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ライター 林 公代 Kimiyo Hayashiライター 林 公代 Kimiyo Hayashi

明日生きているかわからないから、できるだけ多く宇宙を見たい—KAGAYAさんが星空を撮る理由

2019年10月10日、アイスランドで明け方に現れたオーロラ。(撮影・提供:KAGAYA)

前回は、7月2日午前2時半過ぎに突如流れた大火球を、天体写真・天体映像界のカリスマ・KAGAYAさんがどうやって撮影に成功したかを紹介しました。今回はKAGAYAさんの5冊目の写真集「天空への願い」から「こんな写真、どうやって撮るんだろう」と私が驚いた写真の撮影エピソードや、世界中の星空と向き合うKAGAYAさんが感じたことを伺っていきます。

新しい写真集「天空への願い」には神々しさすら感じます。どんな狙いがありましたか?
KAGAYAさん:

古来の人たちが夜空に願いや祈りを捧げてきたように、天空に対する『畏敬の念』を表現する写真集にしようと思いました。今までの写真集との大きな違いは、カメラの性能も印刷技術もよくなって、光や色の表現が綺麗に出せるようになったことです。光が天空から差し込んで、願い事を叶えられるようなイメージで作りました。

表紙のオーロラの写真は、赤や緑のオーロラのイメージと違って優しい印象ですね。
KAGAYAさん:

これはアイスランドで偶然撮れたオーロラです。パステルカラーのピンクのオーロラの理由は、明け方に現れたからです。お客様と一緒に行った撮影ツアーの時に出会ったオーロラですが、最初は天気が悪かったんです。雲も多くてオーロラもほとんど出なくて、宿に帰る人もちらほら。夜明けが近づいて空が明るくなる頃、私もそろそろ終わりかなと機材を撤収し始めたときに、オーロラがぱーんと出始めました。みんな大騒ぎ(笑)。私は急いで撮影し始め、添乗員さんは宿に帰った人を走って起こしに行きましたね。

あきらめかけた時に!
KAGAYAさん:

はい。空は真っ暗の状態から夜明けを迎え、徐々に青くなる「薄明」という状態でした。そこに激しいオーロラがワーッと出てきたんです。オーロラは上の方が赤くなることが多いのですが、写真では紫からピンク色になっていますよね。この色のオーロラはわりと珍しくて、薄明が始まって、おそらく太陽光がオーロラに当たっているときに見られるものなんです。「共鳴散乱」という現象で、この色が出るともいわれています。

夜明けと共に現れたオーロラ。その色合いも希望を感じさせる色ですね。
KAGAYAさん:

優しい色だったので、表紙としてはいいと思いました。水面にもオーロラが映っていますが「妖精の庭」のように見えました。アイスランドは妖精の国で、北欧神話が語り継がれています。現地の方たちが妖精のすみかに近づくときは「お邪魔します」と挨拶すると聞いていたので、撮影ツアーでもご挨拶して撮影させてもらいました。ツアーの最後にオーロラが出て、皆さん大感激されていましたね。自然に対して謙虚になり、人間はお邪魔して見せてもらうんだという気持ちでじっと待って、最後にすごいの見せてもらったと。

円い虹の中へ!

それから、これは体験してみたい!と思ったのが「天空の宝石」というタイトルの、円い虹の写真です。どうやって撮影されたのですか?
2019年10月9日、アイスランドで撮影した円い虹。中央にKAGAYAさんの影。(撮影・提供:KAGAYA)
KAGAYAさん:

そもそも虹は水滴の集まりをスクリーンにして、太陽と反対側に出ますよね。円い虹を撮るにはいくつか方法があって、一つは眼下の見晴らしのいい高い場所に登ること。飛行機に乗った時に下に丸い虹が見えることがありますよね。でも飛行機の弱点は窓が小さいこと。私は何度か飛行機から円い虹を見たことがありますが、どうしても一部分が切れてしまって写真に撮ることができませんでした。

なるほど。でもこの写真は山の上ではなさそうですね。
KAGAYAさん:

はい。もう一つの方法が水しぶきの中に自分が入っていくことです。これがその写真です。アイスランドの滝の近くで撮影していますが、滝の水しぶきが風に舞って水滴が広がっています。実は以前、やはりアイスランドの滝の中で円い虹を見たことがあったのですが、撮影できませんでした。水しぶきが凄くて、カメラが水浸しになってしまったのです(笑)

今回は?
KAGAYAさん:

洋服の中にカメラを入れて、雨合羽を着て水しぶきの中へ。魚眼レンズでパッと撮って水しぶきをふいて、撮ってはふいてを繰り返しました。

魚眼レンズを使ったのですね!実際にこんな風に見えるのですか?
KAGAYAさん:

