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ライター 林 公代 Kimiyo Hayashiライター 林 公代 Kimiyo Hayashi

ロケット打ち上げはなぜ感動するのか
—打ち上げ見学のススメ

一度きりの人生、なるべく多く感動を味わいたい。日常にも感動の種はいっぱいあるけれど、非日常の強烈な感動を全身で感じたいなら、強くおススメするのが「ロケット打ち上げ」と「皆既日食」だ。この二つは一度見たら病みつきになること間違いなし。(私もその一人・・・)

その一つ、ロケット打ち上げが立て続けにやってくる。11月1日に「ひまわり9号」が、12月9日に宇宙ステーション補給機「こうのとり」6号機がJAXA種子島宇宙センターから飛び立つ。今年度中にはイプシロンロケットがJAXA内之浦宇宙空間観測所から、民間ロケット・モモが北海道大樹町から打ち上げ予定だ。しかしアナタは「打ち上げは延期がつきものでは?」と思うかもしれない。ところが最近、特にH-IIAロケットでは気象条件以外で延期されることはほとんどなくなった。この機会に一人でも多くの人にロケット打ち上げの感動を味わってほしい。そこで改めて「ロケットの感動ポイント」を私の経験も盛り込みつつ紹介してみたい。

2014年10月7日、JAXA種子島宇宙センターから打ち上げられた「ひまわり8号」。11月1日に打ち上げ予定の「ひまわり9号」はロケットの機体に宇宙兄弟のモザイクアートが描かれる予定で、それも楽しみ。

世界で異なるロケット打ち上げ

私のロケット打ち上げ見学歴を簡単に紹介しよう。これまで種子島宇宙センターで3回、NASAケネディ宇宙センターで3回(スペースシャトル)、バイコヌール宇宙基地で2回(ソユーズロケット)、打ち上げを見た。打ち上げのたびに種子島に通うツワモノも多々おられるから、決して見学数が多いとは言えない。しかし日米ロの打ち上げを見てきた立場から比較するなら、NASAのスペースシャトル打ち上げは、7人の人間と大型バス約一台分もの荷物を運ぶ巨大なパワーを持つだけに、発射時の白い噴煙はもくもくと力強く立ち上がり、空気をバリバリ引き裂く音や振動にも迫力がある。米国中から集結する乗りのいい観客たちとのカウントダウン、世界一大きいNASAお土産ショップなど、周辺の楽しさもぴか一だ。

一方、ソユーズロケット打ち上げの「売り」はロケットとの「距離の近さ」。わずか1.5kmしか離れておらず、ロケットと自分の間に広がるのは砂漠のみ。打ち上げカウントダウンもなく、突然打ちあがる「不意打ち感」と体の中をロケットが突き抜けるような「一体感」は、他では決して味わうことができない唯一無二の体験だ。

ロケットと見学席の間は約1.5㎞しか離れていない。見学席も簡素で打ち上げのカウントダウンもないが、ダントツの迫力を誇る。(打ち上げ写真 提供:NASA)

そして種子島の特徴は、「世界一美しい発射場」と呼ばれる環境美。青い空にコバルトブルーの海、夜は満天の星空。天の川を仰ぎ、静かに打ち寄せる波音を聞きながら、発射を待つ時間は他では得られない贅沢な時間。ロケットは力強さの中に繊細さをもあわせもつ。

