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情熱ボイス インバータ篇 時代を先取るために“常識”という壁を乗り越える! 第2回 最先端の技術を製品化する 情熱ボイス  インバータ篇 時代を先取るために“常識”という壁を乗り越える! 第2回 最先端の技術を製品化する

2017年4月、E800の開発プロジェクトに新たなメンバーが加わった。生産システム推進部の北村裕だ。北村は生産技術者として、サーボモータの生産ライン構築などに携わった経験を持つ。インバータではA800/F800シリーズのパワーモジュールの生産ライン設計を担当した北村に、新たな担当業務としてアサインされたのが

2017年4月、E800の開発プロジェクトに新たなメンバーが加わった。生産システム推進部の北村裕だ。北村は生産技術者として、サーボモータの生産ライン構築などに携わった経験を持つ。インバータではA800/F800シリーズのパワーモジュールの生産ライン設計を担当した北村に、新たな担当業務としてアサインされたのが

E800の生産自動化だ。

ただ北村はメンバーに加えられた際、いつもと少し勝手が違うことに気づいた。通常、生産技術者が参画するのは、製品設計がほぼ固まった後。設計情報に基づいて製品の製造方法を検討するのが生産技術者の役目だからだ。しかし北村が参画した時点では、E800は製品設計どころかコンセプトさえまだ十分固まっていなかった。自動機での組み立てを前提とする小型のパワーモジュールでは、製品設計前から生産技術者も参画することはあるが、今回E800で自分が担当するのはインバータユニットの生産自動化という。人が手作業でも組み立てられる作業の自動化を、製品設計段階から検討する必要はあるのだろうかと疑問に思ったのである。

北村をこの段階から開発プロジェクトに呼んだのには理由があった。一つはE800の高機能・高性能化の代償として発生するコスト増加や生産性低下を、生産自動化により解決するため。もう一つは、田中が中国現地のお客様の前で悔しい思いをした経験があったためだ。

E800の生産自動化だ。

ただ北村はメンバーに加えられた際、いつもと少し勝手が違うことに気づいた。通常、生産技術者が参画するのは、製品設計がほぼ固まった後。設計情報に基づいて製品の製造方法を検討するのが生産技術者の役目だからだ。しかし北村が参画した時点では、E800は製品設計どころかコンセプトさえまだ十分固まっていなかった。自動機での組み立てを前提とする小型のパワーモジュールでは、製品設計前から生産技術者も参画することはあるが、今回E800で自分が担当するのはインバータユニットの生産自動化という。人が手作業でも組み立てられる作業の自動化を、製品設計段階から検討する必要はあるのだろうかと疑問に思ったのである。

北村をこの段階から開発プロジェクトに呼んだのには理由があった。一つはE800の高機能・高性能化の代償として発生するコスト増加や生産性低下を、生産自動化により解決するため。もう一つは、田中が中国現地のお客様の前で悔しい思いをした経験があったためだ。

自動化機器の生産が自動化できていない矛盾

田中は2006年から3年間、中国の現地法人に駐在し、中国市場でのインバータの拡販業務に取り組んだことがある。ある日、田中は中国現地のお客様を工場に招き、プレゼンテーションなどを行った後インバータの生産現場を見学してもらった。田中のプレゼンはインバータなどFA製品を使用することにより、お客様設備の生産自動化がどのように進み、どんな効果をもたらすかを説くもので、中国現地のお客様は田中のプレゼンに納得し、理解を示してくれた。その後生産現場を見学した中国現地のお客様の何気ない一言が田中を突き落とした。

「ここでは手作業で組み立てているんですね(中国語)

田中は顔から火が出る思いだった。その当時の当社インバータの製造工程は、ほとんどの工程が手作業であったので、直前のプレゼンで生産自動化の効果をあれだけ説いておきながら、説得力に欠けるのではないか。

中国駐在を終え帰国した田中は、インバータの生産自動化に取り組むことにした。しかしハイエンドモデルであるA800/F800シリーズは、E800より生産数量が少ないため、本格的に自動化を追求するならば、ミドルレンジモデルで生産数量が多いEシリーズからだろう。E800の開発は、田中にとって、中国駐在時代の雪辱を果たせる待ちに待ったチャンスだったのだ。

田中は北村を早期から開発プロジェクトに参画させることで、製品設計の中に生産自動化に必要な仕様を盛り込むことを目指した。最初から生産自動化を想定した製品設計をしないと、生産自動化が実現できなくなると考えたのである。北村も田中の期待に応えるように、生産技術者の立場から製品設計者に意見を述べていったが、時に両者の利害は衝突した。

