三菱電機技報

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三菱電機の優れた技術・製品、技術開発活動を広く紹介しています。

2026年09月号

イノベーティブカンパニーへの変革を牽引するものづくり技術

2026年09月24日発行

三菱電機技報 2026年09月号

巻頭言

イノベーティブカンパニーへの変革を牽引するものづくり技術

特集論文

全11編

特集概要

三菱電機グループは、企業理念「飽くなき探求心と驚きの技術で、未来の価値を創造する」の理念のもと、長年磨き上げてきた「現場の知見」と「最新のデジタル技術」を高い次元で融合させ、これまでの延長線上にはない革新を次々と形にしていくことで、新たな価値を社会に提示し続ける「イノベーティブカンパニー」の姿を実現していきます。
本号では、変革を具体化する成果として、設計・開発の高度化からコンポーネントの高性能化、さらにはAIやシミュレーションを駆使した現場改善に至るまで、幅広い技術を紹介します。


巻頭言

志自岐雄介

特集論文(全11編)

谷本将貴/中林弘一/横山裕哉/丸山誠司/宇佐美太一

近年のインバーター開発では,高出力化・高周波化・小型高密度化に伴って,電力損失による温度上昇が設計上のボトルネックになっている。従来は電気設計と構造設計を別々に進めて,実機試験で温度上昇を検証していた。この結果,試作回数が増加し,開発リードタイムが長期化していた。今回,製品企画段階から損失計算を自動化・高精度化し,1D熱解析モデルと3D熱解析モデルを活用したモデルベース開発プロセスを構築した。回路シミュレーションによる損失計算と理論式ベースで熱計算を連成し,各部品及び空気の温度を半自動的かつ短時間で計算できる1D熱解析モデルを開発した。これによって,製品企画段階で筐体(きょうたい)の冷却方式の検討と最悪条件の把握を可能とした。また,計算時間と計算精度を両立させて,各部品内の温度分布を計算可能な3D熱解析モデルを開発した。これによって,試作レス,かつ短期間で品質・性能の作り込みを可能とした。

田村正佳/永島悠平

車載インバーターやAIデータセンター向けの水冷ヒートシンクには,パワー半導体やGPU(Graphics Processing Unit)の高発熱密度化への対応と低コスト化の両立が不可欠である。従来のヒートシンクに用いられるピンフィンは発熱体直下に高温の冷却水が偏在する水温むらという課題を抱えており,フィン形状の改善だけでは性能向上には限界があった。三菱電機は螺旋(らせん)流路を三次元的により合わせた独自の構造を持つ“よりよりフィン”を開発し,水温むらの根本的な解消,放熱面積の拡大,界面熱伝達率の向上を同時に実現した。これによって,フィン単体の放熱性能を示すベース面積基準熱伝達率を現行品(当社アルミニウム製ピンフィン)と同一条件の下で51%向上させた。この構造は有孔プレートを積層・接合することで実現し,順送プレス及びろう付による量産化の見通しが立った。これによって,アルミニウム製ながら銅ピンフィンと同等の熱抵抗を達成しつつ,銅ピンフィン比で67%のコスト低減を実現した。

柳舘直成/古森健吾

製品競争力向上と市場投入の迅速化に向けて,高度な数値解析を活用した設計と,評価試験レスの実現による開発リードタイム短縮が求められている。しかし,複雑化する昨今の製品を数値解析だけで設計することは難しく,計測点が数百点に及ぶ評価試験を実施しているケースもある。このため,少ない工数で,製品全体を網羅的かつ高精度に計測する手法が求められている。今回,限られた物理計測データと数値解析モデルを融合することで,製品に作用する加振力,加速度分布,応力分布を網羅的かつ高精度に推定するバーチャルセンシング技術を開発した。この技術を,複雑構造を持つ製品の一つである空調室外機に適用することで,高精度に加速度及び応力を推定できて,計測工数を80%削減可能である。

梶並信彦/花岡美咲/松本充弘

近年,脱炭素や省エネルギーの観点から未利用熱を電力として回収する技術が注目されている。熱電変換は温度差を直接電力に変換する技術であり,排熱利用の有効な手段として期待されているが,現状では発電効率(熱電性能)の低さが課題である。今回の研究では,材料中のシリコン薄膜に形成されたナノスケールの孔(以下,“空孔部”という。)を設けることで性能を向上させる手法に着目し,性能向上に有効な空孔形状を解析的に検討した。検討対象は安価で量産性に優れるシリコン薄膜とした。検討の結果,熱流方向と直交する切り欠きを備えた空孔形状が特に有効であることを明らかにした。この知見に基づいて新規構造を提案し,空孔部を持たないシリコン薄膜と比べて熱電材料の性能を表す指標ZTを約4倍に向上させることを示した。