見学場所やロケットの種類、さらに気象条件によって見え方の違いはあり、それらもロケット打ち上げ見学の楽しみの一つだが、打ち上げに共通する感動ポイントがある。

世界一美しい発射場と言われる種子島。青い海、ハイビスカスなど南国の植物、夜には満天の星空。地元の方たちの温かい応援が島中の旗にも感じられる。

打ち上げ感動ポイントとは

  • 1. 「閃光」:ロケットのお尻からもくもくと噴煙が広がった後、最初の見せ場が強烈な光。特に夜の打ち上げでは夜空を一瞬で昼に変えるような、まばゆい閃光が幻想的。
  • 2. 「音」:光から遅れてやってくるのが「音」。地上の重力を振り切り重いロケットが持ち上がるときの唸るような轟音、浮上したロケットが「バリバリバリ」と空を震わせ天を目指す独特の音。ロケット発射を何度も見ている達人たちによると、音の大きさは風向きで違い、雲があるときのほうが音は長く響くようだ。
  • 3. 「振動」:発射台との近さやロケットのパワーにもよるが、打ち上げの瞬間、地響きというか大地の唸りを感じる(スペースシャトルの打ち上げを体験した息子は「工事現場の波動」と表現)。またバイコヌール基地ではロケットからの爆風も感じる。
  • 4. 「空と雲、水面との競演」:固体燃料ロケットを使っている場合は、ロケットの噴煙雲が白くもくもくと立ち上る。またロケットが打ち上げ前後の空の色、雲の形の変化も目に焼き付けよう。海や湖などがある場合は、水面への光の反射が美しいはず。

打ち上げは空や雲、周囲の環境によって見え方が毎回異なる。私には忘れられない打ち上げが二つある。1つは「夕刻(マジックアワー)の打ち上げ」。2009年3月、若田飛行士が搭乗したスペースシャトルの打ち上げだ。雲一つないサファイアブルーの空を背景に、シャトルの真っ白い噴煙が立ち上る。その先っぽに若田さんが乗ったシャトル。空は次第にダークブルーへと深みを増す。2本の固体ロケットをぱらりと切り離し身軽になったシャトルは、夜のとばりに現れた「一番星」となり、煌めきながら加速する姿がいつまでも見えていた。ふり返ると夕焼けの名残が地平線に赤く広がる。NASAで「史上もっとも美しい」と言われた打ち上げだ。

若田光一宇宙飛行士が乗ったスペースシャトル・ディスカバリー号の2009年3月15日午後7時43分(米国東部夏時間)打ち上げ。この時期、フロリダの日没時間は遅く、発射時はまだサファイアブルーの空だったが、NASAの発表写真ではまるで夜の打ち上げのように映っている。ぜひ肉眼で空の色の微妙な変化も見てほしい(提供:NASA)

そして「最高にドラマチック」だったのが、2010年4月の山崎直子飛行士の打ち上げ。現地時間6時21分、「夜明け前の打ち上げ」だった。発射直前からドラマは始まった。射点上空を国際宇宙ステーション(ISS)が横切ったのだ。ISSには野口聡一宇宙飛行士が滞在中で、これからISSに向け飛び立つ山崎飛行士に「待ってるよ」とエールを送ったかのようだった。

そして打ち上げ。シャトルから放たれたオレンジ色の閃光によって、未明の空もケネディ宇宙センター内の水面も黄金色の神々しい光に包まれた。NASA職員が感嘆の声を上げたのはそのあと。シャトルが地上に残した噴煙が徐々にハート形になり、朝焼けの光に照らされてピンク色に染まったのだ。日の光がさんさんと降り注ぐと鳥がさえずり、入り江の魚が跳ねた。NASAケネディ宇宙センター周辺は野生保護区。動物たちの日常とロケット打ち上げの非日常の対比が、とても印象的だった。

山崎直子宇宙飛行士が搭乗したスペースシャトルは夜明け前の打ち上げだった。水面に映るシャトルの光跡。(提供:NASA)その後に現れたハート形の雲が朝焼けの光に照らされてピンク色に。

このように同じスペースシャトルでも、打ち上げ時刻や空の状況で一回一回打ち上げは異なる。だから病みつきになり、今度はどんな予期せぬ光景に出会えるのだろうかと期待が膨らむ。

もっとも感動した打ち上げは・・・
種子島で見た小さなロケット「H-I」

しかし、私が最も感動した打ち上げはNASAでもロシアでもなく、26年前の1990年8月に種子島で初めて見た小さなロケット、H-Iの打ち上げである。当時働いていた日本宇宙少年団(YAC)の「打ち上げ特派記者」という企画で、全国から集まった団員達を特派記者として、打ち上げ前から現地入り。射場で働く人々や準備状況を一緒に取材して回った。夜はみんなで駐車場に寝転んで天の川を仰ぎ、流れ星を数えたのも忘れられない。多くの人たちの打ち上げ成功への苦労や熱い想いを知っただけに、ロケット発射の瞬間は緊張した。そして成功を見届けると団員たちと涙した。この時に「打ち上げ」にはまってしまった。

