特集論文
三菱シーケンサ “MELSEC iQ-Rシリーズ” の
エントリーモデルCPUユニット
2019年5月公開【全3回】
名古屋製作所 松沢祐人 吉川貴支
第2回 製品の特長(中)
3. エントリーモデルCPUユニットのコスト削減技術
3. 1 システムコスト低減の技術
エントリーモデルCPUユニットは、ハイエンドモデルCPUユニットと同等の外部インタフェースを搭載しつつも、従来のミドルレンジ製品の価格帯と同等にするために、従来2枚基板構成であったCPUユニットを1枚基板構成とし、抜本的にユニットコストを低減した。1枚基板化で部品が密集することになるため、耐熱性の確保と耐ノイズ性の確保が課題となった。
3. 1. 1 耐熱性の確保
1枚基板化で発熱部品が従来機種よりも密集し、各実装部品の温度が定格温度を超過する懸念があった。そのため、実装部品の配置検討に当たって熱解析の精度向上手法を確立した。
熱解析精度向上のために、“発熱部品の熱伝導モデルの精度”と“部品モデルの精度”がポイントとなった。“発熱部品の熱伝導モデルの精度”については、熱解析モデルのメッシュ(熱解析を計算するための最小単位)を基板厚み方向にも設定することで、発熱部品から基板への熱の伝わり方の精度を向上させた(図4(a))。また、“部品モデルの精度”については、SDメモリカード等の内部にメモリやコントローラを持つ部品については、内部回路まで詳細な熱解析モデルを作成することで、精度を向上させた(図4(b))。これらの手法によって、熱解析の精度を、実機との差異を0.8℃まで高めることができ、最適な部品配置を可能にした。
今回新たに作成した熱解析モデルによって、事前に熱対策が必要な実装部品(SDメモリカード、スーパーキャパシタ)を抽出できた。これらの部品に対し、①発熱部品の影響を受けにくい箇所への配置、②SDカード直下の基板の穴あけ、③装着位置を基板から浮かせてあるスタンドオフタイプのコネクタ採用(図5)の対策を盛り込むことで、十分な耐熱性を確保できた。
図4.熱解析精度向上の手法
図5.エントリーモデルCPUユニットの熱対策3. 1. 2 耐ノイズ性の確保
エントリーモデルCPUユニットは1枚基板構成で、かつUSBポート、Ethernetポート、SDメモリカードスロットと、多くの外部インタフェースを持っているため、外部からの印加ノイズが内部回路に与える影響が従来機種よりも大きくなる懸念があった。そのため、耐ノイズ性を確保するために、電磁界解析を実施した。解析結果から、SDメモリカードの周辺に局所的なノイズの影響が見られたため、コンデンサの追加によって対策し(図6)、耐ノイズ性を確保した。

図6.エントリーモデルCPUユニットの電磁界解析結果
3. 2 メンテナンスコスト低減の技術
エントリーモデルCPUユニットのバッテリーレス対応は、データ保持用のメモリに不揮発性メモリを採用することで実現している。不揮発性メモリの選定は、頻繁に書き換わる可能性のあるデータデバイス用のメモリであること、またデータデバイスが顧客装置・生産設備の制御に必要なデータであることから、次の条件を要求仕様とした。
- (1) 書き込み回数に制限がないこと
- (2) ソフトウェアエラーが発生しないこと
これらの要求仕様を不揮発性の各メモリで比較し(表1)、要求仕様を満たしている磁気抵抗メモリ(MRAM)を採用した。
| 検討項目 | 現状 | 変更候補 | ||
|---|---|---|---|---|
| SRAM | MRAM | FRAM | nVSRAM | |
| 書き込み回数制限 | なし | なし | あり | なし |
| ソフトウェアエラー発生 | あり | なし | なし | あり |
表1.不揮発性メモリの比較
- 要旨
- 第1回 製品の特長(上)
- 第2回 製品の特長(中)
- 第3回 製品の特長(下)