三菱電機技報

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三菱電機の優れた技術・製品、技術開発活動を広く紹介しています。

2026年07月号

持続可能な社会を支えるインフラソリューション
―運用・保守の自動化―

2026年07月21日発行

三菱電機技報 2026年07月号

特集論文

全11編

一般論文

全1編

技術紹介

全2編

特集概要

三菱電機グループは、事業を通じて社会課題を解決するという原点に立ち、持続可能な社会(サステナビリティ)の実現を経営の根幹に位置づけています。
インフラビジネスエリア(IBA)では、社会を支えるインフラの安定稼働とカーボンニュートラルの実現、日本・アジアの安全保障への貢献を通じて、これらの課題解決に寄与することを「ありたい姿」としています。
IBAが取り組んでいる持続可能な社会を支えるインフラソリューションの具体的な取組みについて、6月号と7月号の2号にわたってお届けしています。
本号では、主に社会インフラにおける運用・保守業務の省力化・自動化に貢献する技術について紹介します。


特集論文(全11編)

広田紗奈美/竹内智晴

三菱電機では,鉄道車両保守での鉄道事業者及びメーカーの業務効率化・高度化を支援する新規ソリューション“WHIZ CONDUCTOR”の構築を進めている。車両保守業務でのデジタル技術活用の効果を最大化するためには,企業や現場の垣根を超えてデータ・知見を共有し,鉄道業界全体で保守力を向上させていくことが不可欠である。
このソリューションは,鉄道事業者やメーカーが車両・搭載機器のライフサイクルデータをシームレスに共有・活用できる“共創プラットフォーム”として機能する。このプラットフォームを基盤とした共創活動を活性化させることで,持続可能な鉄道ビジネスの姿を具現化し,鉄道業界全体のサステナビリティ向上に貢献する。

稲葉行俊/稲田雅詞

近年,労働者人口の減少によって,物流や鉄道をはじめとする交通機関の運転手不足が社会的課題になっている中,安心・安全な自動運転の実現に向けた技術開発が進んでいる。鉄道車両は自動車に比べて質量が大きく,最大制動距離が600mに達する場合がある。このため,従来の自動車向けセンサー(LiDAR(Light Detection And Ranging),ミリ波レーダー等)では検知距離が不足し,前方監視の実用化が困難であった。
今回,最大600m先の人物及び障害物を検知可能な長距離LiDARと可視カメラを統合した前方監視システムを開発した。このシステムは,鉄道車両の自動運転のほか,鉄道の沿線・高速道路での障害物検知などへの活用が期待できる。

磯崎 新/森 勇二/金澤哲夫

日本の鉄道インフラは,老朽化に伴うインフラ維持管理コストの増大に加えて,少子高齢化による労働人口の減少という複合的な問題に直面しており,インフラ維持管理の効率化の手段として,DX(Digital Transformation)の活用を推進している。MDMD(Mitsubishi Multi-dimensional Data Management for Diagnosis:三菱多次元施設・設備管理システム)は,当社が開発したMMSD(Mitsubishi Mobile Monitoring System for Diagnosis:三菱インフラモニタリングシステム)が提供する高精度・高密度な三次元点群データや高精細画像を基軸とし,鉄道インフラの“デジタルツイン”を実現するソリューションである。デジタルツインによって,正確な位置情報の共有,設備間の距離計測,経年変化の見える化や解析結果の管理を行うことで,現地作業や設計業務のDXを推進し,安全性向上と業務効率化を両立する持続可能なインフラ維持管理の実現に貢献する。

橋本 諭/國澤昌史/浦久保貴史

三菱電機は,少子高齢化や自動運転拡大に伴って変化する鉄道指令業務の効率化を実現する自動指令システムを開発した。このシステムは,列車運行シミュレーションに基づいて遅延発生時に運転整理案を自動生成し,さらに車両・乗務員運用の変更案作成や気象に基づく規制自動発令を統合的に行うことで,少人数体制でも安全かつ効率的な運行管理を実現することを目指す。将来的には輸送指令,電力指令,信号通信指令などの各指令エージェントへと機能を拡張し,これらを協調制御する総合指令AIオーケストレーターの導入によって横断的な統合指令システムへの展開を目指していく。

森本恭平/清田峻吾/浅見拓哉

昨今の大雨洪水による激甚災害の増加を受けて,国土交通省の流域治水プロジェクト等,流域全体の被害軽減が急務である。この流域管理にはダム・河川管理者の熟練のノウハウが不可欠だが,災害時の判断の難しさや管理者の人手不足等の問題は深刻な課題になっている。三菱電機はこれらの課題に対して,高度な数値解析技術を用いて運用の高度化を実現する“ダム流入量予測システム”を開発し,運用の中で更なる精度改善に取り組んでいる。このシステムは過去のダム・河川データから数値最適化技術によってモデルパラメーターを自動調整し,熟練経験に頼らず流入量の高精度かつ長時間予測を可能とする。このシステムを活用することで早期放流判断を支援し,意思決定高度化と人的ミス低減,及び防災力向上に寄与する。

