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星空の散歩道

国立天文台 副台長 渡部潤一 Junichi Watanabe国立天文台 副台長 渡部潤一 Junichi Watanabe

 Vol.104

部分日食を眺めてみよう

3月9日、今年最大ともいえる天文ショーが日中にある。誰でも簡単に観察できる天文ショー、部分日食である。

日食とは、月が太陽の前を横切ることで、太陽の一部または全部が月によって隠される現象である。日食が起こる時の地球と月の幾何学的関係と、地球上での観察地点によって、太陽の隠され方が異なるため、皆既日食、金環日食、部分日食の3種類に分類される。月が地球に近い場合は、みかけの大きさが太陽よりも大きくなる。そのため、地球上での観察地点が太陽—月と一直線に並ぶときには、月が太陽全体を隠してしまう皆既日食となる。実は、今回の日食はインドネシアや太平洋上の一部では、この皆既日食が見られる。太陽の明るい部分が隠され、荘厳なコロナが現れる瞬間は、まさにこの世のものとは思えないほどの絶景である。そのために日本からも皆既日食を見るためのツアーや、インドネシア沖を客船で航行する皆既日食クルーズなどが予定されている。

一方、日食が起こるときに月が地球から遠いと、月の見かけの大きさは太陽よりも小さくなって、全面を覆い隠すことができない。このときには太陽の縁の部分がリング状になって残ってしまう。このような日食を金環日食と呼ぶ。日本では、2012年5月に見られ、多くの人が眺めたことは記憶に新しい。

皆既日食や金環日食が見られる地域は極めて限定されており、その周囲の広い範囲で、太陽の一部だけが隠される部分日食が見られることになる。今回も月の影の中心はインドネシアから太平洋にかけて動いていくのだが、その周囲の広い範囲で部分日食となり、日本列島は全体がすっぽりと、この部分日食が起こる領域にはいる。そのために、日本では全国で部分日食が見られることになる。

今回の部分日食では、日本では一般に南の地域ほど太陽の欠ける範囲が大きい。太陽のどの程度が欠けるかを示す指標の一つに、「食分」という量がある。食分とは、月によって覆われた太陽の直径の度合いを示す数値で、これが1に近いほど深く欠ける部分日食となる。沖縄の那覇市では食分は0.34であるが、東京では0.26、仙台では 0.22となり、北海道の札幌になると0.13まで小さくなる(下図参照)。この食分が小さいと継続時間も短くなる。那覇だと部分日食の開始は09時29分で、終了が11時34分と2時間を越えるが、東京では10時12分から12時05分の2時間弱、札幌では10時39分から11時58分と、1時間20分ほどになってしまう。開始から終了のちょうど中間のあたりが食が最大となるので、その前後の観察がお薦めである。

各地での太陽の欠け方(最大食分時)(提供:国立天文台)

ただ、欠けた太陽像を観察するといっても、太陽を直接見るのは厳禁である。太陽の光はあまりにも強烈なので、多少欠けていても直視すると目を痛めるからだ。日食観察専用グラスを利用するか、ピンホールを通して太陽像を紙に投影するなどの間接的な方法で観察しよう。日食の安全な観察方法や、時刻などの情報は国立天文台のホームページでチェックしておこう。晴れたら観察を、曇ったらインターネット中継などで、今年最大の天体ショーを楽しんでほしい。