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星空の散歩道

国立天文台 副台長 渡部潤一 Junichi Watanabe国立天文台 副台長 渡部潤一 Junichi Watanabe

 vol.95

ドーン探査機が明らかにしたケレスの意外な素顔

2015年は惑星探査機のラッシュである。7月にはNASAの探査機ニューホライズンズが冥王星に接近する予定だ。日本の探査機も、はやぶさ2は順調に飛行を続けており、金星探査機あかつきも、12月に金星への周回軌道投入を再チャレンジする。そして小惑星ベスタの探査を終えた探査機ドーンが、3月には準惑星ケレスの周回軌道に乗り、次第に高度を調整しながらケレスの詳細な観測をしつつある。

このドーン探査機の撮影したケレスの画像が、惑星科学の世界で大変話題になっている。次第に接近し、表面の模様が見えはじめてから、不可解な発見が相次いでいるからだ。

なにしろ最もミステリアスなのが謎の光点である。ケレスに約40万kmまで迫った 1月頃に撮影したケレスの画像上に、周囲とは明らかに異なる明るい点が捉えられたのだ。地球・月程度の距離から捉えた連続画像では、ケレスの自転に伴って光点も動いているので、表面地形であることは間違いなかった。

周回軌道に投入される前の2月、さらに詳細な画像が公開された。そこには解像度が上がった強く光る点が、実はふたつの光点であることがわかった。強い光の傍に弱い光の点が隣り合っていたのである。また、光点はどちらもクレーターの内部にあることも明らかになった。ますます謎は深まり、露出した氷なのか、火山か何かの地質学的なものか、わからなかった。果ては、宇宙人の作った構造物では、などという突拍子もない説もささやかれた。

探査機ドーンが約13600km上空から撮影したケレス。謎の光点がいくつかの塊に分かれている様子がわかる。(提供:NASA/JPL-Caltech/UCLA/MPS/DLR/IDA)

準惑星ケレスの周回軌道へ投入された3月には、さらに解像度の高い画像が公開された。約9時間の自転周期をカバーする画像のアニメーションも作成された。これを見ると、その謎のふたつの光点以外にも、その輝きはそれほどでもないものの周囲とは明らかに異なる白い領域がいくつか存在することがわかってきた。

5月初めには、高度約1万3600kmから撮影された画像をつないで作られたアニメーションも公開された。明るい謎の光点が次第に分解されつつあり、どうやら1km程度の小さな点が複数、集まっているように見えてきた(画像)。太陽の光を反射して明るく輝いていることは確かで、その物質は氷という説が有力ではあるが、依然として正体ははっきりわかったわけではない。いずれにしろ、このような光点は他の天体には余り見られないもので、想像だにしなかった発見と言って良いだろう。

一方、ケレス表面のクレーターの大きさや形、重なり具合などにも奇妙な特徴があることがわかってきた。底が浅いのだ。月の画像と比べても、クレーターの縁の盛り上がり具合がそれほど急峻でないことがわかるだろう。さらには、大型のクレーターでよく目立つはずの、中央丘もほとんど目立たない。これも予想外のことである。

月には氷はほとんど存在しない。しかし、ケレスはちょうど水が氷になるような温度の場所で生まれた天体である。したがって、ケレスの内部には、相当量の氷が含まれている可能性がある。実際、その密度は1立方センチメートル辺り2グラムと、岩石だけでできた天体とは考えにくいほど小さい。したがって、岩石質の中心核の回りに相当量の氷が存在し、その表面はチリが薄く覆っているだけかもしれない。こういう構造の場合、クレーターを作るような天体衝突があると、その場所の氷は融けて、縁も沈み、当初は深かったであろうクレーターの底も浅くなってしまうはずである。

ドーンは次第に高度を下げつつあり、6月からは高度約4000kmからの観測がはじまる。光点の構造や正体だけでなく、地表の様々な構造も詳細に明らかにされていくことは間違いないだろう。期待したいところである。