巻頭言
三菱電機技報
三菱電機の優れた技術・製品、技術開発活動を広く紹介しています。2025年08月号
特集 「持続的な事業成長を牽引するデジタル技術(前編)」
2025年08月28日発行
持続的な事業成長を牽引するデジタル技術
特集論文
全6編
特集概要
三菱電機グループは、サステナビリティの実現を経営の根幹に位置付け、社会・環境貢献と更なる事業発展を目指して、リスクを恐れず新たな発想で価値を創出する「イノベーティブカンパニー」へと変革します。強みであるコンポーネント技術とデジタル技術を活用し、基盤技術を深化させることで、持続的な事業成長を牽引する研究開発を推進します。
イノベーティブカンパニーへの変革において、デジタル技術は鍵となる重要な技術です。
本号では、“インテリジェント自律制御技術”と“サイバーセキュリティー・暗号技術”について紹介します。
巻頭言
岡 徹
特集論文(全6編)
山口裕太郎
レーダー・通信システムへの適用が検討されている高耐電力なGallium Nitride(GaN:窒化ガリウム)低雑音増幅器(Low Noise Amplifier:LNA)は半導体欠陥(トラップ)の影響で過入力直後のロバストな動作の実現が難しかった。これを解決するために,トランジスター自身のトラップを利用してバイアス電圧を自律的に変化させることによって,出力電力の過渡的な変化ΔPoutを抑制し,ロバストな動作を可能にする回路を開発した。この回路を試作・検証した結果,室温(300K)でΔPoutを2.4dBから0.2dBに低減し,高温(350K)でも1.9dBから0.2dBに低減し,この回路の有効性を確認した。
諸熊健一/和田幸彦/山岡祐太/高宮 真
2050年のカーボンニュートラルの実現に向けて,再生可能エネルギーの利用等,パワーエレクトロニクス機器(以下“パワエレ機器”という。)の存在感が増している。現在のパワエレ機器は,パワーデバイスのスイッチング動作を活用した電力変換技術が基盤になる。スイッチング動作で発生する電力損失と電磁ノイズには相反関係があり,この相反関係を改善するデジタルゲート駆動技術が注目されている。
今回,汎用のゲートドライバーICを使って,駆動信号強度を最適なタイミングで3回変化させる駆動方法を東京大学との共同研究で提案した。従来の駆動方式と比較して50Aで25%,100Aで18%のスイッチング損失(ターンオン時)を低減できて,パワエレ機器の更なる省エネルギーへの貢献が期待できる結果になった。
中井敦子/矢口喬脩/八田夏美/海江田広和/中川晃一
生産現場では,労働力不足を補うための運用自動化ニーズが高まっている。生産現場での生産スケジュールは現場監督者が作成することが多いが,非常に労力がかかる作業になっていた。この課題を解決するために,現場作業者と生産設備が混在して作業する生産現場で生産能力が低下した際に,現場作業者と生産設備各々についてあらかじめ定義したプロファイル情報を用いて最もコスト効率の高い対策を自動立案し,適用する手法を開発した。また,生産設備での非稼働時間を最小化する生産スケジュールを高速に作成するために,整数最適化問題として定式化し処理する部分とルールベースで処理する部分を組み合わせた最適化手法を開発した。
本間 充/藤好宏樹/山田浩史/秋山智広
三菱電機は,労働力不足やコスト上昇といった物流業界の課題に対応するため,物流倉庫内のトレーラー自動搬送でのトラクターの認知技術と自動運転制御技術の開発に取り組んでいる。この技術は,緊急自動ブレーキ機能や複数センサーを活用したセンサーフュージョン技術が搭載されたトラクターによって,自動搬送と施設全体の運用効率及び安全性を高めることができる。さらに,トレーラーの搬送指示に基づいてトレーラー牽引(けんいん)状態と自動運転タスクに応じた経路生成手法を適切に切り替える経路生成管理機能を導入し,トラクターの自動運転制御を高精度かつ効率的に実現している。
毛利寿志/米持一樹/三澤 学
システム設計上,情報漏洩(ろうえい)や不正アクセス等の脆弱(ぜいじゃく)性が含まれないことを保証する方法として,セキュリティー検証がある。従来の検証方法では,形式言語理論やツール固有の言語といった高度な専門知識が必要,かつシステムが複雑になると検証が現実的な時間で完了しない,という課題があった。そこで,専門的で記述内容をすぐに理解しづらい言語表現ではなく,データ間の関係性を視覚的に把握できる一般的なグラフデータベース(以下“グラフDB”という。)を用いて,データ挿入と探索のデータベース操作でセキュリティー検証を可能にする方法を開発した。特定の暗号プロトコルを検証した結果,グラフ表示によって直感的な検証で従来と同様に脆弱性を検出した。さらに,検証時間が削減できることを理論的に示した。
山本 匠/野澤康平/宇谷亮太
サイバー攻撃による情報漏えいが課題であると言われているが,実際には,内部犯による情報漏えいも数多く発生している(1)。内部犯は正規の権限を持つ悪意を持ったユーザーであり,既存のセキュリティー対策ではその兆候を明確に捉えることが難しい。内部犯の悪意を顕在化させるために,囮(おとり)に着目した。普段とは異なる活動をするユーザーに対して,動的に囮のファイルを配置し,囮のファイルへのアクセスの傾向を基に内部犯を絞り込む手法を開発した。