巻頭言
三菱電機技報
三菱電機の優れた技術・製品、技術開発活動を広く紹介しています。2026年08月号
イノベーティブカンパニーへの変革を牽引するデジタル技術
2026年08月27日発行
イノベーティブカンパニーへの変革を牽引するデジタル技術
特集論文
全8編
特集概要
三菱電機グループは、「飽くなき探求心と驚きの技術で、未来の価値を創造する」を理念に掲げ、サステナビリティの実現を経営の根幹に位置付けています。社会・環境への貢献と事業発展の両立を目指し、リスクを恐れず新たな発想で価値を創出する「イノベーティブカンパニー」への変革を推進し、持続可能な社会の実現に貢献してまいります。
本号では、この変革を牽引するデジタル技術を特集します。物理モデルを組み込んだAIや生成AI、連合学習などの先端技術をはじめ、群ドローンの自律分散制御や生体データ活用、異常予兆検知といった幅広い領域の研究開発成果を紹介します。
巻頭言
岡 徹
特集論文(全8編)
栗山俊通/脇本浩司/蜂谷優人
三菱電機は,物理モデル(逆動力学モデル)を組み込んだ“物理モデル組み込みAI”によって,少量の学習データで機器の劣化を高精度に推定する手法を検討した。従来のAIによる劣化推定は大量の正常データを必要とし,運転パターンの変化や個体差に対して再学習が必要であった。今回の手法は物理的な大まかな挙動を事前に推定し,実測データで機器固有の傾向変動だけを効率的に学習することで学習データ量を大幅に削減する。実機評価(当社産業用ロボット)では学習データ量を約90%削減し,劣化推定性能(AUC)を従来手法の0.68~0.89から0.97~1.00へ向上させて,実際の機器を利用して模擬した劣化をほぼ全て推定できることを確認した。今後は,実際の利用シーンを想定した実証実験を進めて,2027年以降の製品化適用検討に進む。
伊藤直輝/塚田真規
生成AIの活用が全社的に広がって,社内各部門で多様な生成AI活用の開発が進んでいる。生成AIの活用は一層拡大することが予想され,今回の取組みでは,開発したAI資産の再利用を実現する生成AI活用基盤を構築した。複数のAI資産を連携可能とするオーケストレーターと,AI資産と社内外データを接続するデータ連携機能を備えることで,利便性を高めた。また,オープンな標準プロトコルを採用し,外部AIサービスとの接続など柔軟な連携と拡張を可能とした。さらに,認証・認可基盤と連携した権限制御を実現し,利用者がアクセス可能な範囲の情報だけを扱う安心・安全な利用環境を整備した。この基盤を全社の業務改革に活用して開発,運用の効率化を図って,各部門の自走的なAI活用を加速する。
中井綱人
AIサービスは,顧客接点で蓄積されるログ,画像,センサー値,文書,運用ノウハウなどのデータを活用することで,更に高精度で顧客に適したサービスを提供できる。特に,複数顧客や複数拠点が持つデータや知見を生かして,一つのAIサービスを継続的に高度化していくことへの期待が高まっている。一方,こうしたデータの多くは個人情報,企業機密,知的財産を含むため,単純に集約・学習することは難しい。すなわち,複数顧客の機微なデータを安全に利活用できる基盤が不可欠である。三菱電機は,安全なデータ利活用基盤の構築に有用となる技術として,データとその処理を保護するセキュア実行環境(TEE:Trusted Execution Environment),及び生データを外部に出さずに共同で学習する連合学習の検討を進めている。
神谷雅志/堀 淳二/安達佳明/山田旭洋/垣尾政之
近年,“人的資本経営”を重視する企業が増加しており,デジタル技術を活用した生産性の向上に加えて,作業者の働きがい,働きやすさなどのウェルビーイング指標の向上が,事業持続性を左右する一因になると考えられている。
三菱電機は,生体データ計測,生体データ分析及び時空間データ基盤によって作業者のウェルビーイング指標を客観的に把握し,環境制御やインタラクションを通じてウェルビーイング指標を向上させるソリューションの実現を目指している。
馬場直哉/合田雄一/池上季美果/江戸勇樹/田中堅人
自動車内の乗員状態を検知するドライバーモニタリングシステム(DMS)及び乗員モニタリングシステム(OMS)は,安全強化に向けた法規制やアセスメント要求によって,車両への搭載が加速している。DMSでは,IR(Infrared)カメラによる走行中のロバストな脈拍計測技術と,AIを用いた複合的な解析による高精度な飲酒状態検知を開発した。OMSでは,広角カメラとミリ波レーダーを連携し,カメラ画像からの三次元骨格推定によるシート位置に依存しない乗員体格検知と,レーダーの透過性を生かした幼児置き去り検知技術を開発した。今後,車載環境で培った高度な人検知・状態推定技術をヒューマンモニタリングシステムへと発展させて,三菱電機及び三菱電機モビリティ㈱両社の幅広い事業領域へ展開していく。
山隅允裕/森本貴景/朝比奈 努
社会インフラの維持管理の省力化と業務の高度化のため,屋内の狭く閉鎖的な空間に対する点検・計測の自動化が重要である。三菱電機は,狭隘(きょうあい)な閉鎖空間で安全・柔軟な運用を実現する群ドローンの自律分散制御技術の開発に取り組んできた。当社は,群ドローンのシステム構成や,小型・安全・柔軟な運用を実現する自律分散制御技術を検討し,これらの技術のシミュレーション及び実験による編隊飛行の検証を実施した。そして,この技術をドローンに適用することで,複数機で協調・交代運用して多様なタスクを実行する編隊飛行を実現した。
長瀬誉英/森 裕之/中井敦子
ビルの省エネルギー化に向けては,機器の“いつもと違う”運転状態をいち早く検知することが重要である。従来の固定しきい値による異常検知手法は,季節や時間帯による変動への追従が難しく,検知精度に課題があった。この課題を解消するために,ビル内機器のエネルギー消費を時系列予測し,その予測誤差を基に,動的な正常範囲を設定する異常予兆検知手法を提案する(1)。実在のビルの受電電力量データを用いた検証では,ビル内機器のエネルギー消費予測精度はMAPE(Mean Absolute Percentage Error:平均絶対誤差率)1.46%の高い予測精度を達成した。このエネルギー消費予測結果に基づいて,ビル監視システムへの適用を想定した異常予兆検知手法の検証用アプリケーションを開発した結果,機器構成図上での異常予兆の可視化が実現できることを確認した。
目黒正之/吉田真也/西川孝典/清水広之/加藤嘉明
三菱電機グループが目指す“イノベーティブカンパニー”への変革に向けて,2030年度までに2万人のDX人財確保を目指して,2025年4月に“DXイノベーションアカデミー”(以下,“DIA”という。)を設立した。当社でのトライアル運用として1,071人を育成し,2026年度は国内グループ会社に範囲を拡大して本格展開を開始し,3,500人超を育成予定である。
DIAは,“循環型 デジタル・エンジニアリング”具現化に向けた戦略的な人財育成を目的とし,DX(Digital Transformation)人財の七つの類型・役割に基づいた体系的な育成プログラムを提供しているが,2026年度からはDXスキル認定制度を導入する。さらに,産学連携や新たな学びの拠点として整備した“横浜イノベーションスタジオ”活用による実践的な学びとコミュニティー形成を促進していく。