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読む宇宙旅行

ライター 林 公代 Kimiyo Hayashiライター 林 公代 Kimiyo Hayashi

金星のナゾ解き始まる
—「超自転」の不思議、雷30年論争に決着!?

夕方の空にキラリと輝く一番星、金星を見つけると嬉しくなる。金星がキラキラ輝くのは、その表面を覆う硫酸の雲が太陽光をよく反射するからだ、と知ってましたか?金星は地球と大きさも質量もほぼ同じで「双子星」とも言われるけれど、その環境は地球とは全く異なっていて、ナゾが多い惑星なのだ。

たとえば「金星のナゾ」を並べてみると・・・

  • ・ 大気のほとんどは二酸化炭素。温室効果が働き、地表温度は400度以上、90気圧以上もの灼熱地獄。硫酸の厚い雲に覆われ硫酸の雨が降る。

  • ・ 自転周期が243日で、公転周期が約225日。つまり1日が1年より長い!また自転の方向がほかの惑星と反対で、太陽は西から登り東に沈む。もっとも厚い雲に覆われて、地表から太陽は見えない。

  • ・ 最大のナゾは金星大気で吹く高速の風。秒速約100mの風が吹き金星を100時間弱で一周してしまう(東京で暴風警報が出るのは秒速25m以上なので、いかに金星の風が高速なのか想像がつくはず!)。この強風は「スーパーローテーション」と呼ばれる。ゆっくり自転する金星でなぜこれほど強風が吹くのか、ナゾは深まるばかり。

金星観測スタートで新たな謎が!

お隣の惑星なのに、これほど地球と環境が異なるのは不思議だと思いませんか?ご近所さんなら知っておきたい。そこで金星の謎に挑むのがJAXAの金星探査機「あかつき」だ。2010年の金星軌道投入失敗から5年後、2015年12月に奇跡的なリベンジを果たし、試験観測を開始。6つの観測機器はすべて順調で、科学者が驚く金星の素顔が次々と明らかになっている。まずはおめでとう!とその快挙をたたえたい。

試験観測についての記者説明会が3月末にJAXAで行われたが、中村正人プロジェクトマネージャはじめ研究者の皆さんが、これから始まるサイエンスにわくわくしている様子が伝わってきた。説明会から興味深い話題をいくつかご紹介しよう。

まず金星周回軌道投入直後に中村プロマネが「なんじゃこりゃ!」と驚いたのが、中間赤外カメラが撮影した画像。南北に弓状の構造が見えていて4日間にわたって観測されたものの、その後は観測されていない。金星の雲の温度分布をとらえたもので、白く見えるのは温度が高いところ。金星は東から西に秒速100mの風が吹いているので東西方向に筋があるのはわかるが、南北にこのような構造がなぜできるかは謎。他のカメラの観測画像にも弓状の構造がかすかに映っていたという。

中村プロマネも驚いた画像。これまで知られていなかった弓状の構造が南北に見えている。中間赤外カメラで撮影され4日間観測された。(提供:JAXA)

そして赤外線カメラ(IR2)でとらえた、金星の夜面の画像。夜といえども真っ暗でなく下層からの熱放射が雲をシルエットとして映し出す。昼夜の境界がくっきりわかり、夜面には従来知られた筋状でなく、「巨大な壁のように」大きく南北に広がる濃密な構造が観測された。

2016年3月13日に撮影した画像で金星の夜面を説明するJAXA佐藤穀彦教授。
「あかつき」赤外線カメラ(IR2)の観測画像。左半分は昼側(太陽光によるノイズで見えない)で右半分が夜側。夜側中央に南北にのびる壁のような雲が見える。(提供:JAXA)

一方、別の観測では金星の雲の高さがわかった。赤道付近では雲が高いのに、北緯50度から北側では劇的に雲の高さが低かった。なぜ場所によって雲の高さが違うのか不思議だ。

JAXA佐藤教授いわく「地球の雲と金星の雲はまったく違う。地球の雲は高度約10kmまでの範囲で対流現象が起こっている。一方金星では高度48km~70kmまで広がっていて、その中の構造がまだわかっていない。『あかつき』は異なる高度に感度のある複数のカメラを搭載することで三次元的に観測し、どうやって雲ができ、スーパーローテーションが起こり、我々と違う世界になっているのか解明したい」と説明する。

