特集論文
ワイヤ放電加工機 “MV D-CUBESシリーズ”
2017年11月公開【全3回】
名古屋製作所 犬飼 賢
第1回 D-CUBESの特長(上)
1. まえがき
2012年に販売を開始したワイヤ放電加工機MVシリーズは、当社のワイヤ放電加工機の全世界販売の約90%を占め、世界累計販売台数5,000台を超えるなど、国内だけでなく海外でも好評を得ている。加工機に対する顧客のニーズは時代とともに変化しており、昨今では電子機器・自動車部品・モバイル機器の高性能化に伴い、生産に用いる金型の製造や部品加工には、高精度化とともに、グローバルでの競争力向上に向けた、短納期や低コストなど生産性向上が求められるようになった。
このようなニーズに応えるために、当社数値制御装置M800Wを放電加工機用に最適化し、生産性向上に寄与する優れた操作性と機能を、ナビゲーション機能やワイヤ電極線残量リアルタイム検出機能などによって実現した新型制御装置D-CUBESを開発し、MVシリーズに搭載した。
また、2003年から提供している顧客の生産現場に合わせた最適なFA総合ソリューションe-F@ctoryを適用したものづくりを放電加工の現場へも導入することで、IoTを活用した生産支援を進めるため、リモートサービス “iQ Care Remote4U” を開始し、加工機の稼働状況やメンテナンス状況などをパソコンやスマートフォンなどからリアルタイムで監視する “ダッシュボード機能” と、遠隔地から加工機の画面を操作・確認することで、マシンダウン時間の短縮をする“リモート診断機能”を提供する。
本稿では、新型制御装置D-CUBESとリモートサービス “iQ Care Remote4U” の特長について述べる。
2. D-CUBESの特長
2. 1 加工性能による生産性の向上
加工機の生産性向上のためには、加工速度や加工精度など加工性能の向上が不可欠である。新型制御装置搭載MVシリーズでは、制御装置の性能を生かした新加工サーボ “D-CUBES NL制御” を開発した。新制御では、従来の2倍の制御周期で加工速度をフィードバックし、加工寸法の推定を行う。これによって、加工量が最適化されることで、従来の制御で発生していた加工面ごとの取りすぎや取り残しを抑制し、放電ギャップの均一化が可能になった(図1)。この制御による少ない加工回数での面粗さの改善や寸法差の抑制によって、2回加工(加工面粗さRa0.8μm)の速度を従来よりも40%アップした(図2)。
また、D-CUBES NL制御と仕上げ加工用の電源回路である “H-FS回路” によって、8回加工が必要であった加工面粗さRa0.2μmを従来よりも2回少ない6回加工で実現した。
新型制御装置搭載MVシリーズでは、これらの技術による高精度・高速加工で、顧客の生産性向上を実現した。

図1.D-CUBES NL制御

図2.加工速度の比較
2. 2 操作性による生産性の向上
新型制御装置では、 “つながる” “簡単操作” “ヒューマンエラー削減” をキーワードに、良いものを早く安く作ることによる顧客の生産性向上の支援を目指した。
“つながる” については後述する “iQ Care Remote4U” のダッシュボードへのデータ通信やリモート診断だけではなく、新型制御装置上で直接ダッシュボードを参照可能とした。
“簡単操作” と “ヒューマンエラー削減” については、次の4つの機能を実現させた。
(1) “HOME画面” からのワンタッチ呼出し機能
新型制御装置は画面サイズを従来の15インチから19インチに大型化し、スマートフォンやタブレット感覚で操作できるタッチパネルを搭載した。画面の大型化に伴って加工中の進捗状況、加工の安定度、消耗品の状態が一目で分かるHOME画面を新規搭載し、また、HOME画面から必要な機能をワンタッチで呼び出す機能も開発した(図3)。

図3.HOME画面
(2) 操作ナビゲーション機能
放電加工機は人による作業が多く、技術を必要とする作業もある。そのため、作業者の育成に時間がかかることや、ヒューマンエラーによる加工不良の発生といった問題がある。この問題に対し、作業手順を明確にし、作業漏れをなくすために、操作ナビゲーション機能を新規開発した。これに合わせて、各作業について、画面の切替え操作や入力した内容の確定操作などを見直し、操作数を以前から約40%削減し作業の効率化を実現した(図4)。

図4.操作ナビゲーション機能
(3) 作業確認リストによる作業漏れチェック機能
作業手順に従来は顧客が独自に作成していた作業確認リストを加工機に取り込み、チェックが漏れている場合は加工スタートのインターロックを取り、作業漏れによる加工不良などヒューマンエラー削減のための機能も組み込んだ(図5)。

図5.作業確認リスト
(4) 手元操作箱の新機能
段取り作業での使用頻度が高い手元操作箱も一新した。液晶画面を搭載し、ワークや冶具との干渉を防止するためのZ軸のソフトリミットやドライラン時の軸移動速度のオーバーライド機能を追加し、作業効率の向上を実現した(図6)。

図6.手元操作箱
- 要旨 ワイヤ放電加工機 “MV D-CUBESシリーズ”
- 第1回 D-CUBESの特長(上)
- 第2回 D-CUBESの特長(下)
- 第3回 リモートサービス “iQ Care Remote4U”