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ライター 林 公代 Kimiyo Hayashiライター 林 公代 Kimiyo Hayashi

ロケット打ち上げに新たな楽しみ
—関東でも見える「夜光雲!?」

ロケット打ち上げに新たな楽しみが増えた。打ち上げは発射場まで行かないと見えないと思っていたら、鹿児島県の発射場から遠く離れた場所で(関東地方でも!)、ロケットが織りなす素晴らしい光景を堪能できる。それは「雲」。

下の画像を見てほしい。1月24日16時44分、種子島宇宙センターからH-IIAロケット32号機が打ち上げられた。その約1時間後の17時55分頃、倉敷科学センターの三島和久さんが撮影した画像だ。この日の岡山の日没は17時半ごろ。空が徐々に暗さを増し、周囲の雲は黒っぽくなる中、白く光る不思議な雲が浮かび上がっている。

2017年1月24日17時54-55分 撮影地:岡山県遥照山。三島和久さん撮影。画像右側が種子島方向。「雲の根っこから高層の雲の末端まで、雄大に伸びあがった雲の全体像が浮かび上がった」と三島さん。(提供:倉敷科学センター)

同様の雲は東海、関東地方などでも報告が相次いだ。プラネタリウム映像クリエイターで、最近は星景写真家としても大活躍中のKAGAYAさんが、同時刻に東京湾で撮影した画像と動画を見てみよう。東京は岡山より日没が30分早い。またロケットの飛行経路付近で発生した雲は、(風に乗って)関東に向かって移動してくる。つまり、雲の移動を正面から待ち受ける形だ。より暗い空を背景に、明るく鮮明に雲の様子をとらえることができる。

2017年1月24日17時55分 撮影地:東京湾海ほたる。この日の東京の日没は17時。「空が暗くなるにつれ、複雑な色彩と繊細な構造が見えてきました」とKAGAYAさん。(提供:KAGAYA)
連続写真を動画にしたもの。「通常の雲よりはるかに高いところにできた雲が、日没後に光ったまま広がっていくことがわかります」(KAGAYAさん)1月24日17時34分~18時15分 東京湾で。(提供:KAGAYA)

三島さんは、岡山、東京だけでなく日本各地で同時刻に撮影された画像を提供してもらい分析。雲の出現位置や高度を算出した(下の図)。その結果、この雲が高度72~79kmという、非常に高い高度に広がっていることがわかった(図中A点79km、B点75km,C点72km)。通常の雲は高度十数kmまでの対流圏にできる。この高さにできる雲は「夜光雲」と呼ばれ、極めてレアな雲らしい。SNS上では「夜光雲?」「彩雲?」など情報が錯そうした。確かに、東海から関東地方では、彩雲のように美しく色づいた雲が多数観測されたようだ。

最近ロケット打ち上げが増えた。夕方から夜の打ち上げでは、同様の雲がこれまでもたびたび出現し、話題になっている。2017年はロケット打ち上げが例年以上に多いことから、こんな妖しくも素敵な光景に出会えるチャンスが増えるはず。ならば知っておきたい。なぜロケット発射で雲ができるのか?これは「夜光雲」なのか。そもそも「夜光雲」とはどんな雲なのか?たくさんの疑問を抱いて、気象庁・気象研究所に雲研究者の荒木健太郎研究官を訪ねた。

雲の正体は「夜光雲」=地球上でもっとも高いところにできる雲

荒木さんは、防災・減災を目標に豪雨・豪雪・竜巻などをもたらす雲の仕組みを研究されている。(最近は、関東で雪が降った際に雪の結晶写真の投稿を市民に呼びかけ、首都圏に降雪をもたらす雲の実態解明研究につなげようという「#関東雪結晶 プロジェクト」でも知られる)。とにかく「雲への愛」が深く、雲全般について非常にわかりやすい解説をなさっている方だ。荒木さんに、三島さんやKAGAYAさんのロケット雲画像を見て頂いた。

「この雲は『ロケット由来の夜光雲』ですね」と荒木さん。

やはり、「夜光雲」だった。そもそも夜光雲とはいったいどんな雲なのでしょう?「地球上の大気層は高度十数キロまでが対流圏と呼ばれます。その上に成層圏、中間圏、熱圏がありますが、夜光雲は中間圏上部(中間圏界面付近、高度80km付近)に発生します。『地球上で発生する雲の中で最も高いところに現れる雲』と言われます。氷でできた雲です」。

