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情熱ボイスVol.9  インバータ編 時代を先取るために “常識” という壁を乗り越える!第1回 「ミドルレンジモデル」の枠を敢えて壊す 情熱ボイスVol.9  インバータ編 時代を先取るために “常識” という壁を乗り越える! 第1回 「ミドルレンジモデル」の枠を敢えて壊す

2016年春から始まったFREQROL-E800シリーズの開発プロジェクト会議は、
不思議な方向に進み始めていた。いろんな要件や報告が次々と俎上に上がっていくうちに、
自分たちが論議しているのは

本当にミドルレンジのEシリーズの話なのか、
分からなくなってきたのだ。

2016年春から始まったFREQROL-E800シリーズの開発プロジェクト会議は、
不思議な方向に進み始めていた。いろんな要件や報告が次々と俎上に上がっていくうちに、
自分たちが論議しているのは

本当にミドルレンジのEシリーズの話なのか、
分からなくなってきたのだ。

三菱電機のインバータ「FREQROL」は、大きく分けて4つのシリーズがある。ハイエンドモデルであり、高機能・高性能のAシリーズ、それに次ぐ機能・性能を持つファン・ポンプ用途に最適なFシリーズ、ミドルレンジのEシリーズ、ローレンジのDシリーズの4つだ。このうちミドルレンジのEシリーズの現行モデルであるE700が発売から約10年経過したことから、後継モデル発売に向けた開発プロジェクトが社内で進んでいた。

プロジェクトを率いた田中哲夫は、2014年1月に発売したハイエンドモデルA800/F800シリーズ開発に続いてのリーダー役。ようやくA800/F800シリーズの発売にこぎ着けた後は「しばらくはゆっくりできるかと思っていた」(田中)ものの、その暇もなく新しいEシリーズも任されることになり、2016年から先行して具体的な製品企画に入っていた。

大規模な設備で複数台モータの高精度な制御などに使われるハイエンドモデルのA/F800シリーズと違い、ミドルレンジモデルのEシリーズは比較的シンプルな設備で使われることが多く、高機能化・高性能化といったキーワードとは無縁と思われてきた。しかしEシリーズの現行モデルE700の販売を続けた約10年の間に、インバータを取り巻く環境は大きく変化していた。ネットワークでつなぐことは当たり前になり、IoTは実用段階に入っていた。AI、予知保全など新しい技術への期待も高まっている。

ミドルレンジモデルとは言え、こうしたトレンドとは無縁ではいられない。

それ以上に変わったのはグローバル市場での位置づけだ。国内市場だけ考えれば十分というわけではなくなり、最初からグローバル市場も見据えた製品開発が、インバータに限らずFA製品全体に求められている。

グローバル市場でお客様を魅了するインバータには何が必要か。2016年春、田中を始めとした開発プロジェクトメンバーは従来のEシリーズの枠にとらわれることなく、必要な機能・性能を盛り込み、たたき台となるコンセプト仕様を作っていった。

例えば、世界各地で普及している主要な産業用イーサネットプロトコルへの対応。それも、インバータ内部に複数プロトコルを搭載し、簡単なパラメータ設定のみでプロトコル変更が可能になるというもの。さらに、従来ならお客様自身がマニュアルを見ながら特定しなければないアラーム発生要因を、AIで解析することによりダウンタイム削減に貢献するという、よりユーザフレンドリーな製品を目指したいと考えた。いずれも業界初の機能である。

その他にも、設置環境が厳しい腐食性ガスを含む環境への対応など様々な機能・性能含み、ミドルレンジモデルとしては、若干盛り込み過ぎな仕様だったが、田中は後で自然と調整されるだろうと思っていた。

設計者が作ったE800のコンセプト仕様をもとに、2016年10月から国内外の主要なお客様40数社へのヒアリングが始まった。E800の具体的な仕様は、お客様からの反応を見て決めることにしている。

グローバルでNo.1になれる時代が来る!

お客様からの反応はいずれも良好なものだった。

特に欧米を中心とする海外市場のお客様は、
田中らが作ったE800のコンセプト仕様を絶賛した。

特にマルチプロトコルや機能安全が高い評価をいただいた。グローバル市場の中でも特に欧米市場は、三菱電機インバータのこれからの挑戦が求められる市場。そのお客様が高く評価してくれるのは、グローバル市場でのシェア拡大をミッションとするプロジェクトメンバーにとって何より心強い。

「これでグローバルNo.1になれる時代が来ますよ!」。

海外のお客様巡回で確かな手応えを得た営業部インバータ課の下村啓悟は、帰国後その手応えをマーケティング会議で熱く語った。入社以来、海外市場の営業企画に一貫して携わってきた下村は、国内では様々なお客様に高い評価を頂いている三菱電機のFA製品が、海外で評価頂けないケースを見てきた。その下村にとって、いま計画中のE800は救世主的存在に見えたのだ。

