特集論文
世界戦略ワイヤ放電加工機“MVシリーズ”
2013年12月公開【全3回】
名古屋製作所 三枝嘉徳 服部広一郎 中島洋二 小川卓也 塩澤貴弘
第1回 MVシリーズで向上した5つの基本性能(上)
1. まえがき
近年の世界的な景気低迷や、自動車、家電、IT関連機器等、様々な製品の価格低下の傾向はとどまることがなく、放電加工機を取り巻く環境はますます厳しくなっている。ワイヤ放電加工機の市場としては、従来の主要市場であった日米欧の汎用金型市場規模は縮小し、金型の高精度化/高付加価値化が進んでおり、更なる加工精度向上、生産性の向上やランニングコスト低減などが求められている。またプラスチック金型に代表されるボリュームゾーンである汎用金型の主要市場は、中国などの新興国にシフトしてきている。特に中国市場では、プラスチック金型などのボリュームゾーンの汎用金型製造を行うユーザーは、機械稼働率も非常に高く活況を呈している。このため、日米欧での市場要求や、中長期的にも更に成長が見込まれる中国など新興国のボリュームゾーンである汎用金型の市場ニーズを反映したワイヤ放電加工機として、世界戦略ワイヤ放電加工機“MVシリーズ”を開発した(図1)。 本稿ではMVシリーズで向上した5つの基本性能を中心に述べる。

2. MVシリーズで向上した5つの基本性能
2.1 自動結線性能の向上
ワイヤの自動結線装置は、ワイヤ放電加工機の自動化に不可欠な装置であり、その信頼性と高速性がこれまでの課題であった。2005年発表の“FAシリーズ”で搭載したワイヤ自動結線装置“AT2”は信頼性を向上させつつφ0.1mmの細線ワイヤにも対応した装置で、市場でも好評を得ている。今回はさらに中国など世界市場で使用されることが多いワイヤの巻きクセ(カール)にばらつきのある汎用的なワイヤ線を使用した際の自動結線の信頼性改善を図るため、自動結線機構を大幅に見直した“IAT”を開発しMVシリーズに搭載した。
2.1.1 ワイヤの巻きクセ(カール)にばらつきのある汎用ワイヤ線での信頼性向上
自動結線装置では、結線前ワイヤの巻きクセ(カール)を取り除くためにアニール処理と呼ばれるワイヤ線の真直性を改善させる処理を行う。今回のIATでは次の3つの性能向上策を実施し、ワイヤ線の真直性を改善した。(1)アニール処理を行うワイヤ線距離を2倍にした、(2)アニール処理時の電流制御分解能を6倍にした、(3)ワイヤに張力を与えるメインテンションモータをサーボモータにしてアニール処理時のテンション制御性能を向上させた。これによって、カールにばらつきのある汎用的なワイヤ線を使用した場合でも安定的な自動結線性能を実現した。また、従来装置では信頼性が低かったワイヤが断線した位置(断線点)での自動結線(図2)でも高い自動結線性を持ち、さらにはワイヤ線の自動結線から切断までのサイクルタイムも短縮した。

2.1.2 高板厚での自動結線性能向上
ワイヤ結線時には自動結線装置のノズル部からジェットと呼ばれる水流を出してワイヤ線を搬送する。このため、ジェット水流の流れには真直性や乱れがないことが求められる。 今回のIATではジェット水流の流体解析シミュレーションによって上部ワイヤガイド機構の最適化を図り、ジェット水流の真直性を向上させた(図3)。これによって高板厚領域での自動結線信頼性が大幅に向上した。

2.1.3 最適な自動結線モードの選択簡単化
“IAT”では高板厚領域でのジェット水流を使用した自動結線、ジェット水流なしの水中断線点での自動結線、スタート穴径の小さな自動結線時に使用する細穴挿入機能など、加工形状に最適な自動結線モードを簡単な操作で選択可能とした。
2.2 加工精度の向上
当社製サーボアンプとNC制御装置を用いた高速光通信による高応答性を持ったシステムと、バックラッシュがなく長期間にわたり安定して高精度を持つシャフトリニアモータの協調制御(Opt Drive System:ODS)によってMVシリーズでは形状加工精度が向上している。図4にφ20真円加工事例を示すが、ODSの効果によって切り返し時の突起やアプローチ部の食い込みを抑え、真円度1.7μmの加工精度を実現している。

製品紹介

- 要旨 世界戦略ワイヤ放電加工機“MVシリーズ”
- 第1回 MVシリーズで向上した5つの基本性能(上)
- 第2回 MVシリーズで向上した5つの基本性能(中)
- 第3回 MVシリーズで向上した5つの基本性能(下)