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情熱ボイス

【高圧真空遮断器 VF-20E/25Eシリーズ篇】新規格という高き壁への挑戦

2026年4月公開【全3回】

情熱ボイス 三菱高圧真空遮断器 VF-20E/25Eシリーズ 新規格という高き壁への挑戦 第2回本質的な安全性を追求する

第2回 本質的な安全性を追求する

国内規格と国際規格を統合する形で作られるJISの新規格「JIS C 62271-200:2021」は、高圧真空遮断器を取り付ける配電盤に関する規格だ。安全性に配慮するための規約が各種設けられているが、その中で特に設計に大きな影響を与えそうなテーマが2つあった。

一つは「金属製シャッタの搭載」だ。高圧真空遮断器は、保守などの際に配電盤から引き出せるよう、据え付けの独自の固定枠に収納されている。しかし、遮断器を引き出した状態でも、固定枠の端子には高い電圧が掛かっている場合がある。作業者が誤って手を近づければ、事故を引き起しかねない。これを防止するため、従来の固定枠には、遮断器を引き出したときに樹脂製のシャッタで主回路端子を覆う仕組みが採用されていた。しかし新しい規格では、より安全性を向上させた金属製のシャッタを適用することを求めている。

もう一つは「配電盤の扉を閉じたまま接続を切り離す機構の搭載」である。高圧真空遮断器を配電盤内の主回路から切り離すために扉を開けて作業を行う場合、手順を誤ると端子間に飛んだ高熱のアークを作業者が受けてしまいかねない。配電盤の扉を閉めたまま、外部からの操作で切り離すことができるならば、そうした事故は防げる。そのための機構を新規格は定義していた。

アークを飛ばさない、でも大きさは変えられない

シャッタを樹脂から金属に変えるのは、樹脂製シャッタが高電圧の端子にさらされて帯電することを防ぐためだ。シャッタの樹脂が帯電すると、作業者が手を近づけた場合に感電しかねない。シャッタを金属製にすれば、接地により電気を逃がすことができる。

従来の高圧遮断器で樹脂製シャッタを降ろした状態の画像

従来の高圧遮断器で樹脂製シャッタを降ろした状態。密閉して指が入らないようにしている

だがそれは単にシャッタの素材を変えれば済む話ではなかった。シャッタが金属の場合、十分な絶縁距離を確保しないと端子とシャッタの間にアークが飛ぶ可能性がある。それを防ぐためには、両者の間隔をアークが飛ばないレベルまで広げなくてはならない。しかしそれでは筐体の大型化で従来製品からサイズがかけ離れてしまい、高圧真空遮断器を使用する配電盤メーカーに設計変更など新たな対応を強いることになってしまう。

そうした設計変更も、単に距離を広げればいいという問題ではない。樹脂製シャッタは、シャッタを上下に駆動させる比較的簡素な動作機構で端子をほぼ密閉するような形にできた。しかし金属製シャッタで十分な絶縁距離を取ると、今度は端子との間に作業者の手が入る隙間ができてしまうのだ。誤って触れてしまえば大事故は避けられない。しかもシャッタの可動範囲が固定枠の外形範囲内に収まらなくなってしまう問題もあった。

もっともそのような事故は、マニュアルに注意書きしておけばメーカーとしての責任は回避できるだろう。だが新しい規格が意図しているのは、経験の少ない技術者でも安全に作業できる遮断器の実現だ。規格の意図を読み取って本質的な安全性を確保するためには、「手を入れようとしても入らない」構造にしなくてはならない。

樹脂製シャッタで採用している動作機構でも、端子を支持している樹脂ブッシングの構造を専用で作り直せば構成は可能だった。しかしそれでは、大型化の問題は解決できない。それら制約条件の中で開発者たちが考案したのが、折り畳み型のシャッタだった。独自の動作機構を開発し、折り畳んで収納する構造にすることで、端子との距離を取りながらも従来製品と同等のサイズを維持することを実現した。

金属製シャッタを開けた状態
金属製シャッタを閉じた状態

金属製シャッタを開けた状態(左)と閉じた状態(右)。折り畳み型にすることでアークが飛ばないレベルまで端子との距離を取りながらも、従来と同じ外径寸法を維持した

金属製シャッタを開けた状態(上)と閉じた状態(下)。折り畳み型にすることでアークが飛ばないレベルまで端子との距離を取りながらも、従来と同じ外径寸法を維持した

シャッタは、上下それぞれ個別に動かすことができる工夫も施している。上下別駆動の採用は規格上必須ではなかったが、作業性や安全性、配電盤メーカーのメリットを考え、設計の工数をかけてでも独自に設けることを決めた。

