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読む宇宙旅行

ライター 林 公代 Kimiyo Hayashiライター 林 公代 Kimiyo Hayashi

日本の大望遠鏡発祥の地、OKAYAMA進化中

ハワイや南米などに次々と巨大望遠鏡ができる時代ですが、日本で一番、天体観測の条件がいい場所はどこか知っていますか?

答えは「岡山県」。晴天日が多く、上空の気流が安定しているという、天体観測にとって最高の気象条件であることから、東京天文台は1960年に当時、東洋一の188cm望遠鏡を建設した(現在は国立天文台岡山天体物理観測所)。実はそれ以前の1926年に、岡山県倉敷市に日本初の公開天文台である倉敷天文台も誕生していた。今では美星天文台、宇宙ゴミや小天体を観測する二つのスペースガードセンターをも擁する「天文王国」なのだ。

岡山の188cm望遠鏡と言えば、思い浮かぶのは名著「天文台日記」。天文学者の石田五郎さんが望遠鏡を通して星と対話しつつ、観測の合間に「深夜喫茶」でクラシックレコードを聞くという当時の天文学者の日常や戦後、初めて先進的望遠鏡を手にし、欧米に遅れていた日本の天文学が開花する様子が生き生きと描かれている。この本を読み、いつかその舞台を訪れてみたいと思っていたところ、3月に倉敷科学センターで講演の機会を頂いた。さらに学芸員の三島和久さんから「今、面白いことになってますよ」という情報が!新しい望遠鏡を建設中だというのだ。これは見ないわけにいかない!と日本の観測天文学「発祥の地」を詣でることに。

国立天文台岡山天体物理観測所の188cm望遠鏡ドーム。岡山県は晴天の日が多く、上空の気流が安定している「天文王国」だ。(提供:国立天文台岡山天体物理観測所)

国立天文台岡山天体物理観測所は、岡山県浅口市と矢掛町の境の標高372mの竹林寺山にある。訪れた日曜午後は快晴だった。北は中国地方最高峰の大山が、南は瀬戸大橋が見えるという眺望の良さ。直径20メートルの銀色のドーム内に入ると188cmの望遠鏡が堂々とした佇まいで迎えてくれた。鏡筒が青く塗られ、今年55年目を迎えるとは思えない「現役感」が漂う。泉浦秀行所長によると2013年に望遠鏡のモーター(駆動系)と測定系の大改修を行い、使いやすく現代的な望遠鏡に生まれ変わったという。ハワイのすばる望遠鏡ができて、観測現場は国外に移ったと思っていたがとんでもない。この進化する望遠鏡を使い、年間観測日のうち2割はテストや保守作業に、残り8割は観測にフル稼働状態だそう。

観測で注目を集めるのが「系外惑星」だ。系外惑星観測のための観測装置HIDES(ハイデス)を1999年に搭載。2003年には、日本で初めて系外惑星(HD104985b)を発見することに成功した。観測したのは東京工業大学の佐藤文衛准教授で、当時大学院生だった。私が訪問した日も観測期間中で、ちょうど夜の観測に備えて眠りから目覚めた佐藤先生にお会いすることができた。佐藤先生らは太陽の約10倍の大きさをもつ巨星約300個をターゲットに観測を続けていて、これまで約30個の系外惑星を発見。巨星を回る系外惑星の発見数では世界トップだ。「今やOKAYAMAは系外惑星探索の主要なサイト(望遠鏡)の一つとして世界的に広く認知されている」とのこと。2001年から観測を始め、今も年間50~80日は岡山で観測を行っているそうだ。

「すばる望遠鏡で観測しないんですか?」と聞くと「もちろんしています。ただ『すばる』は観測提案が多いため、年間の観測日数がそれほどとれない」とのこと。ターゲットとなる系外惑星の公転周期を確認するには、少なくとも一公転周期は観測しなければならない。15年、30年と長い年月がかかる地道な観測が必要なのだ。中国や韓国の望遠鏡でも観測しているが「岡山はそれらに比べてダントツに天気がいい。岡山の望遠鏡が使えなくなったら『商売あがったり』ですよ 」と笑う。