はい。こんな風に見えます。かなり大きいですよ。逆に言うと、肉眼では見えるのに写真でなかなか撮れない。太陽の位置は朝夕の低い時でないと撮りにくいです。太陽があまり高いと虹が自分の足にかかってしまいますし、足元の水滴は少ないので虹が薄くなってしまいます。ツアーの皆さんにも、「滝に突入すれば大きな虹が撮れます。ただしカメラの保証はしません」とお話しました(笑)

予想外のできごとナンバーワンは「イプシロンロケット打ち上げ」

2018年1月18日6時6分に鹿児島県内之浦宇宙空間観測所から打ち上げられたイプシロンロケット3号機を沖縄本島北部で撮影。(撮影・提供:KAGAYA)
そしてこの写真集で最も驚いたのは、ロケットの打ち上げ写真の美しさです。鹿児島県大隅半島の発射場からの打ち上げを、沖縄県で撮影されたのはなぜでしょう?
KAGAYAさん:

ロケットは通常、東に向けて打ち上げられますが、このイプシロンロケット3号機は南に向かって飛ぶ珍しい軌道でした。飛行経路から、ロケットの第1段~第3段の燃焼や分離、仰角などを調べると、飛行の全貌を見るには沖縄本島北部から見るのが一番いいとわかったんです。

公開資料からロケットの飛行経路(図中オレンジ色の線)を調べると、沖縄本島で撮影すれば飛行の全貌をとらえられることがわかった。(提供:KAGAYA)
さすがです。飛行経路から、どこで撮影するのがベストか詳しく調べられたわけですね?
KAGAYAさん:

調べる過程も面白いので、天文現象などを撮影するときも毎回詳しく調べます。ただロケットとなると経験が浅く、どのくらいの明るさで見えるのかがわかりませんでした。イプシロン3号機の打ち上げ時刻は夜明け。夜明けだと、ロケットが出した噴出物に太陽光が当たって夜光雲が見えるかもしれない。「またとないチャンスだ!」と思って飛行機もレンタカーも手配しました。ところが、打ち上げの24時間前に天気予報を見ると沖縄は雨。これは見えないなと思って、行くのをやめようと思ったんです。

打ち上げの24時間前!ギリギリですね・・。
KAGAYAさん:

(撮影機材で)荷物が多く、空港までのタクシーを予約していたのですが、キャンセルしようと電話したら、「もう出ました」と(笑)。しょうがないから行くかと思って、しぶしぶ出かけました。沖縄に午後着いたら、やっぱり雨。でも予報を見たら北の方は雲の切れ目があるかもしれない。夜、車を走らせて撮影場所を探すと那覇はずっと雨だったのに、晴れ間に辿りついたんです。

すごい!ロケット打ち上げの延期もなかったんですね?
KAGAYAさん:

はい。打ち上げ中継を聞きながら待っていたら「打ち上がったぞ!」と。でも変化もないし見えないのかなと思っていたら、打ちあがった方向から思ったよりも明るい光が(笑)

想像より明るかったのですか?
KAGAYAさん:

金星よりも明るいぐらいかなと思って、ロケットの噴煙と星も一緒に写せるような露出でカメラを設定していたんです。それがすごい明るくなっちゃって(笑)。「このままじゃ露出オーバーだ!」とあわてて3台出していたカメラの露出を変えて。

イプシロンロケット3号機の打ち上げに伴う光る雲。カメラ3台で連続撮影した写真をつなげてタイムラプス動画にしたもの(実際の時間の20倍速)(撮影・提供:KAGAYA)
そんなに明るかったんですね。
KAGAYAさん:

この時は、「想像よりすごいことが起こったナンバーワン」ですね。今までの経験上、たとえば皆既日食ではどういう事が起こるか事前に知識があって、ダイヤモンドリングが見えてコロナが広がって、などだいたいの明るさを知っていました。でもロケットの打ち上げは予想外のことが次々に起こった。

何が予想外でしたか?
KAGAYAさん:

一番びっくりしたのは、音が聞こえたんですよ。何百キロも離れた、明らかにロケットが飛んでくるらしき方向から、シューッとかゴーッとか聞こえる。しかもどんどん明るくなる。

ロケットが分離するたびに、明るさも変化しましたか?
KAGAYAさん:

はい。第2段が点火したときに更に明るくなって、「すごいものが見えた」という感じでした。2段燃焼が終了して暗くなって、あれ?と思っていたら第3段点火で三角の雲が広がって「まさかこんなものが見えるとは」という形状です。(高度200kmを超えて宇宙空間を飛んでいるはずなのに)音が聞こえていたと思います。

