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読む宇宙旅行

2011年12月 vol.01

宇宙の環境問題「スペースデブリ」と宇宙法

慶應大義塾大学 青木節子教授。宇宙法の道に入ったきっかけは偶然で、カナダ、マッギル大学の航空・宇宙法研究所の博士課程に留学したこと。

慶應大義塾大学 青木節子教授。宇宙法の道に入ったきっかけは偶然で、カナダ、マッギル大学の航空・宇宙法研究所の博士課程に留学したこと。

 今年秋、アメリカやドイツの人工衛星落下が話題になったが、次はロシアの探査機が地上に落下するという。人類初の人工衛星打ち上げから半世紀以上。今や地球周辺の宇宙空間には人工衛星やロケットの破片などの残骸がゴミ(スペースデブリ)となって溢れる。その数は観測できるものだけでも1万6千個以上。たった1cmのデブリでも活躍中の衛星にぶつかれば全機能を停止させる威力をもつ。スペースデブリを出さないことはもちろん、既にあるデブリから運用中の衛星をどう守るか、早急に解決すべき大問題となっている。

 この状況について「去年から続いていた傾向が今年、決定的になりましたね」というのは宇宙法の専門家である慶應義塾大学の青木節子教授だ。青木教授は国連宇宙空間平和利用委員会(COPUOS)の会議に2002年から毎年出席している。「20年前まではデブリと言っても『宇宙はまだ広い』という認識でした。ここ10年、宇宙活動が活発化して衛星を打ち上げる国や企業が急激に増えた。つまりアクター(活動者)が増えて、スペースデブリは一番深刻な宇宙の環境問題になっています」とのこと。

 青木教授によれば今、世界の宇宙関連国や企業は、宇宙のどこにどんな物体がどの方向に飛んでいるか、またデブリがどこに落ちるか、つまり「宇宙の交通状況」を認識するSSA(Space Situational Awareness)を強化する方向に進んでいるという。宇宙には軍事衛星などオープンでない情報も多く、実際には衛星を飛ばす当事者しか正確な軌道がわからない。「お互いに手探りで宇宙を使っている状況で、今まではそれで何とかなった」。だが加速度的に衛星が増え、今後、民間宇宙旅行が実現しロケットが頻繁に飛ぶようになれば、宇宙はさらに混雑し、ご近所の衛星やロケットの不具合で自分の衛星が被害を受ける可能性もある。

 「特に700km〜900kmぐらいの軌道が人気の大渋滞地域。ここに衛星をもつ国や企業は自衛策としてまず正確な情報を持たないといけない」(青木教授)そこで欧米の企業が中心になって宇宙の交通情報を共有、解析している。その情報を販売する企業も出ているという。

日本が研究するデブリの「お掃除衛星」技術は世界的にも認められている。だが実現には技術やコストだけでなく、法的な難しさもあるという。(提供:JAXA)

日本が研究するデブリの「お掃除衛星」技術は世界的にも認められている。だが実現には技術やコストだけでなく、法的な難しさもあるという。(提供:JAXA)

 ところで国連は1967年に宇宙空間に核兵器などの大量破壊兵器をおいてはいけないことなどを明記した「宇宙条約」を作っている。スペースデブリに対して法的な規制はないのだろうか?「2007年12月、『スペースデブリ低減ガイドライン』が採択されています。デブリを出さないように設計すること、使用済みの衛星はあまり使われない軌道に移動させることなど7つの勧告で拘束力はないものの、米国や欧州、JAXAなど宇宙先進国ではこの勧告をもとに国内法などで厳しい仕様を定めています」。だが問題は新規参入のアクターたち。たとえば衛星使用後、他の軌道にうつす燃料を搭載すれば重量やコストが増える。途上国が小さな衛星を打ち上げる場合はなかなか仕様を満たすのは難しいという現実もある。「地上の環境問題と同様の問題が宇宙でもあります。途上国は今まで多数の衛星を打ち上げてきた宇宙先進国がデブリを発生させてきたのだから、自分たちの活動を制限するのはおかしい。デブリを減らす責任があるのも先進国だと主張するのです。」

 ではどうすればいいのだろう。「デブリを出さないという規制を厳しくすれば守られるわけではない。宇宙活動を妨げることにもなります。地上で環境問題の意識が高まっていったように、宇宙環境を汚してはいけない、デブリを出すことは許せないという『思想』を広げていく。日本はデブリ低減などの技術を進め、デブリ規制制度作りを先導することが大事です」青木教授はそう指摘する。2012年から国連宇宙空間平和利用委員会の議長にJAXAの堀川康氏が就任する。日本がスペースデブリ削減にイニシアチブをとることが期待される。

 「広大」というイメージと裏腹にゴミ問題が深刻化する宇宙。だがそれだけ人類の宇宙活動が活発化してきたということ。宇宙旅行がブレイクしようという今こそ、旅を安全にするため、人ごとでなく宇宙の環境問題と真剣に向き合うべき時が来ている。