1960年開所当時、東洋一だった188cm反射望遠鏡は2013年に大改修を行い今も現役。訪問時も系外惑星の観測期間中だった。(撮影:倉敷科学センター 三島和久さん)

系外惑星については新兵器「MuSCAT(マスカット)」が2014年末にファーストライトを迎えた。HIDESは系外惑星が主星の周りを回ることによって主星がふらつく現象を観測する「ドップラー法」を用いているが、「MuSCAT」は系外惑星が主星の前を横切る現象を観測する「トランジット法」を用いて系外惑星の大気まで調べようという意欲的な計画。両方の観測で、OKAYAMAから系外惑星に関する新発見がさらに増えるだろう。楽しみだ。

さらに!天文台の敷地内では新しい望遠鏡計画が始動していた。京都大学、岡山天体物理観測所や企業が産学官でアジア最大級となる口径3.8mの望遠鏡の建設を進めている。京都大学の野上大作准教授に、建設中の望遠鏡を見せて頂く幸運に恵まれた。

3月初旬の取材の時点では、鏡が乗っていない本体だけの状態だが、パッと見たところ、まるで「ジャングルジム」。軽く、硬く、変形しにくい構造にするため「遺伝的アルゴリズム」を用いてトラスをどう組んでいくかを設計。従来の数分の一の超軽量架台を実現した。主鏡は国内初となる18枚の分割鏡。鏡の裏を162本のホイフルツリーという支持機構で支え、鏡面の歪みやずれを自動的に検知して補正するそうだ。

観測ターゲットはいくつかあるが、期待大なのが「ガンマ線バースト」の観測だ。宇宙最大の爆発現象とされるが、爆発後数秒~数分で消えてしまうため、謎が多い。現在は宇宙を飛ぶ観測衛星がガンマ線バーストを捉えると、地上の観測網に情報が流され、世界中の望遠鏡が爆発天体をいち早くとらえようと観測を始める、世界的な「観測レース」状態だ。現象の解明にはなるべく大口径の望遠鏡を向けたいところだが、アジア地域には口径3m以上の望遠鏡がなく「観測の空白地帯」になっていた。この3.8m望遠鏡は大口径を持ちながら軽いため、空のどの方向にも1分以内に向け、ぴたっと止めて、爆発をとらえられると期待される。望遠鏡は2016年度のファーストライトを目指している。

京都大学などが建設を進めるアジア最大級の3.8m望遠鏡。軽く、硬く、突発天体を1分以内にとらえる機動力の高さが売り。京大・野上大作先生の説明にも熱が入る。(撮影:倉敷科学センター 三島和久さん)

望遠鏡は口径約30mもの超大型化の時代に向かっている。初期に作られた望遠鏡をどう活用していくかは世界的な課題でもある。また、空気の状態が日本一とされる岡山の空も天の川が見える日は減り、PM2.5にも悩まされるようになってきた。しかし大望遠鏡に観測提案が殺到する一方で、天文学者が自分のアイデアを気軽に試したり、頻繁に観測したりできる公開望遠鏡が国内に少ない現状を考えると、まだまだ活用の余地はあるだろう。

年に一回行われる特別公開では、ふだんは入れないドーム内部に入り、望遠鏡の真下で講演を聞くことができる。(提供:国立天文台岡山天体物理観測所)
さらにキャットウオーク(ドーム内上部の通路)に立ち、望遠鏡の筒先から主鏡を見るというアトラクション感覚の反射鏡見学ツアーも!これは見たい。(提供:国立天文台岡山天体物理観測所)
さらにキャットウオーク(ドーム内上部の通路)に立ち、望遠鏡の筒先から主鏡を見るというアトラクション感覚の反射鏡見学ツアーも!これは見たい。(提供:国立天文台岡山天体物理観測所)

この日本の天文学のメッカ、ぜひ訪れてみてほしい。お勧めは年に一回の公開日。なんと、望遠鏡の真下に座って講演会を聞くことができ、さらに188cmの望遠鏡の筒の先から鏡を眺められるという、超レアな体験ができる!私もぜひ歴史的望遠鏡の鏡にうつる自分の姿を見てみたいものです。