梅田政樹/葉名紀彦

サステナブルな社会を実現するために,老朽化したインフラ構造物の安全性と補修の必要性を評価する検査技術が重要である。構造物にき裂が生じると進展して故障につながるおそれがあるが,インフラのような大型構造物のき裂を検査するには多大な時間を要する。三菱電機は,短時間で構造物内部のき裂を広範囲にわたって検査する手法として,デジタル画像相関法(Digital Image Correlation:DIC)で画像から表面変形を測定し,表面変形とき裂の内部形状の相関を学習したAIを用いてき裂の内部形状を推定するCrack Shapes Prior EAP(CSP-EAP)法を開発した。今回,当社のAI技術“Maisart”(マイサート)の一つであるき裂推定手法のCSP-EAP法を,橋梁(きょうりょう)や電力機器の構造物の溶接不溶着部の検査に適用できるように改良した。従来はひずみ(変位の一次微分)の変化量をAIの入力に用いていたが,溶接不溶着部のように表面にき裂が表れる場合では測定誤差が増大しやすいという課題があった。AIへの入力をひずみよりも測定誤差の影響を受けにくい変位に変更し,き裂の開口方向と面外方向の2方向の変位に変更することで,測定誤差を低減した。この技術を用いて,溶接不溶着部を模した試験片のき裂を推定し,推定結果が実際のき裂とおおむね同じ形状で,面積も約3%の誤差で一致していることを確認した。き裂の大きさと形状から余寿命を高精度に推定し,インフラ構造物の補修要否・メンテナンス時期の判断がこの技術を用いて短時間で可能になる目途を得た。

下佐田直央/伊東佑規/村上光平

近年,労働力の高齢化やダイバーシティーの進展によって“人にやさしい現場”への要求が高まって,重筋作業の改善ニーズが増大している。また,市場変化の激化によって,製造現場では工程変更の頻度が高まっている。これらの課題に柔軟かつ迅速に対応するためには,現場主体の改善を一層強化することが不可欠である。そこで三菱電機では,からくり機構や簡易な電動機器を活用する“からくりLCA(Low Cost Automation)”改善を導入した。現場主体で“安く,早く,自分で”自動化を実現することで,作業者の負担軽減と生産性向上をもたらすとともに,現場発の自主的な変革を促す。
この取組みの全社施策として,①教育体制,②実践を支えるナレッジ群,③定着に向けた施策を整備し,現場の挑戦と創意工夫を促進することで,自発的・継続的な改善の組織風土醸成を誘導した。

中筋淑江/船岡幸治/内山研吾/高橋尚弘

電子機器の小型・高機能化を支えるプリント基板穴あけ用レーザ加工機は,生産性を高めるため,レーザ光を走査するガルバノスキャナ(以下,“スキャナ”という。)を高速に駆動することが求められている。スキャナはエンコーダを用いてミラーの角度を検出し,ミラーを目的角まで回転させて位置決め制御する。三菱電機は,このエンコーダに注目して高速化技術を開発した。まず,エンコーダを小型・軽量化することでスキャナを高剛性化し,応答周波数を高めた。さらにエンコーダ受光部で複数のセンサ配置によって不要な信号歪(ひず)み成分を相殺し,併せて受光部内に多くのセンサを配列することでS/N比(信号とノイズの比率)を高めて,分解能を向上させた。これらの高速化技術を新型スキャナに内蔵し,加工速度の向上に貢献した。

石川裕卓/門脇和丈/宮路仁崇/遠藤和樹

SiC(シリコンカーバイド)パワーデバイスを搭載したインバーター・モーターシステムの社会実装は,近年ますます進んでいる。機器のSiC化に伴って,スイッチング駆動周波数の増加,電圧立ち上がり速度の高速化,サージ電圧の上昇などが生じることは,電気絶縁に対して不利に働く要素になる。また電動化の広がりに伴って,従来製品では信頼性が保証されていないような環境への対応が求められることもある。これらの状況下で製品の絶縁信頼性を確保していくためには,製品開発時の絶縁設計技術から,運用後の状態監視技術までを網羅した,絶縁基盤技術全体の高度化が必要である。三菱電機は,特にSiCを搭載するパワーエレクトロニクス機器向けに絶縁技術を開発した。

野田 健/志賀 彰

プラスチック材料の衛生機能を安定的に発現させるためには,最終製品の品質検査に加えて,原料中の有効成分濃度を定量し,工程管理を行うことが重要である。三菱電機は,抗菌プラスチックの品質向上に資する抗菌有効成分の分析評価技術の開発に取り組んできた。この技術を工程管理に適用することで,不適合品の流出防止と不具合発生時の原因特定の迅速化を実現した。特に,無機系抗菌剤を含有するプラスチックを対象に,プラスチックペレット中の有効成分濃度,及び成形品表面の有効成分分布を評価する技術を検討し,これら技術の工程管理への導入効果を検証した。

上吉川直輝/長谷川仁彦/片山育星/青山哲也

近年の無線通信技術の発展とIoT(Internet of Things)の普及に伴って,多種多様な情報の伝送ニーズが拡大する一方で,時間帯や場所によって変化し続ける通信環境で,ネットワークの設計から構築,運用までのライフサイクルを通じて,アプリケーションごとに要求されるサービス品質を安定的に提供することが求められる。そこで,無線リンクからアプリケーションレイヤーまでの品質を横断的に評価するクロスレイヤー型品質評価技術と,評価結果に基づくアプリケーション・通信制御技術を開発し,ネットワークライフサイクルを通じた安定的なサービス品質の実現に向けた検証を行った。

間宮拓朗/中西孝行/新納和樹/西本研悟

生産ラインの自動化は多くの分野で急速に進んでいる。工場には多数の機器が導入され,その多くが有線通信によってデータのやり取りを行っている。筆者らは,将来の生産ラインが省人化・自動化の進展に伴って,多数の移動体と協働ロボットの高度な連携によって構築され,それを支えるのは無線通信であると考えている。そこで,工場内の無線通信を最適に設計・運用するための技術として電波デジタルツインを開発している。