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ライター 林 公代 Kimiyo Hayashiライター 林 公代 Kimiyo Hayashi

「13年ぶりの宇宙飛行士募集」—日本人は月に立てる?
文部科学省で聞いてきました。

来年募集される宇宙飛行士は、2020年代後半にも月面に着陸し、地球を見ながら活動する可能性がある。(提供:NASA)

このニュースをどれほど多くの人が待ち望んでいたことだろう。

10月23日(金)、文部科学省の萩生田光一大臣が「来年秋ごろを目処に新たな宇宙飛行士を募集する」と発表したのだ!報道が流れるや否や、爆速で「キター!」「ついに!」などの投稿がSNSで相次ぎ、「虫歯があっても大丈夫?」「年齢制限は?」など多くの人が現実的な応募を考え始める様子が見られた。

前回、宇宙飛行士の募集がアナウンスされたのは2008年。2021年に募集が開始されるということは、実に13年ぶりということになる。私は数年前から、日本人宇宙飛行士やJAXAの有人宇宙部門の方たちに「次の宇宙飛行士募集はいつですか?」とたびたび聞いてきた。答えは決まって「ISS(国際宇宙ステーション)計画後、いつ頃何人ぐらい日本人宇宙飛行士の搭乗機会があるのか、目途が立たないことには募集はできない」というものだった。

今回、募集に踏み切ったという事は、日本人が月面や月周回有人拠点(ゲートウェイ)で活動する機会について目途がたったということだろうか。文部科学省に問い合わせたところ、個別取材に応じて下さるという。さっそく宇宙飛行士募集が発表されたその日の夕方、文部科学省を訪ねた。

ご対応下さったのは研究開発局宇宙開発利用課宇宙利用推進室長の国分政秀さんだ。

日本人宇宙飛行士は月に行けるのか?

宇宙飛行士募集について詳しくお話頂いた、文部科学省研究開発局宇宙開発利用課宇宙利用推進室の国分政秀室長。
急なお願いにも関わらずご対応ありがとうございます。さっそくですが、今回宇宙飛行士の募集を発表されたのは、月有人探査プロジェクト・アルテミス計画に日本人が参加する、つまり日本人が月に着陸できる目途が立ったからでしょうか?
国分政秀室長(以下、国分室長):

タイミングとしては、まず去年10月にアルテミス計画(国際宇宙探査)に参画しますということを、当時の安倍総理が本部長を務める宇宙開発戦略本部で決定しました。これを受けて今年7月、文部科学大臣とNASA長官の間で月探査協力に関する共同宣言に署名しました。この内容にはゲートウェイと月面着陸に関する日本人宇宙飛行士の活動機会の確保について、詳細を定義する取り決めを今後作成しましょうということで、互いの意向を確認できました。

意向とは、どう解釈したらいいのでしょう?
国分室長:

互いの意向確認であって国際約束ではありませんが、今後約束に相当するフレームワークを作っていく必要があり、外交的な調整がなされています。つまり、「日本人の宇宙飛行士が、一定程度ゲートウェイ及び月面で活動する見通しが得られた」ことになります。

約束ではないが、見通しが得られたと。
国分室長:

はい。これをふまえて現状をみると、今、日本には7人の現役宇宙飛行士がいます。平均年齢は51歳。現時点のアルテミス計画で最初に人間が月に行くのが2024年。直接月面にアメリカ人女性が着陸する予定です。2020年代後半には、月周辺のゲートウェイ基地および月面での活動が始まります。2030年代には活動がもっと増えることが想定されます。一方、2025年には7人の日本人宇宙飛行士のうち3人が60歳で定年を迎えます。

宇宙飛行士にも定年があるのですか?NASAでは60代の宇宙飛行士も活躍していますが。
国分室長:

現在の日本人宇宙飛行士はJAXA職員で、JAXAは60歳が定年になります。宇宙飛行士に関するJAXAの雇用制度が今後変わるかどうかはわかりませんが、現状の定年を前提にすると、2030年には大西飛行士と金井飛行士の2人だけが50代半ばで現役です。つまり、技術の継承や一定規模の日本人宇宙飛行士の維持が厳しい状況になります。

