巻頭言
三菱電機技報
三菱電機の優れた技術・製品、技術開発活動を広く紹介しています。2025年10月号
特集「人々の暮らしを支える快適で安全・安心な空間創造に貢献する空調と家電」
2025年10月20日発行
人々の暮らしを支える快適で安全・安心な空間創造に貢献する空調と家電
巻頭論文
ライフソリューションの最新技術
特集論文
全5編
特集概要
三菱電機グループは、サステナビリティの実現を経営の根幹に位置付けて、カーボンニュートラルをはじめとする社会課題に対して、事業を通じた解決に取り組んでいます。また、リビング・デジタルメディア事業本部は、居住空間から産業空間まで様々な環境に直結した製品やシステムを全世界に対して供給しています。差し迫る様々な社会的課題に対応しながら、多様な生活空間で、人々の暮らしを支える快適で安全・安心な空間創造に貢献していくことを目指しています。
本号では、低GWP(Global Warming Potential:地球温暖化係数)冷媒に対応した高効率・冷媒転換対応製品や空調システムの省エネルギー運用・リニューアルに対応した製品などを紹介します。
巻頭言
安東正史
巻頭論文
野本 宗
三菱電機は,ライフビジネスエリアの事業を通じて,あらゆる生活空間で,快適で安全・安心な環境を創造するソリューションプロバイダーになることを目指している。
環境負荷を低減し,資源を効率的に循環させるサーキュラーエコノミーへの取組み強化で,社会課題の解決を目指す。
空調システムの保守・省エネルギー運用・リニューアルといった商品のライフサイクルを通じて,顧客価値の提供を目指す。持続可能な社会の実現,カーボンニュートラルとウェルビーイングの実現に貢献していく。
特集論文(全5編)
石原正裕/沖野沙織/伊藤慎一/加藤芽美
近年,社会課題になっているヒートショック,熱中症対策などの健康被害の抑制に向けて,三菱電機は,宅内全体の温熱環境を改善しつつ高い経済性と省施工を実現するマルチエリア空調“Good Share!”(グッシェア)を開発した。このシステムでは,当社エアコンと送風ファン及び環境センサーを,当社IoT(Internet of Things)ライフソリューションプラットフォーム“Linova”(リノバ)に接続して,機器を連携させた最適な制御を行うことで,温熱環境改善と省エネルギーを両立している。機器連携の制御は,Linovaの仮想機器機能を使用することで,複数の機器に対する複雑な制御を実現した。今後も仮想機器機能を活用した制御の高度化,複数の機器を組み合わせたシステムソリューションの提供に取り組んでいく。
深谷繕弘/山口慶二郎
カーボンニュートラルの実現に向けた建物のZEB(net Zero Energy Building)化を背景に,空調と換気エネルギーの削減が重要視されていることから,全熱交換器の採用及び高効率化の需要は高まっている。
三菱電機は,既設建物に設置された天井埋込形に対して,既設品の筐体(きょうたい)を再利用し,主要部材だけを点検口から部分更新する新たなLCS(Life Cycle Solution)開発を実施した。従来の製品本体更新と比較し,天井開口工事が不要になるため,施工コスト・期間の削減が可能である。さらに,最新機種の高効率DCブラシレスモーターへの入替えを可能な仕様にして,既設品から消費電力削減を実現した。また,部分更新のため,機器更新と比較して調達・廃棄時の資源(鉄・スチロールなど)を削減し,CO2排出量の削減につながることから,環境負荷低減にも貢献した。
江上 誠/幕田史哉
フロン排出抑制法によって,業務用低温機器に使用される冷媒のGWP(Global Warming Potential)加重平均値を2025年度に1,500以下,2029年度に750以下にすることが求められている。三菱電機は,2019年にR463A-J(GWP:1,483(注1))を採用した機器を開発して2025年度の基準に対応してきたが,更なる低GWP化が求められている。そこで,S+3E(安全性,環境性,省エネルギー性,経済性)の観点からR32(GWP:675)を選定し,業界初(注2)となるR32クールマルチシステムを開発した。このシステムは,微燃性冷媒に対する燃焼・爆発に備えるとともに,室外での冷媒漏えいの検知及び漏えい箇所の早期発見を可能にする機能を持っており,環境性と安全性の両立を実現した。
(注1) 経済産業省告示第五十四号に基づくものでありISO 5149-1:2024+And2:2021に定める値を使用。
(注2) 2025年1月1日現在,当社調べ
樋原直之/遠藤弘明
IoT(Internet of Things)技術の発展によって,空調・家電機器のIoT化が進んでいる。三菱電機でも機器の遠隔操作に加えて,機器間の連携制御や,データ活用による新たな顧客価値の開発を進めている。一方,空調・家電機器はユーザーの元で長期間にわたって使用されるため,使い勝手やセキュリティーに関する課題も顕在化しつつあり,製品ライフサイクルの期間,安心して使ってもらえるようにすることが必要である。通信部分の課題は機器によらず共通のため,当社では,機器に搭載する通信機能をプラットフォーム化して開発の効率化を図っている。
小池成彦
三菱電機は,食品ロスの削減と,冷凍した野菜の使い勝手向上を狙って,野菜を手軽に冷凍し,調理の際にも悩まず・手間なく使える“できちゃうV冷凍”機能を開発した。冷凍した野菜の使い勝手向上だけでなく,野菜の冷凍を促す機能として提案することで,近年の物価高騰や,食品ロス削減意識の変化にも対応できて,これまで野菜を冷凍しなかったユーザーにも,野菜を冷凍するという新しい価値を提供できる。この機能は,冷凍した野菜を砕いて調理に使う,という従来にない新しい体験のため,機能に関連する動画コンテンツ・レシピを作成し,具体的な使い方・生活シーンも含めてユーザーへ提案した。できちゃうV冷凍を搭載した三菱冷蔵庫“MZシリーズ”を2024年12月に,“WZシリーズ”を2025年1月に発売した。