そして嬉しいことに、感動を共有した当時高校一年生の団員と、26年ぶりに再会したのだ(なんとミュンヘンで!)。彼、神田浩一郎さんは、ミュンヘンに根を張る立派な社会人になっていた。しかし26年前の打ち上げのことを、まるで昨日の出来事のように克明に覚えていた。種子島の青い空と海を背景に一直線に白い軌跡を残して上昇する姿、燃料の燃える音、9本の固体燃料ブースターの切り離しと歓声・・・。打ち上げの思い出話は尽きなかった。

「打ち上げ取材で、関係者がそれぞれの思いをミッションに重ね、真剣に取り組んでいることを知りました。種子島で見た打ち上げを通して、自分の感性を信じて目の前のことにがむしゃらになること、今を真剣に生きることなどを感じ、今も自分の行動のよりどころになっています」とも教えてくれた。神田さんは今も時々3人のお子さんたちと一緒に星空を見上げているそう。ロケット打ち上げで得た感動が20年以上経った今も生き続け、彼の子供たちも繋がっているような気がして心が震えた。改めて、ロケット打ち上げ体験の大きさに驚かされた。

(財)日本宇宙少年団情報誌「L5」1990年10、11月号に掲載されたL5打ち上げ特派記者レポート(提供:日本宇宙少年団)。打ち上げ前から打ち上げ後まで全国から集まった6人の団員記者が徹底取材・レポートした。
26年ぶりにミュンヘンで再会した神田浩一郎さん(左)と。神田さんが打ち上げについて克明に覚えていることに驚かされた。

ロケット打ち上げを見るにはー個人で、ツアーで

今、ロケット打ち上げ見学はますます人気を呼んでいる。打ち上げがJAXAウェブサイトなどで発表されるや否や航空券は争奪戦となり、宿や種子島での移動の足となるレンタカー(私はこれで苦労した)があっという間に予約で埋まっていく。そして運よくそれらが確保できたとしても、現地での打ち上げ見学場所もいろいろあり、どこで見ればベストな打ち上げ体験ができるのか、迷ってしまう。(最近は南種子町役場がロケット打ち上げ見学の往復貸し切りバスをフェリーが到着する西之表港から出している。見学は長谷公園限定となる)。せっかく時間とお金をかけて出かけるなら、とことん納得いく打ち上げ体験をしたい。そんな人にぜひおすすめしたいのが金木犀さん(@kin_mokusei)編著による「宇宙へ(そらへ)!第3版 宇宙開発見学総合ガイドブック」だ。

種子島に定宿を持ち、ロケット打ち上げ見学歴20回。打ち上げ見学の現場を知り尽くした金木犀さんが種子島までの交通手段、宿の取り方(宿一覧にはキャンプ場まで!)、レンタカー情報、モデルコースと費用など細かく解説し情報も満載。必見は付録のロケット見学マップだ。見学場所ごとに、発射台からの距離とロケットがどこまで見えてどこが隠されるかが写真入りで示されている。(本誌にはトイレなどのお役立ち情報も)。これらはすべて金木犀さんの撮影によるもの。何年もかけて取材してきたノウハウが詰まった一冊だ。私はまだ内之浦宇宙空間観測所に行ったことがないので、この本をぜひ参考にして行きたいと思っている。

一人で行くのが不安という方には、打ち上げ見学ツアーもある。例えば日本旅行「sola旅クラブ」がひまわり9号のために販売した打ち上げ応援ツアーは約40名の定員が満席になり増席予定とのこと。担当の中島修さんによれば、客層は「アクティブシニア」「ファミリー」「女性」に大きく分けられ、世界中を旅してきたが、通常の観光では得られない生の体験をしてみたい人、30~40代の一人旅の女性もおられるとか。

ロケットの打ち上げはインターネットで手軽に見ることができる時代になった。しかし、あの強烈な光と轟音、振動は、現地に足を運ばなければ決して味わうことができない。宇宙への旅立ちがどれだけのエネルギーに満ちたものなのか、そしてそれを作り制御することができる人間の力をも全身で感じることができるだろう。それはあなたの今後の人生に大きな影響を与えるかもしれない。