情熱ボイス
「時代を先取る」ことで各部門が一致団結し、E800発売に向けた開発プロジェクトは軌道に乗った。しかし本当に「時代を先取る」ためには、お客様のニーズをキャッチアップするだけでなく、最も重要な
「時代を先取る」機能をシーズ志向で生み出す必要がある。
これまでのインバータ開発にてお客様から「キーとなる機能がない!」と指摘を受けた経験がある田中にとっても、目玉となる新機能を企画する重要性は十分承知していた。
「時代を先取る」ことで各部門が一致団結し、E800発売に向けた開発プロジェクトは軌道に乗った。しかし本当に「時代を先取る」ためには、お客様のニーズをキャッチアップするだけでなく、最も重要な
「時代を先取る」機能をシーズ志向で生み出す必要がある。
E800の場合、新しい機能の多くはソフトウェアで実現するため、ソフト開発のメンバーの働きが重要な鍵を握ることになる。ところがそのソフト開発は、新しい機能への挑戦に無理が生じたのか、終始遅れ気味だった。その開発現場に、産休と育休から復帰する形で2019年4月に加わった倉谷希美は、遅れの現状に
「大丈夫だろうか」と不安になったという。
これまでのインバータ開発にてお客様から「キーとなる機能がない!」と指摘を受けた経験がある田中にとっても、目玉となる新機能を企画する重要性は十分承知していた。
E800の場合、新しい機能の多くはソフトウェアで実現するため、ソフト開発のメンバーの働きが重要な鍵を握ることになる。ところがそのソフト開発は、新しい機能への挑戦に無理が生じたのか、終始遅れ気味だった。その開発現場に、産休と育休から復帰する形で2019年4月に加わった倉谷希美は、遅れの現状に
「大丈夫だろうか」と不安になったという。
限られたメモリ容量に新機能をどうやって搭載するか
「時代を先取る」機能の一つとして企画されたのが業界初となるマルチプロトコル対応だ。従来のE700ではネットワークプロトコル毎にオプション基板を準備し、お客様が必要なオプション基板を外付けで追加していたのに対して、E800では予め複数のネットワークプロトコルをインバータ本体に内蔵しておくことにより、お客様が使いたいネットワークプロトコルをパラメータ設定のみで簡単に選択できるようにした。しかも三菱電機が推奨する「CC-Link IE TSN」だけではなく、世界各地で普及している主要な産業用イーサネットプロトコルにも対応できるようにした。グローバル市場の多様性を考えれば、ネットワークプロトコルは、メーカではなく、お客様に決めてもらうべきだと考えた。
その分、インバータ本体に機能を凝縮させる必要がある。特に問題になったのがメモリ容量だ。コストや外形サイズ互換などの設計制約がある中で、これ以上メモリ容量を増やすことは難しい。その中に基本的なインバータの制御プログラムも含めて、どうやって複数のネットワークプロトコルを内蔵させるのか。
設計・営業間での製品企画会議の場で話し合いを重ねた。
技術的に難易度が高いことは理解していたが、グローバルNO,1を目指す中でマルチプロトコルは必須だった。
「マルチプロトコル、やらないわけないでしょ。」
そう念を押されては見送りなど切り出せるわけがない。以来、マルチプロトコル対応は外せない機能として位置付けられ、ソフト開発チームでも是非が取り沙汰されることはなくなった。
一つの機能のデータ取得だけで莫大な時間を要す
AIアラーム診断も業界初となるE800の目玉として位置付けられた機能だった。従来のインバータでは、アラーム発生要因はマニュアルを見ながらお客様自身が考えるものだったのに対して、E800では、アラーム発生直前のインバータの運転情報から、AIで解析することにより、アラーム発生要因の特定をサポートできるようになった。グローバル市場では、お客様の文化、慣習、スキルがさまざまであり、アラームを表示して終わりではなく、もっとユーザフレンドリーな表示にすべきだと考えた。
しかし、インバータとAIはこれまで全く接点がなく、前例となるモデルが存在しない。しかも搭載しようとしているAIは、目標値を持たない教師なし学習のアルゴリズムによるもの。一つひとつの事象から原因推定までのロジックを、自分たちで一から開発・評価しなくてはならない。そのために必要なデータ取得だけで莫大な時間を要し、その分ソフト開発に充てられる時間は減っていった。
金属腐食検知システムもE800の目玉だ。FA製品の中で、特にインバータは設置環境が厳しい場合が多く、例えば、下水処理設備や温泉地でのポンプなど、腐食性ガスを含む環境に設置される場合がある。インバータが腐食性ガスを含む環境に設置された場合、時間の経過とともに、金属腐食が進行し、インバータ内部基板の腐食損傷が生じる可能性がある。これまでは腐食損傷の場合、現場で原因不明の故障品として扱われ、工場に戻されてから故障原因が特定されることが多く、対応が遅くなってしまっていた。現場ですぐに腐食性ガスが原因と分かれば迅速な処置対応が可能になると考え、社内の先端技術総合研究所と共同で、世界初となる金属腐食センサを開発し、金属腐食検知システムとしてインバータに内蔵した。