前回の募集で選ばれた大西卓哉飛行士、油井亀美也飛行士、金井宣茂飛行士(左から)が2011年7月、宇宙飛行士に認定された直後の写真。彼らが訓練を始めた2009年、NASAは有人月探査を目指す「コンステレーション計画」を掲げていたがその後キャンセルされた。
国分室長:

また、日本人宇宙飛行士を育てるには募集から訓練終了まで4~5年はかかります。2020年代後半に、ある程度の人数の宇宙飛行士を確保しようとすると、今から採用のプロセスを始めないと間に合わない。こういった背景から募集の発表をするに至りました。

なるほど。募集開始の一年前にアナウンスされたのはどうしてでしょうか?
国分室長:

前回の2008年の募集の時には募集開始の1か月前にアナウンスしました。その前の1999年の時は5日前。短い時間では会社や家族の了解を得るのは難しいでしょう。我々はたくさんの優秀な人に応募してほしい。万全な準備で臨んで頂きたいのです。そこで来年の秋ごろ募集をすると発表することで、1年の間に応募する方に準備をしてほしいし、我々もアルテミス計画の具体化を見据えつつ、募集に関する準備を進めることができます。

米大統領選の結果はアルテミス計画に影響する?

2020年9月にNASAが公表したアルテミス計画。(提供:NASA)
なるほど。ところでこれまで米国では、政権が変わるたびに前政権の宇宙計画がキャンセルされることが繰り返されてきました。もし、トランプ政権に代わって民主党のバイデン候補が大統領になった場合、アルテミス計画がキャンセルされたり内容が変わったりするのではないかと危惧されますが、その点はいかがでしょうか?
国分室長:

今年の8月に民主党が政策綱領を発表していますが、アメリカ人を月に戻し、月・火星へとステップを踏んでいくNASAの取り組みをサポートすると書かれています。民主党政権になったからと言って計画が急に変わる前提にはなっていません。

国際協力についてはいかがですか?また実施時期について遅れる可能性はありますか?
国分室長:

あくまで選挙用の政策綱領なので、アポロ時代に月に行ったアメリカ人を月に戻すという書き方です。また、現在は予算の審議が米国議会で行われているところで、大統領選挙の結果によってスケジュールに影響が出ることもあるかもしれません。しかし、今後の有人宇宙活動の国際的な展開が明らかでない中であっても、日本は有人宇宙技術を獲得し続けるのだという考え方でやっています。

どういうことですか?
国分室長:

文部科学省の宇宙開発利用部会で「我が国の有人宇宙探査に関する考え方」を整理し、9月に発表しました(欄外リンク参照)。アルテミス計画に参画する以前から、日本は4つの重点化技術(有人宇宙滞在技術、補給機「こうのとり」等の技術を活用した深宇宙補給技術、重力天体離着陸技術、重力天体探査技術)を国際協力の中で磨いていくという方針で進めてきました。文書では、「いかなる国際協力の中であっても(中略)、4つの技術を中心とした有人宇宙技術を引き続き獲得・蓄積し備えておくことが必要」と書ききっています。

なるほど。
国分室長:

現在、米国議会では今後数年間のアルテミス計画について数兆円規模の予算案が審議されています。わが国単独ではなしえない規模であり、これに参加する費用対効果が高い。アルテミス計画への参加によって、将来の更なる国際宇宙探査に向けた技術を効果的に獲得できるようになったことに加えて、日本人宇宙飛行士の活動機会も得られたのです。よく、「宇宙飛行士を飛ばすためにどれだけ高い対価を払っているのだ」と言われますが、そのために対価を払っているわけではありません。

月周回有人拠点(ゲートウェイ)を含む月探査における協力取り組み方針イメージ。(文部科学省研究開発局の資料より)
わかりました。しつこくすみません。宇宙飛行士に応募される方は人生を賭けて挑戦されると思います。今後日本人宇宙飛行士の搭乗について調整されていくということですが、日本人の月面着陸が100%約束されているわけではないということですか?
国分室長:

それはISS計画も同様だと思います。宇宙飛行の機会は様々な国際調整で決まっていきます。我々は当然、一生懸命、日本人宇宙飛行士の搭乗機会を得ることをやっていきます。それでも100%切符がもらえているかと言えば、必ずしもそうではありません。それでも宇宙飛行士に認定されるべく、あるいはミッションを達成すべく挑戦すること自体が国民に夢や希望を与えると思います。宇宙飛行士募集の発表後、SNSで多くの方たちからの反響が見られましたが、それが如実に表していると思います。

