巻頭言
三菱電機技報
三菱電機の優れた技術・製品、技術開発活動を広く紹介しています。2026年10月号
人々の暮らしを支える快適で安全・安心な空間創造に貢献する空調冷熱システム
2026年10月20日発行
人々の暮らしを支える快適で安全・安心な空間創造に貢献する空調冷熱システム
巻頭論文
循環型 デジタル・エンジニアリングで実現するライフソリューションの持続的進化
特集論文
全7編
特集概要
三菱電機グループは、事業成長と社会・環境課題の解決に向けて、リスクを恐れず新たな発想で価値を創出する”イノベーティブカンパニー”への変革を目指しています。
リビング・デジタルメディア事業本部は、居住空間から産業空間まで様々な環境に直結した製品やシステムを全世界に供給しています。差し迫る様々な社会課題に対応しながら、多様な生活空間で人々の暮らしを支える快適で安全・安心な空間創造への貢献を目指しています。
本号では業務用空調・冷熱製品での遠隔監視による不調検知への需要の高まりを受けて、機器特性及び配管長・高低差等の設置条件に依存しない遠隔AI不調検知技術などを紹介します。
巻頭言
橋口正哉
巻頭論文
永井幸政
三菱電機のライフサイクルソリューション事業では,脱炭素化や労働力不足等の社会課題を背景に,機器販売中心のビジネスモデルからライフサイクル全体を通じた継続的な価値創出モデルへの転換を推進している。IoT(Internet of Things)クラウド基盤“Linova”による空調機器のコネクテッド化と運転データ収集基盤,人位置検知サービス“MEL-IPS”やノーコード自動制御“Noeru”等の運用最適化ソリューション,AIを活用した故障診断支援等の保守ソリューション,及び共創を通じたソリューションの開発に取り組んでおり,循環型 デジタル・エンジニアリングの実現を目指している。
特集論文(全7編)
鈴村晋也/河合俊明
建築物のZEB(net Zero Energy Building)化推進に伴って,換気設備には省エネルギー性能の更なる向上が求められているのに加えて,建設業界の人手不足深刻化に伴って,機器の施工性及びメンテナンス性の向上が求められている。これらの要求に対応するため,業務用ロスナイの主力機種である天井埋込形タイプのモデルチェンジを実施した。この機種では,内部風路構造の最適化と高効率な新型内製モーターの採用によって,従来機種比で機器消費電力を10%以上削減した。また,風量調節段階の細分化によって施工時の調整負荷を低減し,運用条件に応じた換気量及び消費電力の最適制御を可能とした。さらにアプリケーション“MELRemoPro”への対応やメンテナンス表示サインの改善によって,省施工化とメンテナンス性の向上を図った。
松﨑大亮
地球温暖化に伴う潜熱負荷の増大や衛生管理の厳格化によって,除湿需要が高まっている。今回の開発では,高い除湿能力と省スペース性を両立した“R32天吊(つり)/天埋(うめ)形除湿機”を製品化した。環境面では低GWP(地球温暖化係数)冷媒R32を採用し,フロン類の使用の合理化及び管理の適正化に関する法律(フロン排出抑制法)の2029年度目標値に適合させた。さらに,配管長(80m)や機外静圧(300Pa)の仕様上限を拡張し,設置の自由度を大幅に向上させた。技術面では,室外機への放熱分散によって,併設空調機の顕熱負荷を抑制したことに加えて,従来機を上回る高い除湿性能を確保した。これによって,食品倉庫など厳密な温度管理が求められる環境でも,温度への影響を抑えた上で,近年の高い潜熱負荷に対応可能な製品を実現した。
中島彰栄/岡崎淳一/手塚元志
