Factory Automation

情熱ボイス

より高みを目指せ!ロボット愛あふれる技術者たちの挑戦の物語~キーワードは「インテリジェンス&
インテグレーション&セーフティ」~

2018年3月公開【全3回】

第3回
最初の品質評価試験の結論は「NG」最初の品質評価試験の結論は「NG」

「はたして品質評価試験は予定通りに進むのだろうか」

ロボット製造部品質保証課専任の大谷進は、カレンダーに目をやりながら気をもんでいた。2016年夏のことである。

2016年11月に予定されている「MELFA FRシリーズ」の発売が迫っていた。本来はもっと早く品質保証部に試作機が持ち込まれるはずだったが、開発は遅れ気味だったのである。開発プロジェクトの会議に出席するなどして進捗状況は把握していた大谷だが、やはり秋が近づくにつれ焦りを感じ始めていた。

“第三者”の目
厳しくチェック

1992年に入社した大谷は、当初ロボット製造部に配属され、10年ほどロボットの組み立てを経験した。機械が好きで、特にロボットは大好き。「ロボット製造部もロボット好きばかりで、一番人気はやはりガンダムでした」と笑う。

品質評価を行う品質保証課に異動後は、歴代のロボット「Sシリーズ」「SD/SQシリーズ」「Fシリーズ」などの評価を担当。今ではベテランの評価者としてロボット製造部のメンバーから高い信頼を得ている。

品質評価は、ハードやソフト、さらには両者を組み合わせたシステムの評価も行うため、担当者は技術的な内容はもちろんのこと、使い勝手といったヒューマンインタフェースに関することまで、ロボットに関する“全て“を知らなければならない。“分からないことがあったら評価の人に聞け”といわれるほど開発者たちから頼りにされている部門だが、それだけに勉強は怠れない。大谷は日頃の勉強に加え、ロボットの使用状況や使用環境の情報収集のため積極的に顧客企業へ出向くなどして、知識を蓄えていった。

2016年9月。大谷のもとにようやく「FRシリーズ」の試作品が届く。11月に発売するために残された品質評価期間はわずかしかない。

しかし当然のことながら大谷は、発売に間に合わせるため評価をおざなりに済ませることはしなかった。「私自身も開発プロジェクトの一員のような立場ではありますが、品質評価に関しては仲間気分を持ち込んではいけません。“第三者”の目で厳しくチェックしました」

そして、大谷が出した結論は、「NG」だった。

まずハード面では、ノイズ対策が不十分だった。インバータからのノイズ対策は施したつもりだったが、原因はそれだけではなかった。ロボットアームとコントローラを結ぶケーブルは従来、動力線と信号線の2本を使用していたが、ユーザーが現場で取り扱いやすいように1本にまとめたことで、ノイズが回り込むという問題も発生していたのである。

「ノイズ対策において、前モデルの“同等以上”が必ず達成すべき基準と考えていましたが、残念ながらその基準を満たしていませんでした」と大谷は説明する。

さらには、モータブレーキの発熱問題も発生した。人と安全に協働する際にも必須となるモータブレーキの発熱が想定以上であったのである。これでは、ブレーキの発熱によってモータを過熱し、寿命が短くなってしまう。制御回路とソフトを改良することで高寿命化を図らなければならないと判断した。

もう一点、使い勝手の部分でも大谷は満足できなかった。「目標としていたのは、スマートフォンのように、取扱説明書を見なくても操作できるような使い勝手の良さです。前シリーズに比べれば大幅に改善されていましたが、私はまだまだ十分ではないと思いました」

使い勝手の評価は難しいと大谷は強調する。ロボットに精通した技術者の評価のみでは、“お客様の気持ち”が分からないからだ。そのため大谷は、日頃よりロボットのシステムアップを手がけている三菱電機システムサービスの担当者に実際に触ってもらうなどして、念を入れたチェックを行った。

