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ライター 林 公代 Kimiyo Hayashiライター 林 公代 Kimiyo Hayashi

切り込み隊長・野口宇宙飛行士、3度目の宇宙飛行へ

「挑戦の機会を得たことに感謝している。素直に高揚している」その言葉通り、ノリノリだった。2019年末からの3度目の宇宙飛行が決定した、野口聡一宇宙飛行士の記者会見。「映像を見ながら、記者さんからの質疑応答を受けましょうか」と会見を仕切るかと思えば、PCを操作する職員の名前を間違えて「宇宙船の操縦は得意だけど、人の名前を覚えるのは得意じゃなくて」と笑いをとる。会場にあふれんばかりの記者からも思わず笑いがこぼれ、「野口劇場」に引き込まれてしまう。「あの野口さんが帰ってきた」と嬉しくなる。

三度目の宇宙飛行が決まった野口聡一宇宙飛行士。11月9日の記者会見で。

なぜ、野口飛行士がこれほど高揚しているのか。まず、2019年末から3度目の宇宙飛行が決定したこと。宇宙に飛びたつ時は54歳、宇宙で55歳の誕生日を迎える。JAXA宇宙飛行士では最年長での飛行となる。「宇宙飛行士に選ばれたときは55歳まで現役でいるとは思っていなかった」(野口さん)。さらに注目は、野口さんが乗る「宇宙船」だ。現在米国の民間企業2社が開発中の、新しい船に乗る可能性があるのだ!

その新型宇宙船とは、スペースXの「クルードラゴン」、またはボーイング社の「スターライナー」。どちらも7人乗りのカプセル型宇宙船で現在開発中。2018年以降に米国人飛行士によるテスト飛行を予定している。もちろん開発が遅れソユーズ宇宙船に乗る可能性もあるため、3機の宇宙船の訓練を並行して行っていくという。これはノリノリになるのも無理はない。

野口飛行士が次の宇宙飛行で乗る可能性がある、新型宇宙船。左がスペースX社の「クルードラゴン」、右がボーイング社の「スターライナー」。(提供:NASA)

「初物で『これは危ないな』となったら、とりあえず野口」
切り込み隊長のこれまで

テスト飛行直後、新車の匂いのする新しい宇宙船に乗る。わくわくするものの乗るには勇気がいる。トラブルがどこに潜んでいるかわからない。安全性は保障されているのか。だが、野口さんは過去の宇宙飛行でも、難しい宇宙飛行をこなしてきた。

最初の宇宙飛行は2005年7月。NASAのスペースシャトル「ディスカバリー号」だった。当初は2003年3月に宇宙飛行が予定されていたが、直前の2003年2月、「コロンビア号」が着陸直前に空中分解、仲間の宇宙飛行士7人が命を落とす大事故が発生した。シャトル飛行は約2年半凍結する。

私はこの頃も何度も取材させて頂いた。「もしかしたら自分がシャトルに乗り命を落としていたかもしれない」、「なぜ危険を冒してまで宇宙に行くのか」、2年半の間に野口飛行士は自問自答を繰り返していた。また、シャトル飛行再開は米国の威信をかけたプロジェクトになり世界から注目される。船外活動チーフを担っていた野口飛行士は、外国人であり搭乗できない可能性もあった。しかし、野口さんは訓練に没頭した。「絶対に宇宙に行く」という強い意志と実力で、2005年7月の飛行再開に搭乗する。そして船外活動チーフとして事故対策の検証などの重責を見事に果たした。最初の船外活動で野口さんが宇宙に出たときに発した言葉「What a view!(なんて眺めなんだ)」には、暗闇を抜けた先に見た光と歓びが凝縮されているように感じた。

2005年8月。一回目の宇宙飛行で船外活動を行う野口飛行士。(提供:JAXA/NASA)

2回目の飛行は2009年12月から。この時に乗ったのはロシアの「ソユーズ宇宙船」。スペースシャトルが引退したために、国際宇宙ステーション(ISS)に滞在する宇宙飛行士はすべてロシアの船に乗ることになる。切り込み隊長としてロシアに乗り込み、ソユーズ宇宙船の操縦の訓練を受け、船長が操縦できない緊急時には操縦を担うフライトエンジニアの資格を取得。JAXA宇宙飛行士で初めてソユーズ宇宙船に乗り、宇宙に飛び立った。

2度目の宇宙飛行は、バイコヌール宇宙基地からソユーズ宇宙船に乗り飛び立った。2009年12月21日。(提供:NASA/Bill Ingalls)

そして今、米国の民間企業によって新たな宇宙船が誕生しようとしている。もちろん日本人宇宙飛行士の搭乗は初めてになる。「初物でこれは危ういなとなったら、『とりあえず野口を送っとけ』というルールがあるようだ」と野口さんは笑うが、JAXA有人宇宙技術部門宇宙飛行士・運用管制ユニット長の上垣内茂樹氏も「野口飛行士はこれまで難しいミッションをこなしてきて宇宙船に対する知識経験もある。安心して任せられる」と太鼓判を押す。

民間宇宙船—NASA流の仕事の仕方が取り払われるチャンス

では開発中の新型宇宙船を、野口飛行士はどんな風に評価しているのか。

スペースXの宇宙船「クルードラゴン」については「これまでの宇宙開発にはない考え方と取り組み方で宇宙への挑戦を続けている。アポロ宇宙船やスペースシャトルというNASA流の安全設計から全く離れたところで、電気自動車やペイパル(ネット決済)のようなネット技術や発想に基づく仕事の仕方を見ると、ここまでコストダウンして大丈夫なんだ、こういう考え方でロケットを作るほうが結果的にシンプルでいいんだ、と感じることが多い」という。野口飛行士は同社CEOのイーロン・マスク氏に3年前、「僕がクルードラゴンにのる最初の外国人になるよ」と宣言したそう。その実現も夢ではない。