国際宇宙ステーションから観測された夜光雲(画像中央上部の白く見える雲)。地球上空の高いところにあることがよくわかる。縞構造をもつのが特徴。2008年6月22日撮影。(提供:NASA)

地球上で最も高いところにある雲!夜光雲ができる中間圏では、宇宙船が宇宙から地球に帰る際に「大気圏再突入」したり、宇宙のチリが飛び込んで流星として見えたりする。つまり夜光雲は、宇宙と地球の境目に位置する雲なのだ。日没直後や日の出前に見られ、高い高度に位置するため水平線下の太陽から光が当たり青白く、時に銀色に輝く。

夜光雲は「夏になっている半球の高緯度地方」で観測されるそう。中間圏は夏の時期にごく低温(地球上でもっとも低温の環境)になるのが、その理由だ。詳細な観測例があまりなく、どうやって雲ができるか調べられているところだという。

で、ロケットとの関係は?「『夜光雲』の発生要因の一つに、ロケットから排出されるガスやチリがあります」と荒木さん。「雲はふつう『核』がないとできない。通常、大気中の微粒子(エアロゾル)が核として働いて、氷の雲の粒を作ります。ロケットの噴煙から、『雲の核』になりうるものが大量にロケットの軌跡上に放出されて『夜光雲』が発生し、風に流されたものが1月24日には広い範囲で観測されたと考えられます」。

荒木さんによれば燃料の種類は問わず、ロケット打ち上げのたびに中間圏でも雲は発生しているのではないか、とのこと。ただ非常に淡い雲であるために昼間、太陽の光が強すぎると見えにくい。夜に光って見えるから「夜光雲」と呼ばれるのだ。また中間圏に吹く風も、雲の形や見える地域に影響する。「(夜光雲は)例えば日没で空が暗くなりかけている時に、見えやすいでしょう。対流圏に雲がなく、空気が澄んでいると見えやすいです。海岸沿いがおすすめです」(荒木さん)

ロケット夜光雲の画像データが研究の一助に

高緯度地方でみられる夜光雲だが、最近、日本でも観測された!2015年6月21日2時~3時にかけて北海道大学、名古屋大学などの研究グループによって、北海道で夜光雲が観測されたのだ。複数のカメラ画像データによる観測で夜光雲と確証された。高緯度地方で発生すると考えられていた夜光雲が、中緯度地方に位置する日本で初めて観測されたのである。その原因については、温暖化や気候変動の影響かもしれないとも指摘されている。

ところが夜光雲は観測データが少なく、実態がわかりにくい。「ロケット由来の夜光雲の画像データが多数あれば、夜光雲の位置や高さ、その時間変化など、雲の時空間構造を詳しく解析できるようになります。夜光雲の動態から風の分布などの情報が得られれば、超高層の大気波動などの実態解明にも有効な情報になる可能性もあります」。つまり、「ロケット夜光雲」の画像データが、夜光雲の発生する超高層大気研究の一助になるかもしれないということ。

今回お話を伺った、気象庁・気象研究所の荒木健太郎さん(@arakencloud)。スマホのカバーも雲。雲をこよなく愛する研究者だ。関東甲信地方の皆さんは雪が降ったら雪結晶観測にご協力を!(詳しくは欄外リンク参照)(提供:荒木健太郎)

とにかくデータはたくさんあったほうがいい。「観測機会が増えることで、新しいことが見つかる可能性が増える」と荒木さんは言う。たとえば、「#関東雪結晶 プロジェクト」でも、2016年11月24日に東京で54年ぶりに11月の初雪が降った際、荒木さんの呼びかけに応じて、ツイッターなどを通じ一般市民から5100枚を超える画像 データが集まったそう。ひとつの降雪事例で特定の地域において、雪の結晶画像がこれほど多数集まったのは、世界で初めてのことだ。関東は雪があまり降らないことから観測例が少なく、研究例がほとんどなかった関東の雪結晶や、関東に雪を降らせる現象の研究に「市民科学」が役立てられているのだ。ロケット夜光雲も、超高層大気で起こっている現象を調べることに役立つ可能性は大きい。

夜光雲が最初に文献に登場したのは産業革命後の19世紀終わりごろと言われる。産業革命や地球温暖化と関係があるのか。謎は尽きない。ロケット打ち上げ後には、そんなこともちらっと頭の片隅に置きながら、夜光雲を探してみては?

次回は、荒木さんに聞く「雲を愛する技術」。美しい雲たちや逆さ虹(環天頂アーク)などに出会えるコツを紹介します。お楽しみに!