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ライター 林 公代 Kimiyo Hayashiライター 林 公代 Kimiyo Hayashi

ゲリラ豪雨に挑む!気象庁「天気予報の現場」で聞く、ひまわり8号の舞台裏

2014年10月7日、気象衛星ひまわり8号打ち上げ成功!現在活躍中の7号からバトンタッチするのは来年夏の予定だが、いったい天気予報はどう変わるのか?ゲリラ豪雨は予報できる?天気予報と言えば気象庁。東京・竹橋にある気象庁を訪ね、天気予報が作られる現場を見せて頂きました!

ここで天気予報が作られる!予報総合現業室

9月30日午前10時過ぎ。気象庁3階の予報総合現業室を窓越しに見る。気象衛星ひまわりの画像や全国のレーダー画像などが、数多くのモニター画面に映し出されている。そしてスーパーコンピュータ(スパコン)が計算した天気予報(数値予報)が、ホワイトボードいっぱいに張られている。

気象庁広報室の牛田信吾さんによると、「天気予報は基本的に都道府県を管轄する地方気象台が出しますが、まず気象庁本庁の『全国予報中枢』の予報官が、たとえば台風が接近していて、今何に気を付けないといけないかなど『全体のシナリオ』を作ります。それをふまえて地方ごとに地形や災害に対する脆弱性を考慮し、予報や注意報などを出していきます」とのこと。

そもそも天気予報はどうやって作られるのか。大きく三段階に分かれる。①気象観測。気象衛星ひまわりや全国20か所のレーダー、1300か所のアメダスなどが観測する。②数値予報。それらの観測データをスパコンに入力、物理学の方程式で風や気温などの時間変化を計算して将来の気象状況を予測する。③予報官による天気予報の作成。スパコンの出した数値予報と実際に刻一刻と変わる天気の様子を照らし合わせ、予報官の気象に対する知識や経験を総動員して、最終的に天気予報を作る。最後は「人」の手で天気予報は作られるのだ。

気象庁の予報総合現業室。「全国予報中枢」は全国の天気予報の司令塔だ。パソコンを見ているのが予報官のリーダー(予報班長)。スパコンが計算した数値予報をベースに、実際の気象状況を見ながら天気予報のシナリオを作り上げる「天気予報のプロフェッショナル」だ。(提供元:気象庁)
ボードにはスパコンが数値予報で出した天気予報が時系列に並べられている。同じ時間を計算しても、最新の予報と12時間前の予報とでは異なっているもの。天気予報がいいほうに変化しているか、悪いほうに変化しているか、予報の変わり方を見るのが、最終的な天気予報を決定するために大事だそう。(提供元:気象庁)
見学中、ミーティングが始まった。11時に出される天気予報について、予報班長が説明中。(提供元:気象庁)

ちょうど取材前日の29日に台風第18号が発生。「台風の位置や発達具合の観測では、特に気象衛星ひまわりが大活躍します」(牛田さん)。室内の至るところに、ひまわりの観測データが表示され、刻々と更新されていく。だがひまわり7号は30分かけて観測するため、画像をつないでアニメーションで表示すると、どうしても不連続な感じがぬぐえない。また、小さな積乱雲の詳細な発達過程までは捉えきれないようだ。「これが、ひまわり8号になると、10分に1回の観測になるので、変化の様子がなめらかに見えるようになります」と気象衛星課の道城竜さんが説明する。

今の天気がどうなっているかという「解析」を行う部署では、ひまわり画像が大活躍。ちょうど29日にトラック諸島近海で台風第18号が発生、今後の推移を検討する。(提供元:気象庁)
慣れた手つきで天気図を画いている女性職員を発見!スパコンは前線を描けない。人が描いた前線が天気予報に使われていく。(提供元:気象庁)

局地的大雨の原因─「積乱雲」を2分半ごと、将来は約30秒ごとの観測計画も

天気予報の精度は格段にあがり、降水の有無の的中率は東京で85%まで上昇している。しかし牛田さんによると、「最近注目されている『狭い範囲で』『短時間に』『激しく』降る雨を予報するのが難しい」とのこと。