金属腐食検知システムの開発は試行錯誤の連続だった。発案当初は、これまで品質改善として取り組んできた腐食対策の逆のことをやればいいと安易に考えていたが、金属腐食の評価は、結果が判明するまで毎回数百時間要することもあり、試作して評価する繰り返しに莫大な時間を要した。そして、ソフト開発に充てられる時間はさらに減っていったのである。
倉谷が新たなソフト開発メンバーとして参画した2019年春時点では、遅れは相当なレベルまで拡大していた。
「ソフトだけでは遅れを取り戻せない」と思った倉谷は、
ハード開発メンバーとも連携を取り始める。ハードとソフトの早めの連携により、システム試験の設計手戻りを防げば、スピードアップできるに違いない。
倉谷が新たなソフト開発メンバーとして参画した2019年春時点では、遅れは相当なレベルまで拡大していた。
「ソフトだけでは遅れを取り戻せない」
と思った倉谷は、
ハード開発メンバーとも連携を取り始める。
ハードとソフトの早めの連携により、システム試験の設計手戻りを防げば、スピードアップできるに違いない。
連携は時にはハードの部品レベルにまで及んだ。ソフトの一担当者がハードの部品にまで注文を付けるのは異例だった。さらに倉谷は関係会社との調整にも奔走し、挽回をはかった。
その甲斐あって、ソフト開発は最終的に予定通りのスケジュールに収まるメドがつき、納期遅れは回避できた。
産休と育休明けの倉谷は「家族の理解があったからできたこと」と振り返る。
発売1週間で3,000台以上を受注
2019年9月10日、E800は正式に広報発表されると同時に、営業部門はフル回転を始めた。井上が先行して営業ツールを用意していたことが、ここで功を奏した形だ。12月の発売までは3か月。その間のファーストインプレッションが今後の売上を占うことになる。
市場からの反応はプロジェクトメンバーの期待を上回るものだった。お客様からのサンプル機台の依頼が100台を超えた。通常のインバータ新製品では10数台程度だが、その10倍の依頼が発売前だけで寄せられたのだ。水口と下村は予想を大幅に超えるサンプル機台の手配に追われた。
2019年12月9日、E800は正式発売したが、発売後も勢いは止まらず、当初想定していた受注台数を大幅に上回り、急遽生産計画を倍に見直した。最終的にはE800シリーズ全体で、年間85万台の販売を目指している。
E800のコンセプト仕様に対する欧米のお客様からの高い評価を会議で熱く語った下村は、
「開発は約束を守ってくれた。ならば営業も営業としての約束を守らないといけない」
と今も熱い想いを保ち続けている。
水口も「最近、販売会社から『E800のことになると水口さん熱いね』と言われる」という。前例のない生産自動化に取り組んだ北村や、開発の遅れを必死に取り戻した倉谷も、それぞれの “熱さ” がミッション遂行を可能にしたのである。
それらすべての源は、
「ミドルレンジモデルの枠を敢えて覆す」という熱い想い
でプロジェクトを進めた田中にある。
田中の “熱さ” がプロジェクトメンバー全員に
伝染したこと。
これこそがE800の好調なスタートを実現できた最大の要因なのだろう。
2019年12月9日、E800は正式発売したが、発売後も勢いは止まらず、当初想定していた受注台数を大幅に上回り、急遽生産計画を倍に見直した。最終的にはE800シリーズ全体で、年間85万台の販売を目指している。
E800のコンセプト仕様に対する欧米のお客様からの高い評価を会議で熱く語った下村は、
「開発は約束を守ってくれた。ならば営業も営業としての約束を守らないといけない」
と今も熱い想いを保ち続けている。
水口も「最近、販売会社から『E800のことになると水口さん熱いね』と言われる」という。前例のない生産自動化に取り組んだ北村や、開発の遅れを必死に取り戻した倉谷も、それぞれの “熱さ” がミッション遂行を可能にしたのである。
それらすべての源は、
「ミドルレンジモデルの枠を敢えて覆す」という熱い想い
でプロジェクトを進めた田中にある。
田中の “熱さ” がプロジェクトメンバー全員に伝染したこと。
これこそがE800の好調なスタートを実現できた最大の要因なのだろう。
- 要旨 時代を先取るために “常識” という壁を乗り越える!
- 第1回 「ミドルレンジモデル」の枠を敢えて壊す
- 第2回 大きな目標を共有していたからできたこと
- 第3回 メンバーの「熱さ」が不可能を可能にした