特集論文
世界戦略ワイヤ放電加工機“MVシリーズ”
2013年12月公開【全3回】
名古屋製作所 三枝嘉徳 服部広一郎 中島洋二 小川卓也 塩澤貴弘
第3回 MVシリーズで向上した5つの基本性能(下)
2. 5 ランニングコスト低減
ワイヤ放電加工機に代表されるようなマザーマシンは可能な限り効率的に稼働させ、付加価値の高い製品を作り出すことによって、ユーザーは大きな利益を得る。稼働にかかるランニングコストを低減させることは、そのままユーザーの収益を増やすこととなり更なる改善が求められている。ワイヤ放電加工機のランニングコストはワイヤ電極、ろ過フィルタ、イオン交換樹脂で全体の約80%を占めるため、MVシリーズでは主にこれら消耗品に関してランニングコストの低減を図った。
2. 5. 1 ワイヤ消費量削減
一般に、ワイヤ電極の送り速度が遅いほど電極消耗の影響で真直精度、特に上下寸法精度が低下する。そのため、従来は真直精度の要求からワイヤ消費量を削減できないといった問題があった。これに対し、MVシリーズでは最新のデジタル電源制御によって荒・仕上げ加工における真直精度が向上し、ワイヤ送り速度を低速化させても高い真直精度を維持することが可能になった。これによってワイヤの消費量を減らすことができ、従来機種に比べて最大46%削減可能となった(図10)。

2. 5. 2 ろ過フィルタの寿命向上
加工で発生するスラッジを加工液から分離するろ過フィルタは、ワイヤ放電加工機に必要不可欠な消耗品である。MVシリーズでは加工状況によって発生するスラッジ量が異なることに着目し、荒加工時と仕上げ加工時のろ過フィルタ通過流量を切り替える流量の最適化を行った。この結果、仕上げ加工時のろ過フィルタ通過流量を必要最小限とすることで、フィルタの寿命向上を実現した。これによって、従来機種比でろ過フィルタのランニングコストを最大45%抑えることが可能になった(図11)。

2. 5. 3 イオン交換樹脂の長寿命化
一般的にワイヤ放電加工機は、加工液に水を使用して加工を行うことから加工液中の余計なイオン成分を取り除き、水の導電率を一定にしておく必要がある。この際に使用されるのがイオン交換樹脂であり、交換が必要な消耗品となっている。加工液の導電率を下げるとイオン交換樹脂の寿命が向上するが、加工時の面粗さが悪くなる問題があった。MVシリーズではデジタル電源制御や定盤絶縁構造を採用することで、面粗さが改善され導電率を下げる設定を可能とした。これによって、従来機種に比べてイオン交換樹脂のランニングコストを最大25%抑えることが可能になった(図12)。

2. 6 デザイン
ワイヤ放電加工機も、近年は性能さえ良ければ外観は気にしないと言うことではなく、デザインも一つの性能として位置付けられるようになってきた。当然、見た目のイメージは、機械そのものの性能を判断する有効な手段でもある。MVシリーズでは、デザインについて中国などの市場調査を実施し、市場の嗜好(しこう)にあった安定感のあるシンメトリーデザインを採用した。
3. むすび
世界戦略ワイヤ放電加工機MVシリーズとそれに搭載している新技術について述べた。今後とも市場ニーズにこたえるとともに、新たな市場を開拓する技術と製品の開発に取り組んでいく所存である。
製品紹介

- 要旨 世界戦略ワイヤ放電加工機“MVシリーズ”
- 第1回 MVシリーズで向上した5つの基本性能(上)
- 第2回 MVシリーズで向上した5つの基本性能(中)
- 第3回 MVシリーズで向上した5つの基本性能(下)