ボルトが緩むならボルトレスにする

配電盤の扉を閉じたまま遮断器をスライドさせて接続を切り離す機構は、それに伴う筐体の大型化をどう防ぐかが課題だった。遮断器の下にレールを敷けば、扉の外から手動で動かす仕組み自体は実現できそうだが、高さが大きく増してしまう。可能な限り高さ方向の寸法を抑制し切り離すための仕組みを新たに考えなくてはならない。

もう一つの課題は、安全確保のために操作を制限するインタロック(安全機構)の最適化だった。誤操作を防ぐために遮断器には複数の制限が設けられており、決められた手順を踏まなければ操作を受け付けない仕組みになっている。扉の外から切り離す機能にも追加のインタロックが必要だ。しかしインタロックで安全性を保っている機構は他にもある。それら既存の機構との間で矛盾が発生するなど複雑化し、「他の機構も含めて全体調整する必要に迫られた」と設計を担当した松岡は振り返る。

そこで松岡らは、他の設計メンバーとも調整しながら設計変更を進めることにした。スライドさせる機構にはトグルリンクを採用し、小さなスペースでも遮断器を動かす仕組みを採用。スライド時のインタロックについても、扉の裏側の突起でロックが外れるようにすることで、扉を閉めない限りスライド用のハンドルを回せないようにした。

外からハンドルで遮断器をスライドさせて動かす機構の画像

外からハンドルで遮断器をスライドさせて動かす機構。配電盤の扉を閉じないと機械的に動かせないようになっている(写真は機能紹介のため扉を外した状態です)

しかし機構は実現できても、試験はトラブル続きだったという。特にやっかいだったのは、インタロック機構で使ったボルトが、衝撃に対する耐久試験で緩んでしまったことだった。遮断器の開閉動作は強いバネで行うため、動作時に遮断器本体へ大きな衝撃が加わる。その衝撃を繰り返し与えると、締結したボルトが緩むことが分かったのだ。

「衝撃によりボルトに掛かる外力を見誤った」(松岡)のが理由だったが、規格上の連続開閉試験 は1万回とされており、その回数は十分クリアできることは確認できていた。しかしそもそもボルトがなければこの問題は起こり得ない。ボルトをなくせば組み立て時の工数も減らせる。そこで松岡は本質的な安全性の追求という原点に立ち返り、ボルトレス構造を目指すことにした。

量産できず設計やり直し

一方、遮断器の心臓部である真空バルブやその周辺機器にも改善が図られた。真空バルブが動作するための力を与える操作機構部には、無潤滑軸受を採用。同時に長寿命型のグリースを採用したことで、従来は6年だったメンテナンス周期を12年まで倍増させた。各設計チームがそれぞれの観点から、保守の省力化を突き詰めていったのである。

真空バルブが動作するための力を与える操作機構部の画像

操作機構部への無潤滑軸受の採用により、注油サイクルを12年まで拡大した

ただ設計の現場では苦難続きだった。新しい遮断器では保守省力化のために操作機構も新たに設計した。操作機構には、動作の始点となるソレノイドが内蔵されている。しかし従来品の流用品では新しい遮断器の操作機構を動作させるために必要な吸引力が出せないことがわかった。そのため、絶縁ロッドの構成から見直しを行い刷新した。これにより、高い荷重に対応したバネの採用を可能にしている。
しかし、これで解決したと思われた矢先、今度はその動作の始点となるソレノイドに課題が浮上した。従来のソレノイドの流用品では新しいバネに必要な吸引力が出せないのだ。ソレノイドに流す電流や巻線の量で吸引力を補う手はあるが、それではソレノイドの消費電力やサイズが大きくなってしまう。

再設計して試作したソレノイドは十分な吸引力を出せたものの、今度は「必要な精度が量産では出せないことが分かり、泣く泣く設計をやり直すことにした」と設計を担当した西は振り返る。

新規格への対応が大きなミッションだった高圧真空遮断器の次期モデル開発だったが、実際の開発は新規格とは直接関係しないところにも波及していった。規格対応という題目よりも、規格の背景にある「保守の省力化」という現場の課題に目を向け続けたためである。

製品・ソリューション紹介

高圧真空遮断器 VF-20E/25Eシリーズ

多様化する時代のニーズを追求し更なる進化を遂げるVCB。据付からメンテナンスまで、あらゆるシーンでの作業効率を追求した新設計や、独自の技術による高い信頼性により、工場やビルなどの幅広い施設において配電設備の安全を守ります。

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