肉眼で見る余裕はありましたか?
KAGAYAさん:

見ざるを得ない。目が離せないです。基本的には日食もロケットの打ち上げの時も、自動でシャッターを切るようにしています。操作するにしても、シンプルにあまり色々やらなくてすむように。途中でレンズ交換なんて絶対にできませんから。一台が失敗してもほかでカバーできるように、構図やレンズなど撮り方を変えたカメラを並べておく。この時も3台用意して、打ち上げ後に1回だけ露出を変えて、あとは音を聞いたりきょろきょろしたりしながら。

自然のオーロラや虹の写真を撮られてきたKAGAYAさんが、なぜロケットを撮ろうと?
KAGAYAさん:

私は新潟県の長岡の花火も毎年撮影しに行っています。長岡の花火は1945年8月の長岡大空襲を忘れないために、鎮魂の意味を込めて打ち上げられています。ロケットも花火も、夜空に人間が何かを打ち上げるのは、天空への願いなんじゃないかと思います。

人間が打ち上げるものが星の世界に向けて駆け上がっていく姿は、純粋に美しい。ふだんの生活は地面にへばりついているわけですが、それを超えて何かを打ち上げようという人や、見上げている人には共通の想いがあるのではないか。そんな光景を見上げて、わたしは感動してしまいカメラを向けるわけです。カメラを向けるときにそれが自然物か人工物かをあまり意識したことはないですね。

一期一会—KAGAYAさんが写真を撮る原動力

「もしかしたらこういうものが撮れるかもしれないと思ったら、撮れる確率が一番高いところに出かけて行って待ちます」と語るKAGAYAさん。(KAGAYAさんとのzoomインタビュー画面より)
この写真集は写真がもちろん素晴らしいですが、写真に添えられた短い言葉にも心惹かれます。「一期一会」という言葉は、KAGAYAさんが写真を撮る原動力でしょうか?
KAGAYAさん:

そうですね。私は自分が出会うものは、二度と同じものが見られないと思っています。実は元々あまり目がよくなくて、子供の頃から近視です。だから肉眼で見た世界よりも、写真に撮った世界の方がよく見えていました。自分の目を信用していないわけではありませんが、しっかり写真に撮った方が綺麗に見える。例えば天の川は、肉眼でぼんやりと白くしか見えませんが、写真だと色もわかるし星の集まりだということもわかりますよね。

確かにそうですね。
KAGAYAさん:

写真にすると「自分は確かにこの宇宙を見ていたんだ」と気づく。イプシロンロケットの打ち上げの時も、現場ではすごいすごいと思っていましたが、こういう形の噴煙がこういう色でこういう動きをしていたと映像でわかる。写真を撮っていなければ恐らく気が付かなかったこと、とらえきれなかったこともあっただろうと思います。後で見返して「自分は確かにこういう現象の前に立っていたんだな」と実体験が豊かになる。さらにほかの方と共有できる。それが私が写真を撮る原動力です。

「この宇宙に生まれるのは奇跡な確率です。驚異的な幸運です」とも書かれています。
KAGAYAさん:

それが一番のメッセージです。なかなか普段の日常生活をしていると、自分が生まれた時点でラッキーだとは感じづらいと思います。でも宇宙の事を色々知ると、宇宙がビッグバンから始まって進化し地球に生命が誕生した。その地球にたまたま人間のような知能をもった生き物が現れて文明が栄えて私が生まれたと考えると、宇宙の中に自分が生まれてきた時点で、誰もが一回は奇跡を経験しているのではないかと思います。

生まれただけで奇跡だと。
KAGAYAさん:

はい。人はいずれこの世を去ることが決まっている。生まれてこられた奇跡をどういう風に自分が使っていくか。世の中これからどうなるかわかりません。明日自分が生きているかどうかすら、わからない。私はできるだけ多く宇宙の姿を見たいと思っています。奇跡的に生まれてこられた、この宇宙の姿を目撃したい。

奇跡をどう生かすかは自分次第ですね。KAGAYAさんは世界中を飛び回り星空と地球をカメラに収めて来られました。移動が制限される今、どんな風に空と向き合っておられますか?
KAGAYAさん:

今自分がいる場所でも、宇宙を見ることができます。地球自体が太陽の周りを回っている宇宙船のようなもので、空は窓なんです。どこにいようが私たちは宇宙を旅している。空を見上げれば、宇宙を眺める窓が開かれているのです。

「天空への願い」 KAGAYA 著(河出書房新社)KAGAYAさんが世界中を旅し、空と地球が織りなす美しい瞬間を切り取った写真集。一枚一枚に願いがこめられ撮影のドラマがある。
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