三菱電機技報

三菱電機技報

三菱電機の優れた技術・製品、技術開発活動を広く紹介しています。

2026年06月号

持続可能な社会を支えるインフラソリューション
—脱炭素への貢献—

2026年06月22日発行

三菱電機技報 2026年06月号

巻頭言

社会インフラの未来を“循環型 デジタル・エンジニアリング”で切り拓く
―デジタル基盤“Serendie”が加速させるイノベーティブ・カンパニーへの変革―

特集論文

全11編

特集概要

三菱電機グループは、事業を通じて社会課題を解決するという原点に立ち、持続可能な社会(サステナビリティ)の実現を経営の根幹に位置づけています。インフラビジネスエリア(IBA)では、社会を支えるインフラの安定稼働とカーボンニュートラルの実現、日本・アジアの安全保障への貢献を通じて、これらの課題解決に寄与することを「ありたい姿」としています。IBAが取り組んでいる持続可能な社会を支えるインフラソリューションの具体的な取組みについて、6月号と7月号の2巻にわたってお届けします。
本号では、主に脱炭素社会の実現に貢献する技術について紹介します。


巻頭言

根来秀人

特集論文(全11編)

水城 優/小島康弘/松田啓史

近年,再生可能エネルギー(以下“再エネ”という。)の導入拡大が進む中,需給変動や系統安定性に関する課題が存在する。三菱電機は南洋理工大学(Nanyang Technological University)(以下“NTU”という。)と連携し,シンガポール・セマカウ島で進行中のREIDS(Renewable Energy Integration Demonstrator - Singapore)実証プロジェクト(1)に参画している。このプロジェクトでは当社の分散型電源制御ソリューション“BLEnDer RE”(2)を導入し,昼間に再エネによる余剰電力を蓄えて夜間に放電することで,島内の再エネ利用率の向上を目指している。事業の海外展開を目指す当社にとって,NTUとの共同実証は,グローバルプレゼンス向上に寄与するものと考えている。

森野友理香/甫水佳奈子/深沢翔平/藤井紀帆

スマートメーターシステム(以下,“SMS”という。)は,各家庭や工場に設置したスマートメーター(以下,“SM”という。)から電力使用量をヘッドエンドシステム(以下,“HES”という。)へ自動的に収集(自動検針)し,運用・管理する仕組みである。三菱電機は,電力会社向けにSMSを開発・納入し,検針業務効率化に寄与してきた。近年の再生可能エネルギー(以下,“再エネ”という。)普及に伴って,電力データの高度活用や利用拡大の必要性が高まって,第2世代SMSでは自動検針の高粒度化や共同検針等の要件が追加された。当社はこれらの要件を実現するため,通信の大容量化とスループット向上,高機能化,HESのアーキテクチャー刷新による拡張性向上を実施した。今後は,これらの成果を生かして,海外展開を含む事業領域拡大を図る。

木皿大介/石崎 啓/岡本健太郎

2050年カーボンニュートラル達成に向けて再生可能エネルギーの導入が進む一方,出力変動による電力需給の不安定化が課題である。電力需給の調整力を高めるには,需要側に存在する分散型エネルギーリソース(DER)の有効活用が重要であり,その一手段として需要家機器のDRready対応が求められる。
三菱電機は,スマートメーターのIoT(Internet of Things)ルートに対応した無線端末である“BLEnDer ICE(Intelligent Communication Edge)”の試作と,DERを統合管理するIoTプラットフォーム“BLEnDer DEP(Digital Energy Platform)”を開発し,既存インフラを活用した多様なDERの接続及び制御を実現している。今後,膨大なDERの統合監視・制御を通じて,再生可能エネルギーの有効活用と電力需給の安定化に貢献する。

大山貴央/森川史也

生成AIの普及に伴うデータセンターの大規模増設や再生可能エネルギー(以下,“再エネ”という。)の大量導入を背景に,電力の需給構造は大きな転換期を迎えている。需給調整市場の前日化や約定ブロックの細分化も進んで,電気事業者(以下,“事業者”という。)には複数市場を横断した高度な需給最適化が不可欠になった。三菱電機は,電力ICT(Information and Communication Technology)ソリューション“BLEnDer”シリーズを活用して,スポット市場・需給調整市場・時間前市場への入札計画での最適化課題を改善した。具体的には,火力発電機の起動停止・出力帯制約や蓄電池の充放電制約,調整力確保制約などを定式化し,電力量と調整力の同時最適化を実現した。併せて,商用ソルバー(注1)やAI技術の活用による求解の高速化を推進している。

(注1) 与えられた条件や制約を満たす最適解や解を自動的に探索・計算するソフトウエアやアルゴリズムのこと

松村洪作/高田一輝/中野晴也/前田はるか

電力業界は,再生可能エネルギー(以下,“再エネ”という。)や蓄電池など分散電源の増加,データセンター需要拡大,新市場制度の導入など,大きな変革期を迎えている。三菱電機の“電力需給ソリューション”(以下,“本ソリューション”という。)は,これらの変化に対応した電気事業者(以下,“事業者”という。)向けのソリューションであり,事業者の持つ電源と需要ポートフォリオを踏まえた収益最大化の実現や,日々の業務自動化・省力化に貢献する。BG(Balancing Group)運用,分散電源管理,蓄電池監視制御などの需給運用システム開発の豊富な実績を生かして,電力業界の変化に柔軟に対応していくことで,持続可能なエネルギー社会の実現に貢献していく。

