特集論文
放電加工機リモートサービス “iQ Care Remote4U”
2019年7月公開【全3回】
名古屋製作所 堂森雄平 加藤達也
第1回 基本機能の特長
1. まえがき
ものづくり現場で生産性向上・品質向上・コスト削減のためIoT活用を図りたいユーザーニーズの増加に対し、当社は他社に先行して放電加工機リモートサービス “ iQ Care Remote4U ” を2017年1月から国内向けにサービスを開始した。2018年末の加入台数350台を達成し、契約台数は順調に増加している。ユーザーからは段取り作業の見える化によって現場作業が改善されて残業時間の削減につながった、ワイヤ残量の見える化によってワイヤの無駄が減り消耗品が節約できた等の好評を得ている。一方でユーザーヒアリングの結果、オペレータ向けの機能が不足している、分析のために活用できる機能を拡充してほしいとの声が挙がった。
このようなニーズに応えるため、オペレータ向けの新機能として、スマートフォンで加工機画面を遠隔監視し、どこにいても現場と同じように加工進捗が確認できる “ 加工ビューア機能 ” や毎日の加工記録が自動生成されて作業報告時間を削減する “ 加工レポート機能 ” を開発した。また管理者向けの分析活用コンテンツとしても、加工機のアラーム履歴や消耗品の寿命を見える化し、報告書(月単位)として出力し、マシンダウン時間やランニングコスト削減の改善活動に生かせる “ 機械稼働管理レポート(月報)機能 ” を開発した。
本稿では、リモートサービス “ iQ Care Remote4U ” の基本機能の特長とサービス開始後の具体的な改善事例、ユーザーニーズに対応した新機能として加工状態を見える化する “ 加工ビューア機能 ” “ 加工レポート機能 ” と改善点を見える化する “ 機械稼働管理レポート(月報)機能 ” の特長について述べる。
2. iQ Care Remote4Uの基本機能の特長
2. 1 ダッシュボード機能
“ ダッシュボード機能 ” は放電加工機の稼働情報、加工予測時間や電力消費量、消耗品の交換時期などを顧客のパソコンやスマートフォン、タブレットでいつでも確認できるサービスである。オペレータは加工終了、アラーム情報、ワイヤ残量情報などをメールで受け取ることで、マシンダウン時間の削減が図れる。管理者は複数台の稼働率、コスト情報を収集・蓄積し、一元管理して分析することで、生産プロセスの改善、ランニングコスト低減に活用できる(図1)。
次に、ダッシュボード機能による三つの改善事例について述べる。
図1.ダッシュボード機能の画面
(1) 改善事例1:マシンダウン時間の削減
事務所と現場が離れた工場で、従来は事務所と現場を行き来し、加工の進捗を確認していたが、事務所に大型モニタを置き “ ダッシュボード機能 ” の機器一覧画面で複数台の加工機の稼働状況を一括表示することで、現場情報の一元化ができ、計画的な生産管理が可能になった。また現場にも導入することで複数の現場の加工機の状態が分かるため、マシンダウン時間の削減を図り生産性向上を実現した(図2)。
図2.大型モニタを活用した事例
(2) 改善事例2:切落加工での一時停止時間の削減
ワイヤ放電加工機では加工物をワークから切り落とす前に加工プログラムを一時停止し、オペレータが加工機の前にいる状態で切落加工を実施するのが一般的である。そのため、オペレータが加工機の近くにいないと一時停止していることに気付かず、無駄な一時停止時間が発生してしまう。 “ メール通知機能 ” を活用することで、現場にいなくても一時停止が分かるため、すぐに現場に戻ることができ切落加工を再開することで一時停止時間削減による加工機稼働率向上を実現した(図3)。
図3.メール通知の事例(製造支援)(3) 改善事例3:アイドル等の電力コストの削減
製造現場での加工機の消費電力削減の要求に応えるため、 “ ダッシュボード機能 ” のコスト画面で電力量・電力コストを見える化し、稼働画面の時系列表示上の加工終了後のアイドル時間から無駄な待機電力を見つけ、加工機の省電力モードを活用することでアイドル時の電力コストの削減を実現した(図4)。
図4.ダッシュボード機能を活用した提案事例
2. 2 リモート診断機能
リモート診断は当社のサービスセンターに設置した端末から直接ユーザーの放電加工機へVPN(Virtual Private Network)で接続し、加工機の状態を遠隔から確認する機能である。それによってサービスセンターからアラーム内容と加工条件を確認し、ユーザーと放電加工機の画面や情報を共有することで、迅速な診断でマシンダウン時間を最小化し、スムーズに加工状況を把握して、加工改善のアドバイスをするなど、加工機の稼働率向上と生産性向上を実現できる。また情報セキュリティについては、暗号化による安全性に加え、加工機側にリモート診断スイッチを設け、ユーザーの許可なくサービスセンターから加工機への接続はできないようにしている。さらにリモート診断中も加工機画面のスタートボタンにインターロックを設け、加工機を遠隔で動作できないように安全面を考慮した設計にした(図5)。
図5.安心・安全なリモート診断・ダッシュボード機能リモート診断機能による改善事例として、NCプログラムエラーが原因のマシンダウン時間の大幅な短縮について述べる。
NC(Numerical Control)プログラムエラーによって加工がスタートしないとき、従来はユーザーからサービスセンターへ電話をし、NCプログラムエラーの状態をサービスマンがヒアリングして対処していたが、NCプログラムを実際に確認できないため、メールのやり取り等情報の共有に時間がかかっていた。 “ リモート診断機能 ” を活用することで、直接加工機の画面を確認し、NCプログラムの記述ミス等問題点を把握・修正することで、NCプログラムエラーによるマシンダウン時間の大幅な短縮を実現した(図6)。サービスセンターへの問合せ全体の5割程度は “ リモート診断機能 ” を活用することで調査時間の短縮に有効である。
図6.リモート診断の事例(保守)- 要旨
- 第1回 基本機能の特長
- 第2回 新機能の特長
- 第3回 iQ Care Remote4Uによる改善点の見える化