しかし下村が会議で熱弁を振るう一方で、田中は少しとまどっていた。ヒアリング用に作ったE800のコンセプト仕様は、敢えて機能・性能を多めに盛り込み、その中で何をセレクトしていくかを討議するつもりだった。つまり、コンセプト仕様のままでの製品化はないと思っていたからだ。もしコンセプト仕様通りE800を製品化した場合、それはとてもミドルレンジモデルとは言えない高機能・高性能なものになり、ハイエンドモデルであるA/F800シリーズと差別化できなくなる。ネットワーク関連の機能などになると、部分的に逆転現象さえ起きているほどだった。

海外のお客様が絶賛するという嬉しい報告にも田中が今ひとつうなずけない理由はそこにあった。

しかし下村が会議で熱弁を振るう一方で、田中は少しとまどっていた。ヒアリング用に作ったE800のコンセプト仕様は、敢えて機能・性能を多めに盛り込み、その中で何をセレクトしていくかを討議するつもりだった。つまり、コンセプト仕様のままでの製品化はないと思っていたからだ。もしコンセプト仕様通りE800を製品化した場合、それはとてもミドルレンジモデルとは言えない高機能・高性能なものになり、ハイエンドモデルであるA/F800シリーズと差別化できなくなる。ネットワーク関連の機能などになると、部分的に逆転現象さえ起きているほどだった。

海外のお客様が絶賛するという嬉しい報告にも田中が今ひとつうなずけない理由はそこにあった。

「やらない手はないだろう」

その田中の背中を押したのは、営業部インバータ課長の水口剛だった。

「田中、やろう。こんなにお客様が期待してくれているんだ。やらない手はないだろう」。

カニバリズムで一番影響を受けるのは、製品を売る営業部門だ。個々の製品の位置づけを壊してしまうと、売り方が分からなくなってしまう。田中はそれを懸念していたのだが、まさか営業の方からの後押しを受けるとは思っていなかった。今までの枠組みを一度壊してでも、E800はコンセプト仕様を実現すべき。それだけ営業部門からの期待が大きいならば、その期待に応えなければならない。

しかし実現にはもう一つ、超えなければならないハードルがあった。当初E800の発売開始は2019年4月を念頭に置いていた。ただしそれはE800をミドルレンジモデルという従来の枠組みの中で開発した場合の話。コンセプト仕様通りの先進機能・性能を盛り込もうとすれば、到底その開発期間では収まらないことは目に見えていた。少なくとも1年以上は発売を延ばさざるをえない。

水口は本社の事業部門へ向かった。E800は開発も営業も十分納得行くものを作りたい。そのためには発売を遅らせる必要があることを理解してもらうためだ。しかし本社はこの申し出に難色を示した。

「ただでさえ現行モデルは発売から10年経っているんですよ。それをさらに延ばすなんて。その間も製品競争力はどんどん落ち、当社インバータを長年使って下さっているお客さまの競争力も落ちるんですよ」。

本社が難色を示すのはもっともだった。IoTで製造現場に日々急激な変化が進んでいる今の時代に、発売延期は致命的とも言える。やはりスケジュール優先で機能はそこそこに留めるべきなのだろうか。水口は一時その方向に傾いていた。

「ただでさえ現行モデルは発売から10年経っているんですよ。それをさらに延ばすなんて。その間も製品競争力はどんどん落ち、当社インバータを長年使って下さっているお客さまの競争力も落ちるんですよ」。

本社が難色を示すのはもっともだった。IoTで製造現場に日々急激な変化が進んでいる今の時代に、発売延期は致命的とも言える。やはりスケジュール優先で機能はそこそこに留めるべきなのだろうか。水口は一時その方向に傾いていた。

発売延期に本社が付けた条件

それでもあきらめずに後押しを続けてくれたのは、やはり下村だった。時代を先取る機能を用意できるのに、みすみす見送るようではいつまでもグローバル市場でのし上がることはできないだろう。本社から戻った水口に対して、下村が発売時期よりもお客様が期待する仕様を優先させるべきと再度主張した。そこで水口・下村は設計に掛け合い、仕様変更なく開発スケジュールを短縮するよう申し入れた。新機能の開発もありリスクはあるものの、当初スケジュールからの前倒しの見通しがたった。

設計・下村の後押しもあり腹を決めた水口は再び本社事業部門にかけあった。水口の熱意が通じたのか、本社は条件付きで発売の延期を承認。

その条件とは、E800の発売開始から製品が軌道に乗り、市場に受け入れられるまでに要するスパンを最大限に短くすること。すなわち、
「発表後の垂直立ち上げ」だった。

発表と同時にフルパワーで営業活動を展開できれば、延期の影響は多少なりとも抑えられる。

こうしてE800の発売時期の延期は正式に決定された。E800の発売開始は、「2019年4月」から「2019年12月」に改められた。

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