「基板を固定するこのネジとこのネジ、同じにできませんか?
ロボットが同じドライバーで締められるようにしたいんですよ」。

田中は北村を早期から開発プロジェクトに参画させることで、製品設計の中に生産自動化に必要な仕様を盛り込むことを目指した。最初から生産自動化を想定した製品設計をしないと、生産自動化が実現できなくなると考えたのである。北村も田中の期待に応えるように、生産技術者の立場から製品設計者に意見を述べていったが、時に両者の利害は衝突した。

「基板を固定するこのネジとこのネジ、同じにできませんか?
ロボットが同じドライバーで締められるようにしたいんですよ」。

「うーん、そのネジ大きいから、ここで使うと部品と干渉するから無理だなあ」。

生産技術者と設計者、それぞれ目指すものが異なるのだから、意見がぶつかるのは当然だ。しかしそれでも最終的にはお互いが納得できる結論に落ち着くのが常だった。

「時代を先取るインバータを作る」という大きな目標では
共通していたからだ。

田中もそんな生産自動化検討に励む北村をバックアップした。実は田中も密かに生産自動化のための手を打っていた。コネクタメーカーと共同で、生産自動化に最適なコネクタをあらかじめ開発していたのだ。ロボットによりコネクタを差し込む作業は、瞬間的な力の制御が必要なため生産自動化を実現するのが難しい作業の一つだ。北村もコネクタ接続は人の作業を残さざるを得ないと思っていたが、田中が先回りして解決策を用意してくれていた。

「ここまでやってくれているのなら、中途半端な自動化はできない」。

北村は気持ちを新たにし、生産自動化に向けて設備設計に没頭した。最終的に自動化率は、従来のE700から大幅に高めることができた。

前例のないスケジュール

もう始めるんですか? 発売は12月でしたよね?」

営業部でインバータの販促を担当する井上賀世子は、上司からの指示に当惑した。指示は、E800の販売に必要なカタログなどの販促ツール制作を始めろというものだった。季節はまだ2019年が明けたばかり。発売までまだ10か月以上あるにも関わらずである。

もう始めるんですか? 発売は12月でしたよね?」

営業部でインバータの販促を担当する井上賀世子は、上司からの指示に当惑した。指示は、E800の販売に必要なカタログなどの販促ツール制作を始めろというものだった。季節はまだ2019年が明けたばかり。発売までまだ10か月以上あるにも関わらずである。

通常、インバータの新製品では、販促ツールの制作は広報発表の数か月前から開始するもの。広報発表の時期が近づく頃には、製品仕様は完全に固まるからだ。その広報発表は、これまで発売の直前に行われていた。実際2014年7月に発売されたF800の場合、広報発表は発売の半月前だった。

しかし今回のE800は発売の3か月も前、2019年9月に広報発表を行う計画が立てられていた。しかも販促ツールはその広報発表に間に合わせて作らなくてはならないという。前例のないスケジュールに井上が驚くのは無理もなかった。

営業部が販促ツールの制作を急いだのは、本社事業部が発売時期の延期と引き換えにつけた条件「発表後の垂直立ち上げ」を遂行するためだ。これまでインバータの新製品が発売から軌道に乗るまで最低でも半年はかかる。だが発売を遅らせた製品で同じことはできない。そこで発売の3か月前に発表し、同時に営業活動をトップスピードに乗せる。そのためには販促ツール制作という助走を早くから始める必要があったのだ。

ただツール制作は簡単に前倒しできない事情がある。前倒しすればするほど、製品の仕様変更に対応できないリスクが高まる。つまり販促ツールの制作段階で仕様はフィックスされなければならない。設計や開発の部門はそれをいやがるため、今まで広報発表は発売の直前だったのだ。

いやがることを敢えて強いる役目を、井上は担うことになった。気が重くなる中、設計者を急かす日々が続いた。開発現場に入り浸って、そこで行われる議論に耳を傾けながら制作中のカタログの校正紙に赤を入れる。一方で社内関係者から戻ってくる多数の赤が入った校正紙とも格闘した。広報発表とも連動するため、強調するポイントの調整など広報部門との方針すり合わせも必要だった。

それでも、各部門は協力を惜しむことはなく、おかげで井上はカタログを始めとしたツールを、広報発表の時期に間に合わせることができた。

それもやはり「時代を先取るインバータを作る」という大きな目標は、
どの部門も共通していたから
である。

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