職を決意しました。学生の頃の夢が十数年ぶりにかない、うれしかった」と山下は転職当時の心境を紹介する。

家電の世界から移ってわずか数年で、ハード開発チームのリーダーを任された山下だが、戸惑いは覚えなかったという。「確かに家電とロボットでは全く違いますが、広い意味でいえば同じ回路板なので、それほど心配しませんでした。むしろ大きなやりがいを感じました」。

山下を中心にハード開発が進行していた2016年4月に、メンバーに加わったのが藤井だ。藤井は学生時代にAI(人工知能)を勉強するため数理論理学を専攻。2004年に入社し、数値制御装置(CNC)のハード開発部門に配属され、回路板の開発を担当した。「以前からロボットに興味は持っていたのですが、長い間CNC(数値制御装置)部門にいたので、異動の話を聞いたときは『なぜ自分が』と驚きました」と藤井。制御系一本でやってきた人間が、パワー系から制御系から何でもありのロボットの世界でどこまで通用するのか-、そんな驚きと新しい挑戦を前に身震いするようなワクワク感を覚えたという。

藤井が異動するまで、試作回路板の設計は山下が担当していた。新たに開発するコントローラ「CR800-R/D」は方針会議で、既存の顧客がコントローラだけを置き換えることも想定し、「Fシリーズ」のコントローラと同じサイズにすることが決定していた。「Fシリーズ」のコントローラには430×425×174mmの「CR750-Q」と430×425×98mmの「CR751-Q」の2機種があったが、双方の置き換えニーズに対応するためには、小さいほうの「CR751-Q」にサイズを合わせなければならない。

前述したように処理能力を上げるため、「CR800」は自社開発のデュアルコアCPUを2個使用したクアッドコア構成にする方針も決まっていた。これは「セーフティ」機能を実現することに加え、サイクルタイムを半減、すなわち処理速度を2倍に向上することも狙いの1つだったからだ。このためハード開発チームは、性能を前モデルより向上させつつ、前モデルと同等以下の小型ケースの中に電子部品を押し込める設計を強いられることになる。

開発チームの多くのメンバーには無理難題に見えたが、山下は、「なんとかなりそうだ」と感じた。「回路板を小型化するには、電子部品の選定やレイアウトに着目されがちですが、実は鍵となるのがフロントローティングです。いかに回路設計を工夫し、基板シミュレーションで事前検証を実施するか。これらをしっかりと行なえば、適切な電子部品を効率よくレイアウトできると考えました。ですから第一印象としては、大丈夫だろうと思ったのです」。

というのも山下は、狭い空間に数多くの電子部品を詰め込まなければならない小型家電製品の回路板開発を何度も経験していたからだ。それでも心の底に、「何か問題が起きなければいいが」という思いもよぎったと、山下は打ち明ける。

山下は方針会議から半年ほどで、回路板の試作を終えた。試作回路板は、まずハードウエアチーム内で動作の評価を行う。藤井が開発第一課に異動したのは、ちょうどそのタイミングだった。そして山下の設計した回路板を見て「まさに職人技」と感服したのだった。

2週間で
なんとかしなければならない

藤井が回路板設計を引き継いだ直後、山下の危惧したとおり、ある問題が発生した。狭い空間の中、ノイズの発生源であるインバータの回路板と近接したCPUの回路板がノイズの影響から、ある特定の条件下になると、どうしても安定稼働できないという事象が起きたのだ。これは小型化を突き詰めたがゆえに生じた問題ともいえる。

同じ回路板とはいえ、藤井がそれまで携わってきたCNCとロボットでは全く違う。それでも藤井の過去の経験・知見を知っていた山下は、力を合わせれば解決できると確信していた。「2週間でなんとかしなければならない」。未経験の世界で困難な問題であることは明らかだったが、藤井は自分を信じて共に乗り越えていこうと声をかけてくれた山下に心を奮い立たせた。「達成困難な目標であっても、社外からきた技術者の知識とNCで培った経験、人脈をフル稼働させれば解決できるはずだ、と前向きな気持ちで取り組みました」と藤井は語る。

「ただ、山下さんが試作した回路板はすごくきれいに設計されており、まるで“絵”のような仕上がりで、ムダが一切ないように見えました。ですから自分の考え通りに修正したら、かえって悪い方向にいくのではないかと危惧する自分がいたのも事実です。ノイズ対策はCNC開発では経験しなかったものの見当はつきました。ただパワー系が混在し、かつ整然と配線された中で、ノイズ対策による影響を最小限に留めるには、どこにどう当てはめればよいのかを考えてしまいました」

それでも藤井は山下と相談を重ねながら、美しい絵画を少しずつ切り崩していく感覚で問題の修正に取り組んだ。そして山下が掲げた期限の2週間で、なんとか改善をなし遂げたのだった。

ハード開発チームはこのCPU基板に加え、インバータやコンバータ、I/0など6種類の回路板を新規設計しなければならない。全ての回路板が完成したのは、開発が始まってから約1年半後の2016年夏のこと。「MELFA FRシリーズ」の発売は2016年11月と決まっていたため、「その後の量産設計を考えると、発売にギリギリ間に合う時期でした」と山下は言う。

しかし、開発チームがほっとできたのは、ほんのつかの間のことでしかなかった。

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