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ライター 林 公代 Kimiyo Hayashiライター 林 公代 Kimiyo Hayashi

「Made in ふくい」の衛星、次々宇宙へ!めざすは宇宙産業拠点—ISTS福井レポート②

福井県民衛星技術研究組合のメンバーの皆さん。右から2人目が福井県の村田大志さん。

自治体初の衛星「福井県民衛星」が2020年4月〜9月の間に、バイコヌール宇宙基地から宇宙に飛び立つ!それだけではない。福井県内企業と県工業技術センターが東京大学と組んで製造した超小型衛星3機(ルワンダ政府の衛星、水噴射エンジン衛星、ガンダム衛星)が今年から来年にかけて打ち上げられる。「福井産の衛星がすごい勢いで宇宙に行き始めます」と、福井県 産業労働部 新産業創出課・県民衛星グループの村田大志さんは、胸を張る。

なぜ福井県が衛星を作るの?どう使うの?6月半ばに行われた宇宙国際会議ISTS福井大会で県や関係企業の皆さん、そして福井のエンジニアの技術訓練を行い、今では共に衛星開発を進める小型衛星の第一人者、東京大学の中須賀真一教授に伺った話からレポートします。

東大・中須賀研で技術者トレーニング
→衛星を共に開発・製造するパートナーに

そもそもなぜ福井県が衛星を打ち上げることになったのか。その背景には福井県がもつ課題があった。それは、人口減少や社会の高齢化による経済活動の縮小。一方で世界の宇宙産業の規模は毎年拡大し、ベンチャー企業が起業するなど活発な動きがある。豊富な知見と技術力を持つ、ポテンシャルの高い福井のエンジニアや企業の力を何とか活かせないか。そこで「福井県は2015年に県内の宇宙産業を拡大していくことを決意しました」(村田さん)。福井県の産業では繊維や眼鏡等が知られるが、新しい産業を立ち上げようというわけだ。具体的には2015年にふくい宇宙産業創出研究会を設立、(株)セーレンをはじめ20社を超える企業が参加した。

だが、衛星を作った経験のある企業は存在しなかった。衛星製造について技術者をトレーニングする必要がある。訓練先として白羽の矢が立ったのが、東京大学の中須賀真一教授率いる研究室。中須賀研と言えば2003年に世界で初めて1kgのキューブサット打ち上げに成功、2010年には60kg級の地球観測衛星でビジネス化。それらを開発した学生たちが今やNASAやJAXA、宇宙関連スタートアップ等、世界の宇宙開発最前線で活躍中という名門研究室だ(山崎直子飛行士の出身研究室でもある)。そして、「我が国も衛星を作りたい!」「宇宙人材を育てたい」と望む新興国が、世界で最初に門をたたくのが中須賀研だと言われる。

2018年7月、ルワンダから訪れた研修生4人が福井県庁を訪問。前列中央が東京大学・中須賀真一教授。(提供:福井県)

福井の衛星づくりについて中須賀先生に伺うと、「始まりは2015年12月やったね。福井県の工業技術センターで年末から年始に集中講義とテストをしました。衛星づくりをもっと勉強したいというから、それならうち(東大)に来ないかとトレーニングが始まったんです。全員は東京に来られないから、福井に残っている技術者には『キューブサットを作って』と課題も出しましたよ」とにっこり。集中講義は相当高度な内容だったらしい。

実際に東大で研修が始まると、福井のエンジニアの底力に中須賀教授は驚いたという。「衛星開発には宇宙特有の技術もあるが、地上と共通の部分もある。その部分では彼らは非常に精通していた。『ほんまに技術力あるなぁ』と。失敗を経験している回数が学生と違うから、地上試験でうまく動かない時に原因を見つける時間が短い。設計の誤りを修正してくれたこともありますよ」。中須賀教授は、東大の衛星づくりを福井県エンジニアに随分助けてもらったとふり返る。「2017年にJAXAの超小型ロケットSS-520で打ち上げた東大の衛星トリコム-1の頃から、ずっと手伝ってもらっていますよ」

