• DSPACEトップページ
  • DSPACEコンテンツメニュー

読む宇宙旅行

2014年10月30日

「ファーストスター」世界初観測をねらう!
超巨大望遠鏡TMT

日本や米国など5カ国が2021年の完成を目標に計画を進めるTMT。1.44m径の鏡×492枚で口径30メートルを実現。望遠鏡本体は三菱電機が担当。(提供:国立天文台)

日本や米国など5カ国が2021年の完成を目標に計画を進めるTMT。1.44m径の鏡×492枚で口径30メートルを実現。望遠鏡の構造部は三菱電機が担当。(提供:国立天文台)

 「光を、さらに多くの光を」。望遠鏡は大きな鏡で多くの光を集めれば集めるほど、より遠くの、より暗い天体をより詳細に見ることができる。

 現在、人類が観測したもっとも遠くの銀河は130.2億光年先にある。つまり130.2億年かけて地球に届いた、130.2億年前の銀河から放たれた光を観測しているわけだ。宇宙誕生は約138億年前とされているので、宇宙誕生約8億年後の銀河を見ていることになる。(134億光年先の天体が発見されたというニュースも出ているが、距離が正確に決定されていない)

 ではその先はどうなっているのだろう。いつ、最初の星や銀河が生まれたのか?人類は今、最先端の技術を総動員してその疑問に答えようとしている。狙うのは宇宙誕生後の暗黒時代に最初の光をもたらした「ファーストスター」。ファーストスターは宇宙誕生約2億年~4億年後に生まれたと考えられている。

 「ファーストスターを観測することは遠方宇宙を研究する天文学者の究極の目的であり、もし発見されれば天文学の歴史が変わるでしょう」と、最も遠い銀河の観測記録を次々ぬり替えてきた「最遠銀河ハンター」である国立天文台TMT推進室の柏川伸成准教授はいう。130億光年からさらに遠く、宇宙の果て近くから届く微弱な光をとらえ、かつ詳細に調べて、「これがファーストスターだ」と決定するには、超巨大望遠鏡が必要だと柏川さんは力説する。

 現在、超巨大望遠鏡計画が世界で動き始めている。2020年代の完成を目指した口径22~38mの超巨大望遠鏡計画は3つ。米国・韓国などの「大マゼラン望遠鏡計画(GMT)」(口径22m)、欧州南天天文台の「E-ELT計画」(口径39m)、そして日本、米国、中国、インド、カナダが進める「TMT(Thirty Meter Telescope)計画」(口径30m)だ。その中で「最初に動き出すのはTMTでしょう」とTMT国際天文台評議員会副議長の家正則教授は胸をはる。

左:大マゼラン望遠鏡計画GMT。米国、韓国・豪州がチリのラスカンパナスに建設予定。予算を獲得するたびに口径8.4mの鏡を増設していき、4枚揃ったところで観測を開始する予定。(提供:GMT Organization)右:欧州南天天文台がチリのセロアルマソネスに建設予定のE-ELT計画。2000年頃「予算は忘れて地上で可能な最大の望遠鏡を」という議論から口径100m(!)でスタートしたが現在は39mに。5つの鏡をもつ。(提供:ESO/L. Calcada)

左:大マゼラン望遠鏡計画GMT。米国、韓国・豪州がチリのラスカンパナスに建設予定。予算を獲得するたびに口径8.4mの鏡を増設していき、4枚揃ったところで観測を開始する予定。(提供:GMT Organization)
右:欧州南天天文台がチリのセロアルマソネスに建設予定のE-ELT計画。2000年頃「予算は忘れて地上で可能な最大の望遠鏡を」という議論から口径100m(!)でスタートしたが現在は39mに。5つの鏡をもつ。(提供:ESO/L. Calcada)

 具体的にどうやってファーストスターを観測するのか。柏川さんはいくつかの段階を説明して下さった。

 まず、なるべく広い範囲の空から、なるべく遠い天体の写真を撮影する。これはハッブル宇宙望遠鏡の後継機であるジェイムズウェッブ望遠鏡(JWST)の観測が期待される。TMTでも可能だが、より「広い視野」という点でJMSTが勝っているとのこと。

 しかしJWSTでは、撮影した写真から、大まかに「これが遠い天体である」という候補天体を絞り込むところまでしかできない。

 次の段階で必要になるのは「分光観測」だ。つまり天体の光を細かく分けて調べることで、天体の距離を正確に割り出すと共に、天体にどういう物質が含まれるかを調べる。「天体の光を細かく分けて調べるためには、大量の光をとらえなければならず、口径の小さな宇宙望遠鏡では光の量が足りない。大きな鏡でたくさんの光を集める地上の巨大望遠鏡の出番なんです」と柏川さんは説明する。

TMT推進室の柏川伸成准教授。科学運用担当。TMTは系外惑星の直接撮像や宇宙膨張の直接観測など様々な科学成果が期待される。個人的には「やはりファーストスターを見たい。今の宇宙は星や銀河がたくさんあるが、最初の星がどうやって生まれたか、だれも見たことがないですからね」

TMT推進室の柏川伸成准教授。科学運用担当。TMTは系外惑星の直接撮像や宇宙膨張の直接観測など様々な科学成果が期待される。個人的には「やはりファーストスターを見たい。今の宇宙は星や銀河がたくさんあるが、最初の星がどうやって生まれたか、だれも見たことがないですからね」

 ではTMTはファーストスターをどのように判別するのか。「星が生まれる前の宇宙には水素とヘリウムしかない。候補天体を分光観測し、ヘリウムのシグナルが強ければファーストスターと考えられる」(柏川さん)とのこと。

 星の中に水素とヘリウムだけでなく金属が含まれれば、ファーストスターが爆発してできたセカンドスター以降となる。しかし天体に金属が含まれないことを明確に見分けられるのか(ないことを証明するのは難しい)。現在予想されるファーストスターの明るさから、相当チャレンジングな観測になりそうとのこと。難しい観測には違いないが、観測に成功すれば、ファーストスターから天の川銀河ができるまでの一連の天体形成のプロセスがわかってくる。天文学者の「究極の夢」を、世界で最も早く実現させる可能性が高いのがTMTなのだ。

 TMTの建設は既に始まっている。マウナケアは地元の人たちにとっては聖なる山。10月7日(ハワイ時間)に行われた起工式には、建設反対派が抗議を行ったという(場所を変えて起工式は完了した)。望遠鏡が次々建設され、天文学のメッカになっていることについて地元では歓迎の声が大多数というが、様々な意見があるのだろう。法的な手続きはとられ環境アセスメントも行われているが「今後も説得を続ける」と家教授は語っている。

 TMTの国際協力や技術的なお話もとても興味深いので、改めて紹介します!