Factory Automation

特集論文

エッジコンピューティングソリューション

2018年10月公開【全3回】
FAソリューションシステム部 松田規

第1回 e-F@ctoryとEdgecross

1. まえがき

 近年、製造業を取り巻く環境は大きく変化している。多品種少量生産のニーズ増加、三次元プリンターなどの新しい製造プロセスが台頭しつつある。また、IoT・AIに代表されるデータ分析技術が飛躍的に発展し、製造業への適用が進みつつある。市場からも、生産現場のデータを活用し、予知保全、稼働率向上、品質安定化や歩留り向上などのニーズが聞かれるようになってきた。一方、生産現場には膨大な種類・量のデータが存在することや、生産ノウハウの情報が漏洩(ろうえい)するリスクへのおそれから、クラウドを活用した既存ソリューションに対して懸念を感じるケースも多い。そこで当社は、e−F@ctoryとして3階層アーキテクチャを提唱し、より生産現場に近いエッジコンピューティングを活用することを提案している。
 本稿では、当社が開発中のエッジコンピューティング製品について、その製品や特長、活用事例について述べる。

2. e−F@ctory

 e−F@ctoryは、当社が2003年から提唱してきたFA−IT統合ソリューションである(図1)。FA技術とIT技術を活用することで、開発・生産・保守の全般にわたるバリューチェーン全体でのコストを削減し、顧客の改善活動を継続して支援するとともに、一歩先のものづくりを指向するソリューション創出が可能になる。そのアーキテクチャとしては、生産現場とITシステムとの中間にエッジコンピューティング層を設け、大量の生産現場データから必要な情報だけを切り出すなどの一次処理を行うとともに、そのデータに対して意味付けを行うなど、FAとITをシームレスに情報連携させることが特徴である。このエッジコンピューティングがシステム全体の最適化の要となることで、生産現場での生産性、品質、省エネルギー、安全性、セキュリティの向上が可能になる。
 一方、実際の生産現場には、当社の機器・装置だけでなく、様々なベンダーが開発した設備が導入されている。同様に、ERP(Enterprise Resource Planning)などのITシステムは、それぞれ異なるベンダーが開発していることが一般的である。また、扱うデータ量や設置環境に応じて適切なハードウェア(動作環境)の選択が必要である。そのため、e−F@ctoryコンセプトの具現化のためには、動作環境を制約することなく、マルチベンダー環境でも情報連携を可能にするプラットフォームが必要である。

図1.e−F@ctoryの概念
図1.e−F@ctoryの概念

3. Edgecross

 発起企業として当社が参画したEdgecrossコンソーシアムは、FAとITを協調させる日本発のオープンなエッジコンビューテイング領域のソフトウェアプラットフォーム “ Edgecross ” の仕様策定、及び普及推進を行う団体である。当社を含めた7社が幹事会社となり、Edgecrossコンソーシアムの運営を担っており、企業・産業の枠を超え、誰でもコンソーシアム会員として参加できる。そのソフトウェアプラットフォーム(図2)は、ネットワークの差異を吸収するデータコレクタや、エッジアプリケーションやITシステムと連携するインタフェースを標準化しており、各ベンダーが対応製品を開発することでマルチベンダー環境に対応できる。また、リアルタイムにデータを処理して生産現場にフィードバックを行うリアルタイムデータ処理機能、現場装置・機器を抽象化した論理モデルで管理できるデータモデル管理機能など、エッジコンピューティングに必要な機能を標準化する。各ベンダーは、コンソーシアムから提供されるSDK(Software Development Kit)を使用し、自由にエッジアプリケーションが開発できる。

図2.Edgecrossのアーキテクチャ(1)
図2.Edgecrossのアーキテクチャ
(出展:Edgecrossコンソーシアム ホームページ)

(注1) EtherNet/IPは、ODVAの登録商標である。
(注2) EtherCATは、Beckhoff Automation GmbHの登録商標である。
(注3) PROFINETは、PROFIBUS Nutzerorganisation e.V.の登録商標である。
(注4) MTConnectは、The Association For Manufacturing Technologyの登録商標である。
(注5) OPCは、OPC Foundationの登録商標である。

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