三菱電機技報

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三菱電機の優れた技術・製品、技術開発活動を広く紹介しています。

2025年11月号

特集「昇降機・ビルシステム」

2025年11月20日発行

三菱電機技報 2025年11月号

巻頭言

昇降機・ビルシステム特集に寄せて

特集論文

全6編

特集概要

三菱電機ビルソリューションズ㈱では、昇降機、空調機やビルマネジメントシステムをはじめとしたビル内設備の販売・製造・施工・保守・リニューアルを通じて、社会課題の解決と個々の利用者の視点に基づいた新たな価値を提供し、ビル空間における日々の安全・安心・快適の更なる進化と、持続可能な社会の両立に貢献していきます。
本号では、これらの昇降機・ビルシステムの近年の取組みについてご紹介します。


巻頭言

有川真明

特集論文(全6編)

矢ヶ﨑 歩/鈴木 嶺

三菱電機ビルソリューションズ㈱(MEBS)は,ビル内でのロボットの円滑な縦・横移動を支援するため,エレベーター連携機能や,入退室システム連携機能などを実装した“Ville-feuille”ロボット移動支援サービスを提供してきた。
今回,警備,清掃,搬送など複数種類のロボットが導入される大規模ビルで,ロボットの維持管理を担うビルオーナー,ビル管理者向けに,当該維持管理業務の負荷を軽減するための機能として,“ロボット管制機能”(Ville-feuilleで管制することでビル内のロボットの効率的かつ安全な平面移動を支援)と,“ロボット統合監視機能”(Ville-feuilleの画面にロボットの位置や状態を表示し,ロボットの業務状況や異常有無を監視)を開発した。

穴澤勝彦/鹿野智裕/岡田菜々美/片山勇気

世界的に運用エネルギー削減からライフサイクル全体のCO2削減に注目がシフトする中で,国内でもライフサイクルCO2の制度化に向けた動きが始まっている。木材は持続可能な建材であり,地震の揺れを軽減できる特長から,地震の多い日本で以前から活用されている。また,木材特有の親しみや温かみを覚える心理的効果もある。近年では,鉄筋コンクリートと比較したCO2貯蔵メリットのある建材として大型の建築物にも木材が使用されるなど,ますます注目が高まっている。
このたび,三菱電機ビルソリューションズ㈱(MEBS)は木造建築の魅力を発信するポラスグループ(1)と連携し,ZEB(net Zero Energy Building)プランナーとして各種設備の設計・施工を一手に担って,国内初(注1)の建造物“木造75分準耐火構造+『ZEB』”を含む木造3棟で『ZEB』を達成した。

(注1) 2024年10月21日現在,ポラスグループ調べ

井上卓哉/黒瀬浩平/湯浅英治/田中大地

建築業界では労働力不足やサステナビリティ実現への対応が社会課題となっており,建築の一部を担うエレベーターにおいても“据付性改良”と“環境負荷低減”に寄与するニーズが高まっている。こうした背景を踏まえ“先進性”“据付性”“発展性”をコンセプトに新デザインの乗場ボタンとホールランタンを開発した。ボックスレス構成の採用によって建築負担の削減と据付省力化を実現し,構成ミニマル化による材料削減や製造,輸送効率向上を通じて,環境負荷の低減にも寄与している。さらに,グローバル意匠機器開発ではデザイン合意形成までに時間がかかる課題があるが,今回の開発では初期から3DCG(Computer Graphics)データ(注1)を活用することで,デザイン合意形成の早期化を実現し,開発期間の圧縮と業務合理化の両立を実現した。

(注1) 本稿の図は全て3DCGデータを活用

熊谷誠一/渡邊明彦/毛利一成

2019年から海外のサービス拠点向けに,昇降機とネットワーク接続するグローバル保守基盤システム“M’s BRIDGE”(エムズブリッジ)の提供を開始した。以降,M’s BRIDGEによって収集されたデータは,故障発生時の早期復旧や最適な保全計画の策定に利用されて,保守業務の効率化と高品質な保守サービスの提供を実現してきた。このM’s BRIDGEの付加価値を高めるため,ビルオーナーや管理者に対する顧客向け情報提供サービス“M’s BRIDGE mobile”(エムズブリッジモバイル)を開発した(1)。契約された昇降機が世界各地に点在するケースでも,スマートフォンから保守状況や稼働状況を容易に確認できるサービスを提供することで,顧客の安全・安心の向上に貢献する。

鈴木智昭

中低層共同住宅向けとして1997年から出荷を開始した4人乗り小形エレベーター“MELWIDE”(メルワイド)のリニューアル機種として“Elemotion+ for MELWIDE”を開発した。これは三菱電機として初めて市場投入した機械室レスエレベーターのリニューアル機種である。市場要求が高まっている耐震性能の向上,戸開走行保護装置の追加,最新の制御方式の適用によるエレベーターの安全・安心な機能の提供,及び直感的に分かりやすいアニメーション表示が可能なかご内インジケーターの採用を実現するとともに,LED天井照明や操作盤にバイオプラスチックを採用するなど環境に配慮した製品を,従来の機械室ありリニューアル機種と同等な利用停止期間で提供する。

松本誠司

明石海峡大橋向けのエレベーターリニューアルプロジェクトでは,高揚程(注1)・特殊環境の課題に対して開発から据付・保守までの一連のプロセスを経て,安全かつ信頼性の高いエレベーターの運行を実現した。このプロジェクトは,事前検討の段階で特殊環境性能の要件を決定し,高揚程及び傾斜昇降路に対応する機器の開発及び特殊環境用の制御ケーブルや主ロープ振れ止め装置の設計を行い,据付・保守時には実環境下で制御ケーブルの調査を実施して機器性能を確認した。このプロセスを通して,特殊環境下でのエレベーターの安全性と信頼性を確保する基盤を築いた。

(注1) エレベーターの移動距離が非常に長いタイプ