発見できれば画期的—火山、雷

「発見されたら画期的」という点で二つ挙げられたのが「火山」と「雷」だ。金星の地表面は比較的新しく、数億年前に全とっかえされた跡が残っている、と東京大学の岩上直幹教授は言う。「欧州の金星探査機ヴィーナス・エクスプレスが活火山を見つけたと発表したが、ほかの現象でも説明できるため信用されていない。我々が活火山を新発見できるチャンスがある」とのこと。たくさんの画像を撮ることで、溶岩などの変化を見るという。活火山が発見されれば金星内部がどうなっているか推測できるし、金星の形成や進化を知る手掛かりとなる。

そして、面白いのが「金星に雷はあるか否か」。30年以上にわたり雷をめぐる論争が続き「ある!」とする論文と「ない!」とする論文がほぼ半々。決着がつかない最大の理由は、雷専用機器による決定的な観測が行われていないこと。「あかつき」には、北海道大学高橋幸弘教授が開発した「太陽系初の雷専用カメラ(地球を除く)」が搭載されている。

「たかが雷と思うかもしれませんが、雷は大気の性質を調べるうえで大変重要です。地球上でも雷がゲリラ豪雨や気候変動の手掛かりになることが証明され、これから打ち上げられる欧米の気象衛星には雷センサーが標準装備になりました」と高橋教授。地球上では1秒に20回ぐらい雷が起こっている。特に赤道付近の雷は地球の大気循環のエンジンになっていて、全球の大気循環を決めていると言えるそう。「あかつき」では高度ごとの水平観測は行われるが、雷雲は鉛直方向に起きるので、「上昇気流がある」など垂直方向の情報をもたらす意味でも雷観測の果たす役割は大きい。

雷カメラについて説明する北海道大学の高橋幸弘教授。北大チームはISSきぼう日本実験棟に雷やスプライト(高高度発光現象)撮像センサーを搭載、観測を行いNASAからISSの成果トップ3に選ばれている。

実際、ヴィーナス・エクスプレス探査機は雷から出るような電波をとらえている。果たして金星に雷はあるのか?地球で雷発生に必要となる氷や水の雲粒、上昇気流の証拠が金星にはない。しかし地球と異なる発生メカニズムがあるかもしれない。「(「あかつき」の雷カメラは)地球の平均の雷の100分の一の明るさまで測ることができ、1秒間に約3万回もの発光強度計測で雷とノイズを区別できます。雷があってほしいし、雷を観測することで金星気象学に貢献したい」と高橋教授。「あかつき」の雷・大気光カメラは高圧電源を使用するため準備に時間がかかり、6月頃の観測開始を目指す。

金星で起こる雷のイメージ図。(提供:ESA/Christophe Carreau)

なぜ太陽系の惑星はこんなに違っているのか

記者会見で印象的だったのは「これが見つかったら画期的というのは何?」という質問に対する、プロジェクトサイエンティストのJAXA今村剛さんのアツい回答だ。

「説明しやすいのは『雷』や『活火山』です。だが我々としてやはり大きなターゲットは金星の『スーパーローテーション』を駆動する大気現象です。たとえば地球には偏西風の蛇行があり、地球規模で波打っています。まだ知られていませんが、金星の大気の深いところにも、大きく蛇行する大気の流れがあるはず。まずそれを観測して詳細に調べたい。

地球と金星は同じ惑星だから、共通の物理メカニズムがあるはずです。しかし見かけ上は違った現れ方をしている。雷についていえば、地球上では大きな氷の粒ができて電荷分離が起こり、雷雲ができる。金星には大きな氷の粒はないので、雷があれば違うことが起こっているはずです。共通の物理が、惑星ごとの違った環境で違った現れ方をする。その仕組みを知りたい。それがわかれば太陽系の惑星たちが、一見違った姿をしている理由が見えてくるでしょう」。

地球と金星。今はまったく異なる環境だが、ずっとそうだと言い切れるだろうか。地球の温暖化は深刻化し、このまま温暖化が続けば金星の環境に近づく可能性だってある。金星を知ることは、地球の未来を知ることにもつながるのではないだろうか。

最後に、会見で「やったね!」と嬉しそうな表情を見せた中村プロマネの座右の銘をご紹介。「丹心照萬古」は「真心から出た行いは永遠に光輝く」という意味だそうです。見習いたい。「あかつき」は4月上旬に軌道を修正し、観測期間が800日から2000日に延びました。金星のナゾ解明に期待しましょう。

金星探査機「あかつき」プロマネ中村正人さんの座右の銘。(宇宙ミュージアムTeNQ「宇宙のしごと人」展、展示から)