アメダスの観測では、1時間に100ミリ降るような「短時間に集中して降る雨」は実際に増えている。しかし「スパコンのシミュレーションも進化しているものの、局地的な大雨はなかなか再現できない。現状、局地的大雨に対しては、予報官がレーダーなどの観測データをもとに実況を監視、更なる大雨を見込んで警報を出すことが多いです」(牛田さん)

局地的大雨や、雷、突風、ヒョウの原因となるのは「積乱雲」だ。一つの積乱雲が発生後、急成長して雨を降らし衰弱するまでは長くて約1時間と考えられている。この積乱雲を、ひまわり8号はどのように観測するのか。

「ひまわり8号は全球を10分で観測する『フルディスク観測』と、対象を分けて観測する『領域観測』があるのが特徴です」と道城さんが説明する。フルディスク観測は7号の30分間隔から10分間隔になり短い時間変化をとらえ、分解能も二倍(可視光で1km→0.5km)にアップ。雲の細部がとらえられる。

さらに8号で注目すべきは日本付近や台風など、特定の範囲を観測する領域観測が5種類あること。この領域観測を使って日本付近は約2.5分ごとに観測、さらに将来的には約30秒ごとに積乱雲などの観測を行う計画もあるという!。7号より格段に「高精細」に「高頻度で」積乱雲を観測することができるのだ。

ひまわり8号は全球を10分で観測するほかに、5つの領域観測を行う。日本は2つの領域にわけて2分半ごとに観測。将来的には30秒ごとのランドマーク域領域観測を、積乱雲等の観測に使う計画も。(提供:気象庁)

ひまわり7号の約50倍。膨大なデータを10分で処理する戦い

高精細に高頻度で観測できるということは、データ量が膨大になることを意味する。ひまわり8号は観測頻度が7号の3倍、分解能も2倍。撮影するチャンネル数も約3倍に増えた。その結果、データ量はひまわり7号の約50倍にもなる。

この膨大なデータをいかに早く処理するか。道城さんはひまわり8号から地上に届いた膨大なデータを、天気予報に使えるデータに処理するプログラムの主担当だ。地上処理ソフトの中核は気象庁の職員が自ら開発している。

「宇宙から届いたデータをできるだけ早く処理して天気予報に使える形にすることが天気予報作業の迅速さに直結します。つまり『時間との闘い』なのです」(道城さん)。現在は宇宙から生データが届いてから約10分で処理を行う予定だ。

もう一点、ひまわり8号の特徴は、世界初のカラー画像撮影。そのためには三色のフィルターをきっちり合わせないと綺麗な画像を作れない。このため、領域観測で湾岸線などを観測、それを目印に地上処理ソフトで画像の位置合わせを行うそうだ。

課題─予報官が使いやすいツールに。「アラームが鳴る自動検知ソフト」!?

このようにひまわり8号によって、積乱雲の急激な発達を観測することも可能になるだろう。しかし、観測を実際の予報に役立てられるのだろうか?

「局地的大雨が起きそうな積乱雲が育っている段階を観測画像から見つけられれば、『これは危ない』と判断できると思います」と道城さん。ただし、予報官は大量のデータを扱う。積乱雲が発達していることを自動で検出し、さらにアラームが出るような「自動検知ソフト」があれば使いやすい、という声も現場からあがっているという。

「現場が使いやすい形にしていきたい」と道城さんは意気込みを語る。気象庁では1959年に省庁で初めてスパコンを導入したときから今も、職員自らソフトを開発している技術者集団。きっと新しいツールを使いこなすソフトを開発していくだろう。

開発者や予報官たちが一体となって天気予報を生み出す現場である、気象庁の予報総合現業室は、予約すれば一般見学が可能だ。来年の7月ごろには、ひまわり8号から届いた画像を実際の天気予報で使っている様子が見られるはずなので、ぜひ見学に。私も行ってみます!

気象庁広報室の牛田信吾さん(左)と観測部気象衛星課の道城竜さん(右)。気象庁内にある気象科学館のひまわり8号・9号の模型前で。ここは気象を楽しく学べる展示多数。土日は気象予報士の説明も!