つまり、宇宙飛行士候補に選ばれ目標に向けて挑戦することや過程自体にご本人も価値を見出してほしいし、そのこと自体が多くの人を勇気づけるであろうと。
国分室長:

はい。たとえばカナダでは2016年の宇宙飛行士募集に約8000人の応募があり、2名の宇宙飛行士候補者を選びました。第一次選抜からの過程を(応募者の)顔写真や名前、出身地、職業まで発表したようです。挑戦する姿を公表することでご本人も頑張るでしょうし、見ている人も勇気づけられる。うまいやり方だと思います。日本でできるかどうかはわかりませんが。

新しい宇宙飛行士の採用基準は?

ところで、来年募集が始まる宇宙飛行士は月面に降り立つかもしれないわけですね。月面は重力のある天体ですし、月はISSと違って、何か緊急事態が発生しても片道約3日かかる過酷な環境だと思います。採用基準は変わりますか?
国分室長:

新しい募集要項は、前回のものを参考にして検討し、来年の募集までに公表します。若田飛行士が今日、話されていたのは「ISSでは船内の作業や船外活動など様々な活動があるが、基本は宇宙飛行士はオペレーターであるということ。様々な条件の中で与えられたミッションを実施していく能力は、月面だろうとゲートウェイだろうとISSだろうと、共通する能力がかなりあるのではないか。その上でミッション固有の訓練がある」ということ。ただし、チームワークでミッションを成し遂げていくことは強調されていましたね。

前回の応募条件(抜粋)。(JAXAウェブサイトより)
米国は2024年に女性飛行士を月面に着陸させる予定ですが、ジェンダーのバランスについては?
国分室長:

多様性は重要だと、会見の場でJAXAも文部科学省の局長も発言しています。

2008年の募集ではISSのコマンダーになれる人材を、という方針で宇宙飛行士の採用基準が作られたと聞いています。次回は?
国分室長:

今回はまだそこまで決まっていません。NASAと調整していく必要があります。アルテミス計画もさらに具体化していくでしょうし。

NASAは現在進行形で宇宙飛行士を選抜中ですね(2021年10~11月に選定予定)。これはアルテミス計画用の宇宙飛行士ですか?
国分室長:

アルテミス世代ですね。つまりアポロの月着陸をライブで見ていない世代。いい言葉ですね(笑)。NASAの選抜でどういうプロファイルを求めたかは参考にしていきます。

欧州も2021年初頭に宇宙飛行士を募集する予定ですし、ロシアも今年中に4名選定予定で、世界の宇宙機関がアルテミス世代の宇宙飛行士の選抜を進めているようですね。日本は今後、5年に1回程度定期的に募集するのですか?
国分室長:

はい、大臣が発表した通り、5年に1回程度の頻度で募集することを想定しています。宇宙飛行士になりたい若い人たちに予見性をもってもらうのが目的です。1回きりだとたまたまタイミングが合う人以外は、宇宙飛行士を自分のキャリアとして想像しにくくなる。(宇宙飛行士の)パスは1回だけではない。自分は10年後に向けて頑張っていくんだなどと想像してほしい。

来年の募集では何人ぐらい採用する予定ですか?
国分室長:

若干名です。いつ頃何人ぐらい搭乗できるかが今の時点でははっきりしないので、来年募集が始まるまでの間にもう少し具体化できればと思っています。

資料によると、これまでのJAXA主体による募集・選抜・訓練と異なり、民間企業のノウハウや新しいアイデアを活用するとありますね。
国分室長:

JAXAにあるのは12年前の募集や選抜のノウハウです。民間企業には航空や自動車業界などで人材育成のノウハウが様々な形であるはずです。JAXAが主体となってアイデアを募集して選抜や訓練のプロセスで取り入れたいと思っています。

宇宙飛行士を目指す人にメッセージを伝えるなら?
国分室長:

目指すこと自体は誰にでもある権利です。宇宙飛行士を目指して頑張ること自体に価値があると思います。ぜひ挑戦すること、頑張ることを経験してほしいと思います。

月面にあなたの足跡を。(提供:NASA)

次回以降、宇宙飛行士に選ばれたらどんな仕事場で働くことになるのか、アルテミス計画やゲートウェイについて具体的に紹介する予定です。

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