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読む宇宙旅行

2014年3月25日

日本人初、若田船長が実践する「和のリーダーシップ」
とは?

和を大事にする若田飛行士の周りはいつも笑顔(提供:NASA)

和を大事にする若田飛行士の周りはいつも笑顔(提供:NASA)

 2014年3月9日、若田光一宇宙飛行士が日本人で初めて、国際宇宙ステーション(ISS)のコマンダー(船長)に就任した。「和の心で舵取りしたい」と船長就任式で語った若田さん。若田流「和のリーダーシップ」とは具体的にどういうものなのか?

 3月9日18時頃(日本時間)、ISS「きぼう」日本実験棟で行われた船長就任式。第38次ISS長期滞在チームのオレッグ・コトフ船長から、第39次チーム船長として指揮権を引き継いだ若田さん。まず38次チームが5回の船外活動や宇宙実験など素晴らしい成果を上げたことを讃え、続いてメンバー一人ずつに「写真の撮り方を教えてくれた」など具体的にお礼を述べる。そしてその後、ISS船長就任式史上、初めて日本語での挨拶が交わされた!

 筑波にある「きぼう」運用管制センターからフライトディレクター東覚芳夫さんが「日本人初のコマンダー就任は、日本の有人宇宙開発の一つの集大成。我々も日本から全力でサポートします」と呼びかけると、若田さんも「日本人として誇り。一人ではなしえなかったことであり、卓越した日本のチーム力を認識している」とチームJAPANの実績に対する世界からの信頼の表れが、日本人初の船長につながったと応える。

3月9日に「きぼう」日本実験棟で行われた船長就任式。さっそく、若田船長がみなに発言の機会が回るように仕切っていた。(NASAテレビより)

3月9日に「きぼう」日本実験棟で行われた船長就任式。さっそく、若田船長がみなに発言の機会が回るように仕切っていた。(NASAテレビより)

 続いて若田さんは「和の心を大切にして相手を思いやり、調和からベストな結果を生み出したい」と力強く語った。「和=ハーモニー」は長い歴史の中で日本人を現す言葉であり、日本人らしさを大切に船長業務にあたりたいと。しかし、どの船長もチームワークには気を配っているはずだ。若田飛行士が言う「和の心」はどこが異なるのか?

 就任式を見守っていた星出飛行士は「船長にも色々なタイプがいます。率先してチームを引っ張って背中で見せるタイプ、一歩後ろに引いてでんと構えてメンバーに任せるタイプ。若田飛行士は、皆を一つのベクトルにまとめる力が抜きんでている。能力はもちろん高いが周りへの配慮があり、『和』を作り上げていく。だから仕事で大変なことがあっても『若田飛行士のために』と思うんですよね」と説明してくれた。

 「配慮」や「気遣い」が肝のようだが、若田飛行士と約20年間の付き合いのある星出飛行士によると、初飛行の頃から若田さんは気遣いに長けていたという。「若田飛行士の初飛行前、私はJAXA職員として宇宙飛行をサポートするために渡米したのですが、NASAの動き方がわからない。若田さんは『この人に話をしたほうがいいよ」など細やかにアドバイスをしてくれた」。サポートする側がサポートされてしまったわけだが星出さん曰く「困ったとき相談できる頼れる兄貴分」であり、若田さんの船長就任は待ちに待った「真打ち登場」だと表現する。

船長就任式を見守り、「若田さんは頼れる兄貴分」という星出飛行士。

船長就任式を見守り、「若田さんは頼れる兄貴分」という星出飛行士。

 若田さんと小中学校の同級生だった丸山光晴さんによると、「大人しいタイプだが、状況をよく見ている。例えば野球で遊んで、打順やキャッチャーは誰がやるかなど迷ったとき、『若田どうする?』と聞くとみんなの特徴を掴んでいて意見をしっかり持っている。そしてわかりやすく説明してくれる」。小さい頃から頼りになる存在であり、「船長に適任」と話してくれた。

 その思いやりや配慮、洞察力は船長就任直後から発揮されている。3月末にはさらに3人の宇宙飛行士がISSに到着し、若田さんの部下になる。その中には初飛行の宇宙飛行士もいることから「到着後、スムーズに宇宙生活を始められるように、ISS到着直後に着る服をとりやすいところに準備している」と細やかに気を配る。

 JAXAのISSプログラムマネージャー三宅正純さんは、日本人らしい国際協力について「根回し」も指摘。「20数年前にISS計画に参加した時は、米国やロシアが計画をリードして日本はついていく立場。調整で厳しいと思ったことも多かったが、約束をしっかり守ったうえで妥協点を探り、根回しも含め協調するやり方が国際社会に認められてきた。若田飛行士はその代表選手。自分に与えられた責任を全うしつつ、相手を思いやる」。この2か月は国際協力で日本の発言力を強める絶好の機会になりうると期待する。

 4度目の宇宙飛行となる若田飛行士にとって、宇宙は通い慣れた出張先。作業は前倒しでどんどん進め、地上チームに「もっと仕事を」と依頼するほどエネルギッシュだという。

 3月末にはドラゴン宇宙船が打ち上げ予定で若田飛行士自身がロボットアームで捕獲、4月後半には連続宇宙滞在が167日を越え古川飛行士の記録を破って日本人一位になる。宇宙実験に割く時間もISS38次チームは3人で週42時間と過去最多で、さらに時間を増やすことが期待されている。ちょっと変わった実験では、電気刺激を与えるハイブリッドトレーニングがある。現在、宇宙飛行士は骨量や筋肉減少を防ぐため毎日2時間の運動が義務付けられているが、地上で使われている方法を応用し筋トレを効率的に行うための実験だ。

 しかし何より印象的なのは「笑顔」。心から宇宙で仕事をすることを楽しんでいることが伝わる。星出飛行士も「若田光一の笑顔」と評する。笑顔と「和の心」で、宇宙の魅力を世界に発信してほしい。