発売時期を
2017年3月延期

ソフトおよびハードの開発部隊は大谷からのフィードバックを受け、早速改良に取り掛かった。しかし、11月の発売に間に合わないことは明白となった。プロジェクトリーダーの村田は、その時の心境をこう振り返る。

「従来はハードで実現していた安全回りの機能も最近はソフトで、という方向に変わってきたので、必然的にソフト開発の負担は増えています。今回の開発でもソフト面での改良が膨大な量になったため、ソフト開発の遅れも仕方ないことだと思いました」

村田がその状況を上司に説明すると、その上司は良い製品を世に送り出すためにプロジェクトが遅れることに理解を示してくれた。「遅れているなら、延期すればいいじゃないか」。

上司と話し合って決めた、新たな発売時期は2017年3月。村田はほっとすると同時に、「もう延期は許されない」と覚悟を決めた。そして、その決定を開発プロジェクトのメンバーに告げる。

村田の覚悟はプロジェクトチーム全体に伝わったようで、9月から年末にかけてソフトチームもハードチームも、急ピッチで改良作業に取り組んだ。試作機が完成したら大谷に送って評価し、さらに改良を重ねる。そんなやり取りを繰り返しながら課題を一つひとつ解決し、完成度を高めていった。

そして年が明けた2017年1月。「FRシリーズ」の試作品は、品質評価を無事クリアする。そして2月の現品会議で、発売に向けてのゴーサインが出されたのである。

ともあれ安心したのは、リーダーの村田だ。現品会議の直後、上司から「1週間ほど休暇を取ってもいいぞ」と勧められ、すっかりその気になった。しかしながら、結果的には思わぬ形で1週間の休養に入る羽目になる。

“三菱電機のロボット開発史上初のソフト系プロジェクトリーダー”というプレッシャーをずっと背負ってきた村田は、そのプレッシャーから解き放たれて気が緩んだせいか、インフルエンザにかかってしまったのだ。貴重な1週間の休みは、残念ながらインフルエンザから回復するための時間に充てるしかなかった。

新人の強みを生かして
カタログを作る

開発チームのほとんどがようやく一息つけるようになった頃、忙しさの本番を迎えたメンバーがいる。それが、営業部ロボット課の菅原陸だ。

菅原は2015年に入社したばかりの新人だった。「さまざまな業種のユーザがいるから」という理由でFA部門の営業を希望し、その希望通りロボットの営業担当になった菅原に、「FRシリーズ」のカタログを完成させるという大きなミッションが与えられていたのである。

菅原は新人だからこそのカタログを作ろうと決意した。

「カタログは開発メンバーと一緒に作るのですが、専門家の目線だと難しい用語がたくさん並んでしまいます。それを“初心者目線”で噛み砕き、食品メーカーなどこれまでロボットを使ったことのない業界のお客様にも分かりやすいカタログ作りに注力しました。新人で経験不足に加え、初めての経験なので大変でしたが、なんとか思ったようなカタログが完成したと思います」

2017年3月31日。三菱電機は「FRシリーズ」を発売した。ロボットが大好きな技術者たちが、ソフト・ハード・品質評価の各部門でそれぞれの役割を果たしつつ、円滑なコミュニケーションで団結し、「インテリジェンス(次世代知能化)」「インテグレーション(FA-IT連携)」「セーフティ(安全・人協働用途)」というコンセプトを実現。ついにプロジェクトを完遂させたのだ。

発売後、営業担当として顧客訪問などで飛び回っている菅原は、「ここ名古屋製作所のショールームである『FAコミュニケーションセンター』を訪れるお客様も増えています」と、手応えを感じている。「FRシリーズは初めて関係した開発プロジェクトですから、とても深い愛着を感じています」。菅原もまたロボット好きに育ちつつある。

プロジェクトリーダーを務めた村田は「さらに多様な分野で自動化に活用してもらうため、AIも積極的に取り入れるなどしてロボットをいっそう進化させていきたい」と抱負を語る。ロボット好き集団の今後の活躍に、村田自身も大いに期待を寄せている様子だった。

文:斉藤 俊明
写真:吉見 政秀

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