特集論文
三菱シーケンサ “MELSEC iQ-Fシリーズ”
2016年7月公開【全3回】
名古屋製作所 西本雅規 廣川 悠 梅田剛義 堀川 朋
第1回 製品概要
1. まえがき
シーケンサシステムは、スタンドアロンの制御からネットワークを活用した工場全体の自動化まで広範囲にわたる産業用アプリケーションに用いられ、産業界の飛躍的な発展に貢献してきた。近年、小型機械市場でも、装置全体の機能向上の要求から、これを制御するシーケンサに高機能・高付加価値が求められている。また、人件費の高騰に伴って、装置立ち上げ時のエンジニアリングコストや、故障や調整時のメンテナンスコストの削減が重要課題となっている。
一方、当社は、“iQ-Platform” による機種間での制御の高速化と使い勝手の向上(横連携)、及び情報システムと生産現場の情報連携(縦連携)で、TCO(Total Cost of Ownership)削減を実現するFA(Factory Automation)統合ソリューション “e-F@ctory” を提唱してきた。iQ-Platformの一端を担うマイクロシーケンサにも、製造設備の高度化・複雑化に対応するための性能・機能の向上に加えて生産現場の情報活用のための上位情報系との連携機能強化が求められている。
これらの背景に基づいて、基本性能の向上と内蔵機能の強化、駆動機器との連携強化、エンジニアリング環境の進化をコンセプトに次世代のマイクロシーケンサMELSEC iQ-Fシリーズを開発した。
本稿では、これらコンセプトを実現するために適用した技術とMELSEC iQ-Fシリーズの特長や機能について述べる。
2. MELSEC iQ-Fシリーズの特長と新機能
MELSEC iQ-Fシリーズ(以下 “iQ-Fシリーズ” という。)の次の特長について述べる。
(1) 基本性能の向上と内蔵機能強化
(2) 駆動機器との連携強化
(3) エンジニアリング環境の進化
2. 1 基本性能の向上と内蔵機能の強化
iQ-Fシリーズのシステム性能強化として、増設ユニットへのアクセス速度の大幅な向上に加えて、CPU性能の向上、内蔵機能の強化を行った。アナログ入出力やEthernetポート、SDメモリカードスロットを新たに標準搭載することで、スタンドアロンユースだけでなくネットワークを含めたシステム提案まで可能にした。さらに、内蔵位置決め、高速カウンタの機能向上、パラメータ設定による使い勝手の向上も行っている。また、性能向上と内蔵機能の強化を行いながらも、LSIの搭載数削減などで従来機種と同等の製品コストを維持した。表1に、iQ-Fシリーズと従来の “MELSEC FXシリーズ(以下 “FXシリーズ” という。)” との機能・性能の比較を示す。

表1.機能・性能の比較
2. 1. 1 増設ユニットへのアクセス速度向上
機能をオプションで追加する増設ユニットの高機能化や使い勝手向上(リモートI/Oの自動リフレッシュなど)に伴い、増設バス上の通信量も増加する傾向にあった。従来機種では、高機能な増設ユニットを使用した場合、スキャン時間の増大によってシステム性能が低下して基本性能を活用できない課題があった。
iQ-Fシリーズでは、増設バス制御用のLSIを新規に開発して、高速シリアルバスを新たに採用した(図1)。この高速シリアルバスによって従来比150倍のバス速度を実現するとともに、差動信号を採用することでFAで重視される耐ノイズ性や信頼性の向上も行った。このLSIを全ユニットに搭載することで、設計の共通化、原価低減を行った。

図1.バスシステムのイメージ
2. 1. 2 CPU性能の向上
シーケンス実行エンジンの強化として、①構造化プログラム、②複数プログラム、③ST(Structured Text)言語、FBD(Function Block Diagram)言語 に対応した実行エンジンを搭載した。また、処理速度の向上も行ってマイクロシーケンサの領域でトップクラスの命令処理時間を実現した(表2)。
命令処理時間を向上させるための取組みとして、命令を実行する演算装置をCPUチップに一本化した。従来は、命令ごとに専用LSIとCPUチップで処理を分担していたが、専用LSIとCPUチップとの制御権の受渡しに時間がかかっていたため、ユーザープログラム全体では性能を引き出すことができなかった。そこで、CPUチップによる演算方式を一新して、ユーザープログラムに記述されている命令の読み出し回数を大幅に削減した新たな方式を採用した。これによって、CPUチップ単体で従来のLSI以上の演算性能を実現可能となり、ラダープログラム全体の性能向上を達成した。

表2.命令処理時間の比較
2. 1. 3 アナログ入出力内蔵
iQ-Fシリーズでは、アナログ入力2ch/アナログ出力1chを標準搭載した(“FX5U CPU” のみ)。さらに、従来機種では各種設定をシーケンスプログラムで行う必要があったが、設定内容をパラメータ化したことで容易にインバータや流量計などへ接続することが可能となった。さらに、CPUユニットに機能を内蔵して一体化することで、A/D(Analog/Digital)変換とD/A変換の高速化を実現した。
2. 1. 4 Ethernetポートの標準搭載
iQ-FシリーズのCPUユニットでは、内蔵する通信ポートとしてパソコンなどに標準的に搭載されているEthernetポートを採用することで、遠隔地からのプログラミング・監視を可能にした。また、 SLMP(Seamless Message Protocol)通信(注3)を始め、Socket通信、ユーザー独自プロトコルなどの様々なプロトコルに容易に対応可能な通信プロトコル支援機能をサポートすることで、三菱FA機器を始めとする様々な機器との親和性を向上させて、多様な生産現場にフレキシブルに対応することが可能になった。
Ethernetポートを搭載したシーケンサでは、シーケンス演算を行う制御系と、膨大なデータの処理が必要となる通信系の2つの処理が必要とされる。通信負荷が高くなると制御系処理のリアルタイム性に影響があるため、複数のCPUチップを搭載することでこの問題を解決している製品が多くある。iQ-Fシリーズでは、通信負荷が高くなった場合でもリアルタイム性が損なわれないように制御系処理に一定のリソースを割り当てる独自のスケジューラを開発して、単一のCPUチップで制御系及び通信系の処理を実現した。
- (注3) 各種Ethernet製品とCC-Link IE対応機器との間で、ネットワークの階層・境界を意識しないアプリケーション間通信を可能にするプロトコル
2. 1. 5 SDメモリカードスロットの標準搭載
iQ-FシリーズのCPUユニットでは、SDメモリカードスロットを標準搭載した。パソコンから直接操作可能なSDメモリカードに対応することで、シーケンサがない環境でもユーザープログラムの複製が可能となり、同じプログラムを搭載した装置の量産が容易になる。また、各種データのロギング、ファームウェアアップデートなどの機能に新しく対応する予定である。