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ライター 林 公代 Kimiyo Hayashiライター 林 公代 Kimiyo Hayashi

福井県民衛星2021年3月、宇宙へ!衛星5機でシェアリングエコノミー!?

2020年11月26日に公開された福井県民衛星「すいせん」(一番手前)。中には恐竜のプレートがあるという。大きさ約60cm×60cm×80cm。重量約100kg。
「すいせん」を含む同じ型の衛星4機が同時に打ち上げられる。複数の同型衛星が一度に打ち上げられるのは日本初。(提供:(株)アクセルスペース)

自治体初の衛星・福井県民衛星「すいせん」が2021年3月20日にいよいよ飛び立つ。カザフスタン共和国のバイコヌール宇宙基地から、ソユーズロケットで打ち上げられ、高度600kmの軌道に投入される。衛星は約100kgの超小型衛星で、地上の2.5mのものまで見分ける能力がある。

「すいせん」(GRUS-1D)は同じスペック(型)の3機の衛星(GRUS-1B,1C,1E)と共にロケットに搭載される。同じ型の衛星を一度に複数機打ち上げるのは、日本の衛星では初めて。つまり「日本初の量産衛星」が誕生することになる。4機は2018年末に打ち上げられた衛星(GRUS-1A)と共に合計5機で地球観測プラットフォームAxel Globe(アクセルグローブ)を構築する。なぜ同じスペックの衛星を多数打ち上げるかと言えば、観測頻度を上げるのが大きな理由の一つ。

GRUS1機だと「2週間に1回」しか同じ場所を観測できないが、5機で観測することで「2日に1回」と頻度高く観測できるようになる。環境の変化を見逃さず、利用範囲がぐんと広がることが見込まれる。

福井県民衛星を含む5機のGRUS衛星を設計・開発・製造したのはアクセルスペース社。11月末に同社で衛星のプレス公開と記者説明会が行われた。そこで語られた「超小型衛星の今」、「福井県衛星への期待」を紹介しよう。

衛星コンステレーションによる「ゲームチェンジ」が起こっている!

概ね1kg~100kgの衛星を超小型衛星と呼ぶ。そもそも超小型衛星の歴史は2003年、東京大学と東京工業大学の学生たちが世界最小(10cm立方、1kg)、手のひらサイズの衛星(「キューブサット」と呼ばれる)を打ち上げことから始まった。その打ち上げ・衛星運用に関わったのが、当時東京大学の学生だったアクセルスペースの中村友哉社長だ。

それから20年弱。「今や世界で超小型衛星は実験や教育だけでなく、実用やビジネスで使われている」と語るのが、「キューブサット」を日本で始めた「超小型衛星産みの親・育ての親」であり、中村社長の学生時代の指導教員である東京大学の中須賀真一教授だ。(中須賀教授は大学時代の中村社長について「2003年、初めて打ち上げた衛星に中村君は『地球の画像を撮るだけじゃ面白くない』と登録者に無料で地球の画像を送るサービスを提案した。普通は画像をちゃんと撮れてから募集を募るのに『勇気あるなぁ』と思ったね」と語る。私もそのサービスに登録し、小さな衛星が送ってくる地球の画像に一喜一憂したのを覚えている。中村社長は学生時代からアイデアマンであり、実行力があったのだ)。

11月26日の記者説明会で。左から2人目が東京大学・中須賀真一教授。右から3人目がアクセルスペース中村友哉代表取締役CEO。(提供:(株)アクセルスペース)

中須賀教授は「超小型衛星に民間の資金が入って成長し、今や政府がカスタマー(顧客)となって超小型衛星のデータを購入するという『エコシステム』がアメリカを中心に世界で起こっている。新しいのは政府が(超小型衛星の衛星データを)購入するという動き。日本も早くその形にもっていかないといけない」と指摘する。

さらに超小型衛星で注目すべき点として「コンステレーション」をあげた。コンステレーションとは多数の衛星で衛星網を構築、協調して観測や通信などのミッションを行うことだ。アクセルグローブもコンステレーション計画の一つと言える。

「例えば米国のPlanet社が3U衛星(10cm×10cm×30cm)を約200機打ち上げて、地球観測を行っている。Spire社は気象衛星コンステレーションを構築し、データを米国海洋大気庁NOAAに販売しようとしている。通信衛星ではSpaceX社が約1万2千機のスターリンク衛星を打ち上げる計画です」。 

SpaceXは一度に約60機のスターリンク衛星を打ち上げ。これまで1000個近い衛星が打ち上げられている。(提供:SpaceX CC BY-NC 2.0

2020年6月に改訂された宇宙基本計画でも「小型・超小型衛星のコンステレーションの構築が進み、宇宙産業のゲームチェンジが起こりつつある」とし、「我が国の宇宙機器産業はこの動きに遅れを取りつつあり、(中略)宇宙活動の自立性を維持していくためには、産業・科学技術基盤の再強化は待ったなしの課題」と明記されている。現在、経済産業省が中心となって衛星コンステレーションの基盤技術や大量生産手法を開発する施策を立ち上げようとし、内閣府は「衛星開発・実証プラットフォーム」によって、省庁横断的に新しい技術の開発と実証を目指す活動をスタートしている。これらの動きも要チェックだ。