Astronaut spacesuit next to Crew Dragon

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野口飛行士がクルードラゴンに乗ることになれば、この宇宙服を着ることになる。(イーロン・マスク氏のインスタグラムより)
2012年、クルードラゴンのプロトタイプ船内で評価を行うNASA宇宙飛行士たち。(提供:SpaceX)
2015年に行われた乗員脱出システムの試験。正常に作動することを実証した。(提供:NASA)

一方、ボーイングの宇宙船スターライナーについては「引退した宇宙飛行士の仲間が開発しているため、堅実な開発。スペースシャトル時代のものに近いのではないか。しかし操作パネルやコックピット周りの作り方は斬新。訓練し始めると違和感が少ないだろう」

ボーイングが開発中の新型宇宙船「スターライナー」飛行中のイメージイラスト(提供:Boeing)
2015年4月に行われた緊急時の着陸試験。通常は陸地に着陸するが、打ち上げ直後など緊急時には水上に着陸することも想定。(提供:NASA/David C. Bowman)
スターライナーに乗ったら、この宇宙服を着ることに。(提供:Boeing)

どちらの宇宙船になっても、打ち上げは米国フロリダ州にあるNASAケネディ宇宙センターからになる。2011年7月を最後にアメリカから宇宙飛行士は飛び立っていない。「もしスペースXの宇宙船になれば、スペースシャトルと同じ39A発射台から打ちあがることになる。因果は巡ると感じる」(野口飛行士)

この新しい宇宙船がもたらすものは何か。野口飛行士の言葉を借りれば「可能性」と「転換」だ。ソユーズ宇宙船は人類初の宇宙飛行を成し遂げたガガーリンの時代からあまり変わらず、1960年代からの設計を引き継いでいる。スペースシャトルは1970年代の設計。一方、米国の新型宇宙船は「新しい世紀になってからの設計で『我々の世代が作り上げる宇宙船』」(野口飛行士)。この宇宙船の登場で、地球と宇宙を往復する「宇宙往還ビジネス」が花開き、その先に宇宙ホテルなどの宇宙旅行時代がやってくるだろうと。一方、月や火星へとより遠くを目指す「有人宇宙探査」のきっかけにもなる。様々な可能性に満ちた民間宇宙船がアメリカから飛び立つことは、宇宙開発の歴史上、大きな転換点になりうるという。

「新しい挑戦の過程で得られることは非常に多い。これまでスペースシャトルもISSもNASA流の設計思想だった。知らないうちに自分たちを閉じ込めてきた仕事の仕方が取り払われるチャンスかもしれない。戸惑いはあるが得られる知見がある。私だけでなく、日本の運用管制チームの皆さんにとっても新しい挑戦。切り込み隊長として当たりたい」

ツイッター王、次は何に切り込む?

野口さんが切り込むのは宇宙船だけではない、と私は信じている。(いい意味で)ミーハーな野口さんは、私たち一般の側に立って「どうすればもっと宇宙を楽しめるか」考えてくれる。

わかりやすい例が、2回目の宇宙滞在の時に始めたツイッターだ。今でこそ、宇宙飛行士がツイッターでリアルタイムに宇宙から見た地球の画像を投稿するのが当たり前になったが、10年前はそうではなかった。宇宙飛行士は撮影した写真をNASAに送り、地球観測の専門家が選んだ写真がNASAのウェブに掲載されていた。でもそれはあくまで専門家の見方。宇宙飛行士自身が「この画像すごいよ、見て!」と感動と驚きをリアルに伝え、共有したい。野口さんが地球画像の投稿を始めると、フォロワーは爆発的に増えた。「自分の街を撮って」というリクエストにも応え、宇宙と地上で双方向のコミュニケーションが生まれたのは画期的だ。世界中が地球や自分の街を見つめ直すきっかけにもなり、「King of Twitter」と評された。

「次は何をしてくれますか?」と記者会見で訪ねると「2019年末、ロケットに火が着いた瞬間に、一番流行っているメディアを使うのではないか。皆さんからの提案を積極的に受け入れたい」とのこと。皆さんもぜひ考えてみてくださいね。

2005年、2009年の宇宙飛行と続き、今回は約10年ぶりの飛行。会見では野口さんからは「モチベーション」という言葉が頻繁に聞かれた。新世代宇宙飛行士が活躍する中、宇宙に再び行けるかどうかはっきりしない中でモチベーションを保つことが容易でなかったことが伺える。その中で掴んだ挑戦。「イチローやキングカズ(三浦知良選手)、スキージャンプの葛西選手ら各界のレジェンドに負けないように体調を整えて50代での宇宙挑戦に挑みたい」。

2024年まで残り4枠。宇宙飛行士の募集は?

ところで気になるのが次の宇宙飛行士募集。会見後、JAXA上垣内氏に訪ねてみた。ISSの運用が決まっている2024年までに、日本人が搭乗できる機会は残り4枠。新しい宇宙飛行士の募集はいつ頃?「(2024年までのISS運用の)先が見えてこないと募集はできないですね」。逆に言えば、その先が見えれば募集の可能性がある?「準備はしています。2020年まで募集しないとも言っていない。(募集、選抜、訓練と)宇宙に飛ぶまでに時間がかかるから、(新しい宇宙飛行士の募集も)考えていかないといけないと思っています」。

2024年以降の計画もそろそろ見え始めてくるはず。宇宙飛行士を目指すみなさん、準備を始めましょう。50代の宇宙飛行もありだから、中年の方もぜひ躊躇なく!

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