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情熱ボイス GOT篇 GOTから「FA機器の未来」が見えた! 1 「おんぶにだっこ」から卒業したい 情熱ボイス GOT篇 GOTから「FA機器の未来」が見えた! 1 「おんぶにだっこ」から卒業したい

2年余りの産休と育休からHMIシステム部に復帰した関山愛
が最初に耳にしたのは、上司の自虐めいた言葉だった。

「GOTは、シーケンサおんぶにだっこだから」。

「GOTは、シーケンサおんぶにだっこだから」。

関山は産休に入る前、営業部コントローラ課でシーケンサの販売促進に関わっていた。生産現場のシステム全体を制御するシーケンサは、FA機器のいわば花形。それに比べれば確かにGOTは花形とは言えないかもしれない。シーケンサの部門で仕事をしてきた関山に、上司はGOTの立ち位置を最初に伝えたかったのだろうが、それにしてもひどい言われ方と思ったという。

しかしその言葉は、GOTの現状を的確に表したものだった。機械の動作状況を表示するとともに、その画面上で操作も可能なGOTは、機械の「顔」としてユーザとの接点になる機器。

情報が映ればいい、操作できればいい
色もいらないというのが、GOTのユーザの声でした」

HMIシステム部HMIソリューショングループ専任の一柳克正は言う。

最低限の機能しか必要とされないのでは、他社との差別化が難しい。しかも表示器の分野では三菱電機は後発メーカー。先行する競合他社に追いつくためには他社にないユニークな機能が必要だが、そもそもそうした機能を求められていないのでは打つ手がない。

「親和性」だけでは限界がある

一方でPLCの分野では、三菱電機のシーケンサは圧倒的な存在感を誇る。シーケンサにつないで使うGOTを開発するうえで、そのノウハウは他社にない強みになる。三菱電機のシーケンサを一番知っているのは三菱電機自身だからだ。そこでHMIシステム部のチームは三菱電機のシーケンサとGOTを組み合わせた際の親和性を前面に打ち出してきた。

その効果もあって三菱電機のGOTは徐々にシェアを拡大し、今では先行する競合他社と肩を並べるまでに至っている。しかしシーケンサとの親和性をもとにした機能は、GOTのチームだけで実現できるものではない。親和性を生かして実現したGOTの機能の一つに、シーケンサの情報をGOTのUSBインタフェース経由で取得可能にするトランスペアレント機能があるが、それはシーケンサのチームが開発した追加ソフトによって実現したもの。GOTのチームが中心となって動いて実現したわけではなく、主役はむしろシーケンサの方だった。シェアは高まっても、結局「シーケンサにおんぶにだっこ」状態であることには変わりなかった。

キラーアプリをつくれ!

シェアを拡大しつつあるといっても、ユーザが装置メーカーに指名するようなGOTを目指さなくては、ユーザから価値を評価された製品とは言えない。

キラーアプリを作れ!」それがGOTの開発チームに以前から課されていた命題だった。

それを聞くたびに、チームのメンバーは「そんなの分かってるって…」という思いだったという。ユーザが最低限の機能しか求めていない、すなわちアプリそのものが評価されないのがGOTの現実であり、それが開発チームを悩ませてきたからだ。

理想と現実がかみあわない。新しいGOT2000シリーズの開発は、打つ手がない「手詰まり感」の中で始まった。

ユーザニーズを生み出すような新たな機能を

ニーズがないなら呼び起こせばいい。GOTのハードウエア開発を担当するHMIシステム部HMIハードウエア開発課専任の桑森心平は、ユーザニーズを生み出すような新しい機能を開発できないかと考えた。今あるニーズを満たすことだけを考えていたのでは、現状は変わらない。

桑森はある意味「賭け」に出たのだ。

ニーズに先駆けて実現する機能として、桑森は同時に複数の指で操作する「マルチタッチ」を選択した。

もともと計器やスイッチの代わりに登場したGOTは、指で押す操作ができれば事は足りるが、スマホのようなことができれば操作性を高めることができるのではないか。スマホの普及によりマルチタッチが一般化してきている今、ひょっとしたら他社も同じことを考えているかもしれない。他社に先駆けることができれば、大きな差別化要因になるはずだ。

ニーズに先駆けて実現する機能として、桑森は同時に複数の指で操作する「マルチタッチ」を選択した。もともと計器やスイッチの代わりに登場したGOTは、指で押す操作ができれば事は足りるが、スマホのようなことができれば操作性を高めることができるのではないか。スマホの普及によりマルチタッチが一般化してきている今、ひょっとしたら他社も同じことを考えているかもしれない。他社に先駆けることができれば、大きな差別化要因になるはずだ。

とは言うものの、やはりマルチタッチがユーザにとって効果的な機能かどうか、桑森には確たる自信はなかった。桑森は社内の各部門を駆け回り、マルチタッチが効果的な使い方の洗い出しにかかった。

すると
こういう使い方したいって声あったよ」
こんな機能あればいいんじゃない?」

など、いろいろな声が上がってくる。

意外に使い道あるじゃないか」。

マルチタッチへのニーズは、表には見えなかっただけで潜在的にはあることを桑森は確信。その後の開発を一気に加速させた。

ところが今度は新たな問題が浮上した。

マルチタッチが可能なタッチパネルとして抵抗膜方式があるが、すんなり採用というわけにはいかなかった。パネル内の物理的な接触をもとに位置を検出する抵抗膜方式では、マルチタッチで触れた2点の間が極端に狭いと、位置が誤って検出される恐れがある。それが、スマホの静電容量方式に慣れたユーザに受け入れられるかは定かではない。ユーザの操作性を損なわない範囲で誤操作を防止するには、どのような仕様と制御が必要か、その部分に桑森は多くの時間を費やした。仕様を確定させる作業は、量産開始の直前まで続いたという。

FAの殻を破らなければ変われない

ユーザも意識していない新機能をGOTに盛り込む取り組みは、GOTの外観でも進められた。一つはワイドモデルの企画だ。GOTは従来、正方形に近い画面を持つものが大半だったが、PCやテレビはワイド画面化が進んでいる。その流れにGOTも乗ることにした。ワイド画面化により一度に表示できる情報量は増え、左側には固定のボタン、右側にはそのボタン操作に応じた画面を表示させたりなど、画面のレイアウトの自由度が高まり、使い勝手も向上するに違いない。

細かい工夫も施された。GOTのベゼル(縁)にテーパー加工を施したのもその一つ。ベゼルを手前方向に斜めにカットすることで、ベゼルの上に埃や水がたまらないようにするためだ。ちょっとした工夫ながら、厳しい衛生管理が要求される食品工場などに好評だったという。

しかしこれらの工夫も、従来からのFAの範疇を超えたものではない。今までと同じFAシステムのデバイスの一つという位置付けでは、花形的存在のシーケンサの影に隠れたままだ。GOTが花形になれるような機能と用途を開拓しない限り、「おんぶにだっこ」構造から本質的に抜け出すことはできないのである。

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