小林弘幸/浅木森孔貴

カーボンニュートラルの実現に向けた取組みとしてEV(Electric Vehicle)化が世界的に注目・推進されている。特にCO2排出量の多いHeavy-Duty Vehicle(HDV)(トラック,バス等)のEV化が求められているが,その際の大きな課題が充電ステーションや高速充電器等の充電インフラの整備と普及である。
そのため,三菱電機ではHDVのEV化促進に貢献するためのソリューションサービスとして“HubCharge”(EV充電最適化ソリューション)を開発するとともに,その導入効果検証シミュレーション環境を構築した。
HubChargeは,HDVの運行スケジュールを順守しつつ,エネルギーコストを低減し,再生可能エネルギー(以下“再エネ”という。)利用を促進するソリューションであり,今後の脱炭素化社会の実現への貢献が期待される。

灘 香帆/畭尾昌弘/山中大輔

2050年カーボンニュートラル社会の実現に向けて,大量導入やコスト低減が可能で経済波及効果が期待される,洋上風力発電が再生可能エネルギーの主力電源と考えられている。これまで欧州を中心に洋上風力発電の導入が拡大しているが,洋上で生成された再生可能エネルギーを陸上の需要家エリアまで海底ケーブルを介して送電するために,浮体式洋上プラットフォーム上に高圧直流送電(HVDC(High Voltage DC))用変換器を設置する必要がある。
今回三菱電機は,浮体式洋上プラットフォームへの実装を想定し,HVDC変換器を構成する小型化・低損失化した単位変換器(サブモジュール:SM)の設計・製作とその検証試験及びバルブタワーの設計を実施し,HVDC変換器システムの開発に目途を得た。

川島啓吾/入来院浩司/眞辺信也

国内水道事業では,人口減少に伴う料金収入減少や働き手不足に加えて,運転管理費の中で高い割合を占める電力費の高騰によって経営環境は厳しさを増しており,電力費の削減が強く求められている。このニーズに応えるために,電力費削減を主目的に上水道プラントの様々な運用をシミュレーションし,オペレーターの意思決定を支援する上水道プラント運転支援装置“WE-SMART”(以下,“WE-SMART”という。)を開発した。WE-SMARTは,電力費を削減するための運転計画や運用の見直し,安全安心な運転計画の支援,新人オペレーターの教育など,様々な用途で活用することが可能である。

吉田 航/池田直樹/藤原 拓/金海秀紀

三菱電機では,下水道の脱炭素化に貢献できる二つのセンシング技術を開発している。脱水汚泥の含水率測定技術では,近赤外センサーを用いることで,従来の乾燥減量法より短時間で脱水汚泥の含水率を測定できる見込みを得た。これによって,測定結果を即座に現場運転に反映し,運転の安定化と脱炭素化の両立が期待される。N2O(亜酸化窒素)ソフトセンシング技術では,水処理で排出される温室効果ガスN2O量を機械学習によって推定することで,高価なN2O計の設置を最小限に抑えて,その排出特性を把握することが可能になる。両技術は現場適用性が高く,今後もセンシングの精度向上と適用拡大を進めて,下水道の脱炭素化実現に貢献していく。

二見充輝/黒川正人/吉岐 航/玉田晃均

温室効果ガス観測技術衛星GOSAT(Greenhouse gases Observing SATellite,愛称:いぶき)シリーズは,気候変動に関する科学の発展への貢献と気候変動政策への貢献(脱炭素社会開発の推進)をミッションとした衛星シリーズである。三菱電機は衛星プライムメーカーとして,契約元となる宇宙航空研究開発機構(JAXA)に加えて,環境省,国立環境研究所(NIES)の指導の下,開発・製造・運用に貢献している。GOSATシリーズの後継である温室効果ガス・水循環観測技術衛星GOSAT-GW(Global Observing SATellite for Greenhouse gases and Water cycle,愛称:いぶきGW)は,2025年6月29日に種子島宇宙センターからH-IIAロケット50号機で打ち上げられて,計画どおり所定の軌道へ投入された。
GOSAT-GWに搭載されている温室効果ガス観測センサー3型(TANSO-3)は,地上試験で高精度な校正が行われ,打上げ後の初期運用でも分光観測センサーとしての基本性能が確認された。今後,本格運用に向けた詳細な性能評価を行い,高精度な温室効果ガス観測の実現を通じて持続可能な社会への貢献が期待される。

川本 誠/藤岡恭平/下笠諒平/篠木俊雄/西口博人

三菱電機ではNEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)委託事業“次世代FT反応と液体合成燃料一貫製造プロセスに関する研究開発”で,SOEC(Solid Oxide Electrolysis Cell)共電解の動作安定化と高効率化を目指したシステム開発に取り組んでいる。カーボンニュートラル社会の実現に向けては,カーボンリサイクル技術の早期実用化と社会実装が重要になる。SOECを用いた共電解はその一つで,水蒸気とCO2を同時に電解し,効率良く,水素とCOから成る合成ガスを得られる。この合成ガスは液体燃料の原料として利用できるため,カーボンリサイクルに貢献する。このプロジェクトでSOECスタックモジュールの動作条件を満足しつつ,システム排熱の約70%を再利用できる50kW級SOEC共電解システムの基本構成と運転シーケンスを開発した。