「え、そうなんですか?」と驚くと「福井出身やのに、なんで知らんの?」と中須賀先生に突っ込まれる。そう。私を含め地元の人たちは福井県の技術力を知らない。まさか東大の衛星を福井の技術者が手伝っていたとは。「ニーズがなかったからでしょ。こういう技術が必要というニーズと彼らがもつ技術がぴたっとはまった。東大は本当に人手が足らなかったので助かってますよ」(中須賀教授)確かにニーズと技術力がうまくマッチングしたのかもしれない。

こうして技術訓練をきっかけに始まった「東大×福井」の超小型衛星が何機も宇宙に飛び出そうとしている。注目の一つがアフリカ・ルワンダ共和国の超小型衛星だ。ルワンダはITを活用した施策に力を入れ、土壌の水分量を地表に置いたセンサーから受け取る超小型衛星の製造について東大と合意。衛星開発に福井県の企業も参画することになった。ルワンダの研修生4人が2018年夏に福井を訪れ、衛星の試験等を実施し、衛星開発の基礎を学んだようだ。ルワンダ衛星は「こうのとり」8号機に搭載して今年秋にもISSに運ばれ、宇宙空間に放出される見込みだ。

ルワンダの超小型衛星の実物大模型を説明するセーレン(株)の沢埼浩史さん。

福井を小型衛星製造・試験の拠点に

ルワンダ衛星の試験を福井で、とさらりと書いたが、福井県の宇宙産業への「本気度」を示すのが製造・試験設備の充実ぶりだ。福井県工業技術センターを中心に、小型衛星の製造や試験に必要な設備一式を整備している。小型衛星用試験設備ではJAXA筑波宇宙センター、九州工業大学と並び、国内3大拠点の一つ。衛星を作りたければ福井へ。製造はもちろん、打ち上げまでの試験を一通り実施可能になるというわけだ。

福井県が整備した小型衛星用製造・試験設備。打ち上げ時の振動を模擬する装置、宇宙での激しい温度差を模擬する熱真空試験装置、宇宙放射線で機器が劣化しないか試験できるイオン加速器も貴重(提供:福井県)

 「世界から優秀なエンジニアが集まって試験を行っている。福井県との接点が生まれ共同研究や技術の蓄積が進む。良いサイクルが生まれるきっかけの場となっている」と福井県の村田さんは語る。既に様々な試験が行われているようだ。

福井県民衛星とは?

衛星を製造・試験する施設が整い、エンジニアの技術スキルも上がった。2020年度の打ち上げ予定である福井県民衛星はこれから製造に入るところだという。福井県民衛星の製造や取得画像利用ソフトの開発は福井県民衛星技術研究組合(福井県、地元企業9社ほか)が担う。

いったいどんな衛星なのか。大きさは60cm×60cm×80cmで質量約100kg。地上の2.5mのものまで見分けられる。「従来の大型衛星の約100分の1のコストで作るわりに、良い性能を発揮できる」(村田さん)

設計・製造は県内企業とアクセルスペース(AS)社。注目すべきはAS社が多数の衛星で毎日地球全体を観測する衛星網AxelGlobe(アクセルグローブ)計画を掲げており、1機目の衛星GRUSを2018年末に打ち上げていること。福井県民衛星はGRUS初号機と基本スペックは同じ。2020年にGRUSの追加2機と一緒に同じロケットで打ち上げられ、AxelGlobeに組み込まれることになる。衛星が増えれば増えるほど、同じ場所を観測する頻度は高まり、地上の変化が頻繁にみられることになる。アクセルスペースが他の3機と連携しながら、福井県民衛星の運用も行う。

ちなみにアクセルスペース社のCEO中村友哉社長は、東大中須賀研で2003年に世界初のキューブサットを開発した学生だった。今日の世界的に超小型衛星ブームを巻き起こした中心人物の一人だ。自治体×民間×大学の取り組みという点でも興味深い。

県民衛星をどう役立てる?