猛暑の常態化に伴って,ルームエアコンは快適性のための機器にとどまらず,熱中症予防など健康を守る生活インフラとして重要性が高まっている。一方,電気料金の高騰を背景に,長時間運転時の消費電力量の削減が課題になっている。三菱電機が持つクラウドデータの解析から,エアコン運転時間の約半分で空調室内に人が不在であることが分かった。2026年度“霧ヶ峰”Zシリーズでは,サーマルダイオード型赤外線センサーと独自アルゴリズムによって在室・不在検知精度を高めて,不在時の温度補正幅を拡大した。さらに,在室復帰時には快適性を損なわない範囲で速やかに通常制御へ復帰する制御を開発し,冷房時18.9%,暖房時19.2%の消費電力量削減を実現した。
石垣充博
業務用空調・冷熱製品では,機器停止による事業影響の回避,保守人材の不足,及びフロン排出抑制法(フロン類の使用の合理化及び管理の適正化に関する法律)等の法規制対応といった観点から,遠隔監視による不調検知への需要が高まっている。従来のルールベース手法では,機器特性や配管長・高低差等の設置条件に応じてしきい値を調整する必要があり,機種・現場によっては調整に多大な工数を要する場合があることが課題であった。今回の研究では,運転データから正常範囲をAIで推定することで,機器・設置条件に依存せず相対的な性能低下を捉える不調検知手法を開発した。事前の詳細情報を必要とせず,不調を予兆段階で数値化することで,計画的な保守対応を可能とする。実機評価によって,ルールベース手法と比較して適用範囲の拡大を実現するとともに,予兆検知の有用性を確認した。
石原正裕/大塚礼治
三菱電機では,空調・家電機器などの接続可能なIoT(Internet of Things)基盤を構築し,機器の遠隔操作,連携制御及びデータ活用による価値創出,並びにこれらIoTソリューションのグローバル展開を推進している。IoT基盤をグローバルに展開する上では,基盤を構成するサーバーを各国にどのように提供するかが課題になる。当社では,各国の要件に適合しやすいサーバーを各国に分散配置する方式を採用するとともに,分散環境下でも開発・運用を効率化できる技術を開発することで,各国要件への適合性と開発・運用効率を両立したグローバルIoT基盤を実現した。この基盤は2026年1月にアジア地域で稼働を開始した。今後も各国展開を推進するとともに,更なる効率化に向けた技術開発を継続する。
今井 健/津田佳周/浅野隆太郎
業務用VRF(Variable Refrigerant Flow)空調機を対象に,クラウドに蓄積される多物件運用データの横断分析と,物件ごとの建物モデルを要さない軽量なLo-Fi(Low-Fidelity)モデルによる省エネルギー効果事前見積り技術を開発した。この技術は,年間の運用データを複数パターンに自動分類して改善余地の大きい運転状態を特定し,対応する省エネルギー制御ソリューションの導入効果を運用データから算出する。海外オフィスのPoC(Proof of Concept)で,冷房運用の代表パターンで期間平均15.3%の消費電力削減見込みを事前見積りで示し,実機実証を進めている。この技術は,ソリューション適用判断を“検証してから効果を示す”順序から“効果見積りを先に提示してから検証する”順序へ組み替える道筋を拓く。
中西亜加音/清水彰則/岡垣 覚
高気密・高断熱化が進む現代の室内空間では,換気量の抑制と衛生維持及び快適性の向上の両立が課題である。特にパンデミック以降,室内空気質改善への需要は“日常的なインフラ”として定着し,安全な感染症対策と心地良い空間創造を高度に両立させる技術が望まれている。開発した“負イオンオゾン処理技術”は,環境基準値以下の低濃度オゾンで菌・ウイルスに対して高い抑制効果を発揮する。負イオンとオゾンの併用によって,オゾンの酸化作用を最大限に引き出す点に新規性があり,付着ウイルスやカビに加えて,不快な付着臭に対しても顕著な低減効果を確認した。この技術は,住宅からオフィス,公共交通機関まで幅広く展開可能であり,持続可能で安全・安心な未来の実現に貢献する。