三菱電機技報

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三菱電機の優れた技術・製品、技術開発活動を広く紹介しています。

2025年07月号

特集 「持続可能な社会を実現するモビリティインフラの変革」

2025年07月22日発行

三菱電機技報 2025年07月号

巻頭言

人工知能技術の最大のリスクは使わないことにある

巻頭論文

持続可能な社会を実現するモビリティインフラの変革

特集論文

全5編

特集概要

三菱電機は循環型 デジタル・エンジニアリング企業として、持続可能な社会の実現を目指しています。地球環境問題、都市問題、労働力不足などの社会課題に対して、環境に優しく、効率的で誰でも安全に利用できる新しいモビリティインフラへの期待は高く、省力化・経営効率化のためのDXと、省エネルギー化・環境負荷低減のためのGXを活用した様々な変革の取組みを進めています。
本号では、これらの取組みのうち、DX関連ではデジタル基盤“Serendie”による鉄道EMS、自動運転モビリティ管制技術、トレインコネクト、また、GX関連では次世代蓄電モジュールMHPB、自然冷媒R290を適用した車両用空調装置について紹介します。


巻頭言

鳥海不二夫

巻頭論文

成松延佳

モビリティ関連の社会課題の解決に当たり,欧州のSUMP(Sustainable Urban Mobility Plan)など,人間中心の都市計画に合わせてモビリティインフラを変革する動きがある。都市内・都市間の人流・物流を担う輸送機関として,環境負荷が小さく,輸送効率が高く,安全で誰でも利用しやすい,新しいモビリティインフラへの期待は高い。
そこで,三菱電機はデジタル空間を利用して効率化を図るDX(デジタルトランスフォーメーション)と,技術革新によって環境負荷軽減を目指すGX(グリーントランスフォーメーション)を適用し,100年にわたる鉄道事業での知見・経験とデジタル基盤“Serendie”(注1)(セレンディ)を活用した顧客との価値共創によってモビリティインフラを変革して,持続可能な社会の実現に貢献する。

(注1) “Serendipity”と“Digital Engineering”を掛け合わせた造語であり,データ活用を通じて事業横断型のサービスを創出するためのデジタル基盤である。異なる領域の機器やシステム,サービスから集約されたデータのこれまでにない巡り合い(=Serendipity)と,培ってきた技術と限りない創造力(=Digital Engineering)によって,顧客と社会に新しい価値を提供し,活力とゆとりある社会の実現に貢献する。

特集論文(全5編)

樋口竜太/進士晃輔/今村泰隆/石山琢麻

三菱電機は当社独自のデジタル基盤“Serendie”(セレンディ)を活用して,データ分析サービスの提供を皮切りに,鉄道事業者の鉄道アセットの最適配置や最適制御の導入,複数編成の運行制御,さらにこれらを組み合わせた鉄道システムのエネルギー運用の全体最適化を進めている。また,将来的には鉄道で収集したデータを分析・活用し,沿線地域とも連携することで,沿線地域全体でのエネルギー供給の最適化を図る。これら一連のソリューション(鉄道EMS(Energy Management Solution))展開によって,カーボンニュートラルの実現に貢献する。

森岡達也/原田領太郎/横堤 良

脱炭素社会の実現に向けて,再生可能エネルギーの活用や電動化の推進に当たり蓄電技術の進歩が重要になっている。電動化の鍵を握るバッテリーは,製品によって出力,容量,寿命などに異なる特長があり,用途に応じて使い分けている。また,急速充電やワイヤレス充電といったバッテリー関連の新技術も進歩して,その可能性を広げている。例えば鉄道業界では,非電化区間用や非常走行用として鉄道車両へのバッテリー搭載が進んでいるが,出力・容量確保のため多数のバッテリーが必要になること,また,相当の充電時間が必要になることなどの課題がある。三菱電機は高電力密度,長寿命,大容量化に優れた次世代蓄電モジュール“MHPB”を新たに開発し,エネルギーソリューションによって脱炭素化の推進に貢献する。

井上武志/祖川泰之/藤木克洋/新宮和平/小窪 聡

持続可能な社会の実現に向けて,冷媒規制の強化が進む中,鉄道空調業界では低GWP(地球温暖化係数)で環境負荷が少ない自然冷媒が求められている。R290(C3H8(プロパン))は優れた冷却性能と低環境負荷を備えた冷媒として注目されている反面,強燃性を持つため,その導入にはリスクアセスメントと火災対策が不可欠である。そこで三菱電機は,欧州規制に適合した安全かつ信頼性の高い鉄道車両用空調装置を開発し,R290を用いた冷凍サイクルを設計・検証した。省冷媒化設計,小型独立冷凍サイクルの複数搭載,ロウ付け部の最適配置,漏洩(ろうえい)冷媒の迅速排出機構を採用することで,環境性能と安全性を両立させ,鉄道車両用空調装置としての実用性を確立した。この成果は,ドイツ(ミュンヘン)の近郊車両用空調装置に採用され,鉄道空調業界でのR290の適用拡大に貢献するものである。

奈良淳一/茂地顕一郎/川股正和

三菱電機は鉄道情報提供プラットフォーム“Train Connect”(トレインコネクト)を新たに開発し,2024年1月から鉄道事業者やITベンダー向けに提供を開始した。トレインコネクトは,乗車中の列車固有の情報を乗客が持つスマートフォンやタブレット,スマートウォッチ等のスマートデバイスに発信して列車と乗客をつなぎ,乗車や列車情報をトリガーとした新しいサービスを創出できる。トレインコネクトのユースケースを検討することで,情報提供プラットフォームとしての利用を促進し,新たな旅客サービスの展開につなげていく。

石田貴仁/村山 修/河合克哉

旺盛なインバウンド需要,国内旅行需要の拡大によって,近年,リゾート施設の拡充や新規開設が増加しており,広大な敷地内の各種建物間で利用者の送迎サービスを提供している施設も増えている。一方,昨今の働き手不足やインバウンド需要の急増に対応するため,従業員の確保と予約の効率的な管理などが課題になっており,それら喫緊の課題を持つリゾート施設向けに自動運転モビリティ管制システムを導入し,課題解決を図った。また,自動運転モビリティの配車に関する考え方を整理するとともに,自動運転モビリティ管制システムによる複数台のモビリティを対象にした新たな調停機能を開発し,適用した。