さて、福井県の皆さんにとって最大の関心事は、福井県民衛星がどう使われるのかという点だろう。衛星の活用はまず、福井県での活用つまり行政事務で使うことから始まることになるという。たとえば福井県の全域を定期的に観測することによって、自動的に変化を抽出することが可能になる。

活用事例。新旧の衛星画像を比べることで、変化を自動的に抽出する。画像は2018年7月に起きた土砂崩れの様子で変化が起こった面積も把握。(提供・福井県民衛星技術研究組合)

画像では、2018年7月に福井県で起きた大雨による土砂崩れが、自動的に抽出されている。がけ崩れだけでなく、福井県で7割を占める森林の中で茶色く見える地域があれば、適正な森林開発なのか違法伐採なのかを見極め、発生初期に問題をつぶすことができることが期待されるという。全国的に自然災害が頻発する昨今、近づくことが難しい災害現場の情報を宇宙から把握できるメリットは大きい。

防災・監視アプリの例。衛星画像上に、災害の時に役立つ情報をのせていく。(提供:福井県民衛星技術研究組合)

さらに、防災・監視アプリへの活用も準備中だ。衛星画像に警戒区域や避難所、病院の位置などを表示し、防災関連で役立つ機能を集約する。「困った時にこのアプリを見ればいいというものを作りたい」(福井県 村田さん)。現在は、お試し版を作り福井県庁で評価を実施中。来年の打ち上げに向けてこれらソフトを完成させる予定だという。

今後—経済活性化につながる?超小型衛星の世界の拠点に!

福井県の衛星製造チームのリーダーを務めるセーレン(株)は、H-IIBやイプシロンロケットの防音ブランケットを開発製造した実績をもつ。衛星開発の難しさについて同社開発研究第一グループチームリーダーの沢崎浩史さんは「製造自体は、民生品のほうが難しいところはあります。でも衛星の難しさは使う環境の厳しさと、壊れても直せないところ。温度差が激しく真空で放射線が降り注ぐ宇宙環境でも、いかに壊れづらくするか、万が一壊れたとしてもバックアップで動くようにするかという冗長設計は、民生品と全然違う点です」

それでも衛星開発をするメリットについては「技術力のアピールになります。10年後に大きな市場となり、ビジネスとしても成り立つようにやっていけたら」と先を見据える。中須賀研に派遣した同社エンジニアたちは「入社時は、まさか衛星をやるとは思っていなかったようです。技術者として福井でこんなに大きなプロジェクトに参加でき、JAXAや東大と一緒に開発するなんてとモチベーションが高くなっている」と語り、ルワンダ衛星など関わった衛星のデビューを楽しみに待つ。

東大の中須賀真一教授に福井県への期待を尋ねた。「衛星開発を一過性でなく継続すること。たとえば我々はルワンダを皮切りに、新興国に同様の超小型衛星を通した人材育成を広げていこうと思っている。その時来日する外国人を、福井に呼びたい。福井をインターナショナルな超小型衛星の拠点にしたい」と語る。確かに、新興国から訪れる外国人にとって東京の家賃は高すぎる。民泊も面白いかもしれない。実現したらなんて素敵なのだろう!

福井県の村田さんは「福井県は宇宙産業の拠点になることを目指している」と力強く語った。経済活動の縮小に歯止めをかけ、宇宙が新しい産業の柱になれば。そして次世代を担う子供たちの仕事を作っていくことになれば、と。まずは「Made in ふくい」の衛星が宇宙できちんと働くこと、そして福井県民衛星が地元で有益に使われることをぜひ見せて欲しい。それが新しい顧客の獲得や量産化、さらに地元の活性化につながるだろう。福井出身者として、楽しみでならない。

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