檜垣宏策/山足光義/西濱 令/中尾尭理/和田知也

製造DX(Digital Transformation)の起点になるのは,設備の安定稼働・品質保証に直結する計測データを正確に継続収集できる環境を作ることである。ところが旧設備では,メーター値が表示されていても自動抽出が難しく,追加計測器や設備更新はコスト面で障壁になりやすい。“kizkia-Meter”は,アナログ/7セグメント表示器等をカメラで撮影し,エッジパソコン上のAIと独自アルゴリズムによってリアルタイムでデジタル化する。散在するメーターをダッシュボードで一画面に集約し,複数メーターのリアルタイム確認や画像付き履歴のエクスポートを可能にすることで,点検・監査のエビデンス確保にも寄与する。さらにPLC(設備制御用コントローラー)連携やHTTP(Hyper Text Transfer Protocol) API(Application Programming Interface)/CSV(Comma Separated Values)出力によって既存システムへの取り込みを支援し,巡回・張り付き作業の削減,異常の早期把握,予知保全・生産性向上に貢献する。これによって,旧設備でも手軽に計測データの継続収集と活用を実現し,製造DXの推進に貢献していく。

甲斐孝幸/江戸貴広/小林武尊/山口信一/ウィシャーン ゴードン/ルルー ジョナトン

工場や施設の稼働に不可欠な電力設備には安全性,信頼性が求められるが,近年の保守人材の減少によって,持続的な運用が難しくなることが懸念されており,保守業務を省力化するスマート保安の実現が急務である。特に,電力設備の安全性を確保するために必要な遮断器では,機器の信頼性を保ちつつ,点検時間を短縮可能な診断技術が求められている。三菱電機は,遮断器の開閉時の動作音を解析し,点検時間の短縮や,異常兆候の早期検出を期待できる遮断器の動作音診断技術を提案した。

松山幸太郎/大竹泰智/ソン ホンボ/ラグナサン アーヴィンド

電力機器で,絶縁劣化が進むと事故・停電につながるため,劣化初期段階で発生する部分放電を検出し発生要因を推定することは安定運用に向けて重要である。近年,機械学習を用いた部分放電診断の有効性が述べられているが,実運用では複数の放電源の混在やノイズ環境に起因する診断精度の低下が課題になっている。これらの課題に対して,深層学習による信号分離モデルであるConv-TasNetを部分放電信号へ適用した複数の放電源の分離手法と,転移学習の一手法である敵対的ドメイン適応を用いたノイズ環境下での診断手法を開発した。

小須田貴之

受配電設備は更新期を迎え保全負荷が増す一方,熟練技術者の退職によって経験知の継承が課題になっていることなどを背景に,近年,周期保全(Time Based Maintenance:TBM)から状態監視保全(Condition Based Maintenance:CBM)への移行が求められている。
そこで,三菱電機では設計知見とデジタル技術を統合した受配電設備向けスマート保安システムを開発した。このシステムは既設盤にセンサーを後付けし,環境・部分放電・絶縁などのデータを統合して設備状態を可視化し,点検の代替を目指す。電気主任技術者不足や老朽設備増加を背景に,遠隔監視・異常兆候検出・余寿命診断を中核機能としてCBM化を支援する。今後は,特高変圧器・非常用発電機など適用範囲を拡大し,設備横断の最適化と受配電設備向けスマート保安システムの社会実装を加速する。

パク オソン/濵田達哉/陳  能/佐方直都

電気設備の保安現場では,従事者の高齢化や少子化に伴う人材不足に加えて,再生可能エネルギー設備の急増による保守点検負荷の増大が課題になっている(1)。こうした背景から,IoT(Internet of Things)技術,AI技術,及び各種環境センサーを組み合わせて,電気設備の異常兆候を遠隔監視で検知し,点検・保守時期を予測することで保守点検業務を効率化する“スマート保安サービス”の普及が加速している(2)。三菱電機は,当社製の高圧気中絶縁スイッチギヤにこれらのスマート保安用機器・センサー類を実装するに当たって,スイッチギヤ本来の性能を維持しつつ,安全かつ容易な機器の脱着を可能にするハードウエア構造を開発した。

加藤 慶/佐子朋生/井手太一

三菱電機は国内の主要な電力流通事業向けにアセットマネジメントシステムを提供してきた(1)。2050年カーボンニュートラル達成に向けて再生可能エネルギー(以下“再エネ”という。)の需要は今後も更に増していくことを鑑みて,当社はアセットマネジメントシステムの発電事業者への製品展開を図っている。アセットマネジメントの基本概念(現状分析・将来予測・計画立案)を念頭に,当社独自の波形解析技術を活用して太陽光発電(PV)設備の現状分析技術(異常検出・原因推定)を開発した。異常の原因を推定できることで異常内容に応じた最適な対処方法を立案できるため,過剰な保守費用の抑制及び保有資産の価値最大化を図れるようになる。今後は現状分析技術に加えて将来予測技術を確立し,再エネ設備の効率的な普及・運用に貢献していく。

一般論文(全1編)

鵜川晋一/佐々木 洸/鈴木雅晴

新型宇宙ステーション補給機(HTV-X)は国際宇宙ステーション(ISS)への物資補給機であり,宇宙ステーション補給機(HTV)の後継機として開発した。主ミッションである輸送能力の大幅な向上に加えて,物資補給後の軌道上実証プラットフォームとしての活用も可能になっている。三菱電機は,宇宙空間を飛行するために必要な全機能を集約した“サービスモジュール”の開発を担当した。HTV-X1号機は2025年10月に打ち上げられて,ISSへの物資補給に成功した。現在,2号機以降の開発も進めている。また,HTV-Xを活用し,ポストISSとして民間宇宙ステーションへの物資補給や,月周回有人拠点(Gateway)への物資補給機への発展も検討している。

技術紹介(全2編)

松岡 暉/眞庭知成/木邊厚視

中村孝大/高嶋佑介/中口卓弥