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星空の散歩道

国立天文台 副台長 渡部潤一 Junichi Watanabe国立天文台 副台長 渡部潤一 Junichi Watanabe

 Vol.144

2019年7月は「月」に注目しよう

今年の7月は「月」の月である、と言ってもよい。月が引き起こす、さまざまな天文現象が続くだけでなく、アポロの月着陸から50年の節目を迎えるからである。

まずは、新月が引き起こす、皆既日食から始まる。日本時間で7月3日、新月を迎える月が太陽をすっぽり覆い隠す現象だ。皆既となるのは、日本時間で3日の朝5時すぎから6時ごろで継続時間は2分ほどとなる。残念ながら日本からは見えないが、南太平洋およびチリやアルゼンチンの一部で見られ、現地時間では7月2日となる。日本からも多くの天文ファンが現地に向かう。壮麗なコロナが見られることを祈ろう。

2017年8月21日 皆既日食(米国オレゴン州セイラム)。内部コロナとプロミネンスが確認できます。(提供:国立天文台/花山秀和/福島英雄)

皆既日食を起こした月は、その後、西の地平線に顔を出し、惑星と接近を繰り返す。こちらは日本でも見える。まずは7月4日の夕方、西北西の低空に現れる月齢2の細い月が、火星に大接近して見えるはずだ。実は、この時、水星も近くにある。そのため、「月・火・水」の勢揃いという珍しい天文ショーとなる。ただ、月齢2の月を見るのは至難の業で、低空までクリアに晴れていないと難しい。なにしろ、日没後30分ほどでも、その高度が10度に満たない。水星は1.5等、火星は1.8等とかなり暗いが、双眼鏡があれば確認はできるだろう。見晴らしの良い場所で、空が暗くなったら、月を探して、そのそばに輝く火星と水星を探してみよう。

上級者向けにはもうひとつ、珍しい現象を紹介しておこう。4日の15時頃、白昼の月齢2の月が火星を隠す火星食が起こる。関東より西の地域に限られること、また白昼の現象なので、観察するには天体望遠鏡が必須となるが、太陽に近いので、よほどの熟練者でないと危険きわまりないので、お勧めしない。

その後、月は月齢を重ねて太っていく。そして上弦の月を過ぎ、7月13日になると木星に接近する。次第に接近していく様子が肉眼でも観察できる。最接近は14日の6時頃になるが、すでに日本では沈んでしまっている。さらに、3日後の16日には、満月前の月となって今度は土星に接近する。日本ではそれほどの接近にはならないのだが、南太平洋から南米にかけては土星食となる。次々と惑星に接近する最後を飾るショーとなるのでぜひ眺めてみたい。(ちなみに肉眼で見える残った惑星、金星に接近するのは8月1日になるが、太陽に近いために見るのは困難である。)

そして、7月21日(アメリカ時間では20日)は、アポロ11号のアームストロング船長が人類で初めて月に降り立った日となる。この前後、世界中の多くの場所で様々なイベントが予定されている。肝心の月はというと、21日は満月過ぎの月が21時過ぎに東から昇ってくる。イベントに参加できなくても、ぜひ月を眺めて、アポロの偉業に想いを馳せたいものである。