情熱ボイス
【高圧真空遮断器 VF-20E/25Eシリーズ篇】新規格という高き壁への挑戦
2026年4月公開【全3回】
第1回 技術者不足の時代に理想の高圧真空遮断器とは
高圧真空遮断器の次期モデル開発に向けた顧客ヒアリングは、予想外の方向に進みつつあった。顧客である配電盤製作メーカーや製造業などのエンドユーザーが求めてくるのは、機器の「保守性」の向上。小型化や高品質化を追求してきたこれまでの流れと、明らかに違うニーズだったのである。
「従来とは異なる開発マネジメントが必要になる」。次期モデル開発のプロジェクトチームは、当初から前途多難な開発プロジェクトになることを予見していたという。
設備全体を事故から守る高圧真空遮断器
高圧真空遮断器は、高圧の受電設備で電流を適切に遮断する機器である。工場やビルなどの大型施設で電力系統の受電部に近いところに配置され、トラブル時に事故箇所を切り離して、施設内の電気設備への波及事故を防ぐ役目を持つ。具体的には、短絡などで事故電流が発生した際、瞬時に遮断して機器の事故を防ぐのだ。個々の機器など負荷に近いところに配置される低圧遮断器と違い、高圧真空遮断器は多くの設備を束ねる最上流に位置するため、その責任は重く、工場や施設の安定稼働に不可欠な存在である。
三菱電機は、この高圧真空遮断器において業界で高いシェアを誇る。その原動力となっているのが、高圧真空遮断器のキーパーツとも言える「真空バルブ」だ。電流の遮断を宇宙空間並みの真空状態にした容器の中で行うことにより、遮断時に発生するアーク放電を閉じ込めて感電や火災、騒音などを防ぐことができる。

高圧真空遮断器のキーパーツで三菱電機が60年以上にわたって開発してきた「真空バルブ」
三菱電機はこの真空バルブを60年以上にわたって開発してきた実績があり、その信頼性には定評がある。これまでは真空バルブや機器の優れた性能によって高いシェアを維持してきたが、次期モデル開発に向けた調査で明らかになったのは、機器本体の機能以上に「保守性」を重視するユーザーの切実な声だった。
技術者の育成が追いつかない現場
kV(キロボルト)級の高圧電源を扱う高圧真空遮断器は、保守を怠ると事故になりかねない。そこでどのメーカーも適切な保守手順などを定めており、ユーザーも基本的にそれを遵守している。しかし「できる限り少ない人数、少ない手順でこなしたいというニーズが以前にも増して強まっていた」と山田は言う。
次期モデル開発のプロジェクトリーダーを務める山田は、それらの声の裏側に、保守にあたる電気技術者の減少があるのではないかと推察した。高圧の電気設備を扱えるのは十分な技術知識を持つ技術者に限られる。しかし少子高齢化に加えてベテラン技術者の引退が増えている昨今、新しい技術者の育成は追いつかない。営業の武部は「あるお客様の工場では、以前は社内に20人いたはずの電気技術者が、いつの間にか15人に減っていたというケースもあった」と打ち明ける。
技術者が減っても、事故防止のための保守作業を減らすことはできない。その状況では、保守作業そのものの省力化を求める声が強まるのは当然と言える。さらにそれを裏付けるような動きが、電気設備の業界でも進んでいた。技術者の減少を踏まえた業界規格の改定だ。
前提の異なる国際規格が国内規格にも反映
高圧真空遮断器は通常、電気設備を収納する配電盤の中に設置される。安全性を担保するために、電気設備の業界団体である日本電機工業会(JEMA)ではさまざまな規格を定めている。規格の一つに高圧真空遮断器を取り付ける配電盤の規格があり、メーカー各社はこれに準じた高圧真空遮断器を提供してきた。
山田らが顧客ヒアリングを進めていた頃、その規格は業界団体であるJEMAとしての規格から、産業界としての規格である日本産業規格(JIS)に発展させる取り組みが進んでいた。JIS規格化の過程で行われたことの一つが、国際的な標準化団体である国際電気標準会議(IEC)が定める規格の取り込みだ。国際規格に沿うことで高圧遮断器メーカーの国際展開を後押しするためだが、実は保守の省力化も意図していた。
山田は「JEMAとIECの規格では、安全性に対する基本的な考え方や想定する電気技術者のレベルに違いがある」と指摘する。「JEMAでは電気の有資格者が保守・点検するのが前提。一方IECでは電気の知識を持たない作業者が保守・点検を行う場合を想定している」(山田)という。JEMAが対象とする国内では、資格等で技術レベルが担保されており、全てを記述せずとも技術者はその意図を汲み取ることができる。一方でIECが対象とするグローバル市場では、国によって技術レベルにばらつきがあるため、規格には操作を誤り難い構造、感電しにくい構造、万が一操作を誤った場合でも作業者への影響を低減する構造といった構造上の配慮がなければ作業品質を維持できない。それが両者の違いが生じる理由であった。
しかし少子高齢化が進めば、国内でも十分な訓練や経験を積んでいない人材が現場に駆り出されるケースも増えるに違いない。そこで個人のスキルに依存することなく安全性を確保できるIECの規格を参考に、新しいJISの規格が作られようとしていたのだ。ここにも保守の省力化が急がれている業界の事情が現れていた。
「『用意していない』と言うわけにはいかない」
この数年で急速に進んだ生成AIの利用拡大などを背景に、各地でデータセンターの建設が相次いでいる。それに伴い需要が増している高圧遮断器だが、技術者不足の中でこれに応えるには、新しいJIS規格への対応は避けて通れない。しかし、策定中の新規格は大幅な設計変更を必要とすることが予想された。
もちろん、新規格は、すべての機器について最も安全性が厳しいレベルに引き上げることを要求するものではない。JEMA規格に近い形も一部残る予定だ。全項目への対応が販売の必要条件ではないため、必ずしも多大な開発リソースを投じる必要はないのである。
それでもプロジェクトチームは、新規格に対応した高圧真空遮断器を開発する道を選んだ。それを決断させたのは、この分野でトップシェアを誇るメーカーとしての「責任感」だ。「施設を建てるデベロッパーや配電盤メーカーが新規格対応の製品を指定してきたときに、我々が『用意していない』と言うわけにはいかない」(武部)。実際、約20年という製品寿命が尽きるまで三菱電機製の高圧真空遮断器を使い倒し、次も同じ三菱電機製での更新を望むユーザーもいる。そのとき、フルラインアップで揃えていなくては、三菱電機製を使い続けようという彼らの期待に応えることができないのだ。
チームリーダーらの決断のもと、JIS新規格に対応できる高圧真空遮断器の次期モデル開発が始まった。策定が間近に迫った新規格の動向を横目で見ながらの開発である。
