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読む宇宙旅行

2010年4月 vol.2

火星の前に「有人小惑星飛行」をするワケとは

米国有人宇宙飛行計画委員会が2009年にまとめた報告書。表紙には、火星の先に小惑星が描かれている。(提供:NASA)

米国有人宇宙飛行計画委員会が2009年にまとめた報告書。表紙には、火星の先に小惑星が描かれている。(提供:NASA)

 4月16日、アメリカのオバマ大統領はNASAケネディ宇宙センターで新しい宇宙政策を発表した。「2025年までに月を超えて深宇宙に初めて人類を送るー小惑星に宇宙飛行士を送るのだ(拍手)、そして2030年代半ばまでに火星軌道に人類を送り、無事に地球に帰すことができると信じている。さらに火星への着陸が続くだろう(拍手)」というスピーチ。

 日本のニュースでは「2030年代に火星」が大きくクローズアップされていたけれど、その前段階の「小惑星有人探査」って何だろう? ってふと疑問に思いませんでしたか? 折しも日本の小惑星探査機が、地球の重力圏を越えて「深宇宙」の天体である小惑星に着陸。この6月に地球に帰ってきたら、人類初の「深宇宙往復探査」の快挙を成し遂げることになる。「人類初」にこだわる米国が悔しがることは間違いない(さっそく、NASAは小惑星サンプルリターンミッション「オシリス−レックス」を計画中だ)。

 だが、そういう一番乗り争いは抜きにしても、火星有人飛行のリハーサルとして、また科学探査目的の天体として、小惑星は大いに意義ある天体だ。昨年9月、元ロッキード・マーチン会長のノーマン・オーガスティンを座長とする米有人宇宙飛行計画委員会が公表した報告書(通称オーガスティンレポート)には、NASAの将来の有人宇宙飛行について、いくつかのプランが提示され、その中の一つ「フレキシブル・パス」に小惑星有人飛行が、火星有人飛行のリハーサルになると書かれている。

小惑星イトカワ。小惑星は太陽系が生まれた頃の状態を今も留める太陽系の化石。重力が小さいため、宇宙飛行士が着陸・離陸するのも火星ほど燃料を必要としない。(提供:JAXA)

小惑星イトカワ。小惑星は太陽系が生まれた頃の状態を今も留める太陽系の化石。重力が小さいため、宇宙飛行士が着陸・離陸するのも火星ほど燃料を必要としない。(提供:JAXA)

 火星の前に月、というのも一案だが、月飛行は地球から片道3日しかかからないし、月は地球の重力圏の中にある。その段階からいきなり「深宇宙」に飛び、1年以上の火星飛行というのは、同型の宇宙船を流用できないほど、技術的に飛躍が大きすぎる。一方、地球に接近する小惑星は、往復探査に150日〜200日を要する。この期間なら火星飛行のリハーサルとなるし、小惑星の回りで観測し、ロボットをおろしてサンプルをとれば、火星周回飛行時にサンプルをとる練習にもなる。さらに小惑星は重力が小さいので、月面着陸機のように重力の大きな天体に軟着陸・再離脱する際の莫大な燃料を必要としない。ロボットが安全を確認した後に、宇宙飛行士自身が着陸して、太陽系ができたときの状態を留める小惑星の科学的観測を行うことも意義深い(※1)。

 さらに、「もう一つ大きな意味がある」とJAXA月・惑星探査プログラムグループの矢野創氏はいう。「地球への小惑星衝突は過去に起き、未来にも必ず起こる『宇宙からの天災』です。この天災は地震や噴火と違って、いつ衝突するか軌道から正確に予測できます。問題は、衝突時期が分かっても、今の私たちがその被害を小さくする方法を分かっていないことにあります。まずは『汝の敵を知れ』。小惑星の材料や構造を直接調べることで、将来軌道を変えるために有効な技術が初めて分かるのです。」と(※2)。人類が遠い宇宙に進出するためにも、地球の未来を守るためにも、小惑星探査は私たちが思う以上に大きな意味を持っているのだ。

  • ※1:更に詳しく解説すれば、フレキシブル・パス等では、人類の火星到達の最初の着陸地は火星の小さな衛星「フォボス」が合理的とされている。火星表面を安定して観測でき、火星表面との中継地にもなる「天然の宇宙ステーション」の役割が期待されるから。フォボスはイトカワの数十倍の大きさを持つ小惑星が、火星の重力に捕獲されたものと考えられている。その意味でも小惑星有人飛行は、火星有人探査の第一段階のリハーサルに成り得る。

  • ※2:小惑星衝突の対策を練るために、「有人」の探査が必要な理由としては、有人宇宙船は多量のサンプルを持ち帰ることができ材料研究に有利である点、また内部構造を解明するための計測装置を初訪問の微少重力天体の地下に埋設するには、繊細な技術を使い咄嗟の工夫ができる人間がロボットより適している点があげられる。