中須賀教授は超小型衛星で注目に値するのはコンステレーションだけでなく、「NASAは20~30kgの衛星で深宇宙探査に挑戦、火星や木星に行く世界が広がろうとしている」と語る。私達の予想をはるかに超えるスピードで超小型衛星は進化し、新しい世界がどんどん開拓されているのだ。

目指すのは「少量多品種」

2018年末に打ち上げられたGRUS-1Aが撮影した羽田空港。分解能2.5mで滑走路の数字が読み取れる。(提供:(株)アクセルスペース)

すでに世界で衛星コンステレーションや超小型衛星の進化が進む中、アクセルグローブや福井県民衛星の戦略はどこにあるのだろうか。

中村社長によると、(1m以下のものが見分けられるような)高分解能衛星はコストが高く、アクセルスペースのような中分解能(2.5m)を手掛けているところは少ないとのこと。また、ライバルであり既に200機以上打ち上げているPlanet社の衛星はキューブサット級で小さく(「くつ箱衛星」とも呼ばれる)、できることに制約があると指摘する。

一方、GRUS衛星は「100kg級なので大きな望遠鏡を搭載できる。そしてすべての衛星を同じ軌道に投入するため、撮影時刻がそろう。つまり質を一定にそろえた高品質の画像を取得できることが大きなアドバンテージ」と胸を張る。たとえば建物があった場合、昼と夜など異なる時間に人工衛星が撮影すると、影の位置や長さが変わってしまう。アクセルスペースは画像解析をAIが行い、必要な情報をユーザに提供することを売りにしているが、影の長さが違うと、それが有益な情報か否かAIが混乱してしまう。見たいターゲット以外の変化は同じにしておくことが肝だという。そのため、同社の衛星群は同じ軌道を飛ぶことで、同じ場所を同じ時刻で撮影する。

同じくGRUS-1Aが撮影したスエズ運河。川幅は300m。タンカーの数がわかる。(提供:(株)アクセルスペース)

もう一つの特徴は「少量多品種」。同社は他社のように、何百機もの衛星コンステレーションを目指してはいない。「10機ぐらいの衛星コンステを多種類もつことが重要」と中村社長は考えている。顧客のニーズは変化していくものだし、10機あれば世界中のどこでも1日1回は撮影できるというのがその理由だ。アクセルグローブも当面は10機体制を目標とする。「少量多品種の衛星コンステ」は世界のどこもまだ実現していない。それが構築できれば画期的かもしれない。

ところで最近、レーダを使ったSAR衛星が小型化され、コンステレーションを目指し世界中で打ち上げられている。雨天でも夜でも観測できるSAR衛星に対して、雲があると観測できないアクセルグローブのような光学衛星は勝ち目があるのだろうか?

この点について中村社長は「光学衛星とSAR衛星はどちらが優れているというわけではなく、お互いに強みがある。光学衛星は『色』が分かるので例えば農業分野で生育状況を見ようという目的等には重要です。一方、SAR衛星は『形』がわかる。また光学衛星は広いエリアの情報をとれるが、SAR衛星は大きな電力を使うので顧客のニーズに合わせて狙った場所をピンポイントでデータをとるという使い方になる。国の地球観測衛星(ALOSシリーズ)も光学衛星とSAR衛星を交互に打ち上げています。用途によって使い分け、組み合わせることが重要だと思います」。

なるほど、様々な衛星やドローン、地上観測などあらゆる情報を組み合わせて様々な課題解決に繋げていくことが要のようだ。実際、アクセルスぺースは高精度に漁場を予測するサービスの実用化に向けて、海面付近の海洋データ、スパコンで計算した海水温・潮流などのデータと衛星画像を組み合わせる研究に着手している。これまで漁業者の勘に頼っていた漁場予測が実現すれば、私たちの食卓にも関係する。期待したい。

福井県民衛星「すいせん」は衛星のシェアリングエコノミー

福井県民衛星は、県民からの名称公募の結果、冬の厳しい寒さに耐えて美しく咲く水仙のように宇宙の厳しい環境で活躍してほしいと「すいせん」と名付けられた。

さて、福井県民衛星「すいせん」は自治体初、県も参画する福井県民衛星技術研究組合が所有する衛星であると同時に、アクセルグローブの一つの衛星としてコンステレーションを組み、頻度高く地球観測を行う。中村社長は「福井県民衛星は打ち上げるそのものを目標にするのでなく、その先の利用を考えて、単独で観測するよりもアクセルグローブの他の衛星データも使う。つまり衛星の『シェアリングエコノミー』が実現したのが画期的」だと語る。

たとえば、福井県民衛星1機だけ打ち上げても、2週間に一度しか福井県の様子を観測できない。それでは災害時などに土砂崩れが起こっても、見たい変化が見られないこともある。だが5機あれば、同じ場所を2日に1回は見られる。これは大きい。「無償で(他のGRUS衛星の)データを提供するわけではないが、福井県民衛星が取得したデータも提供してもらうなど双方にメリットがある形で、実用的な使い方ができる」(中村社長)

中須賀教授や中村社長のもとには、これまで他の自治体からも衛星を作りたいという要望が寄せられたが成立しなかったという。福井県民衛星が実現した鍵の一つは、知事が県民衛星を公約にいれたこと。つまりトップダウン。そしてもう一つは福井の技術力の高さ。2016年から県内企業の技術者を東京大学に派遣。彼らの技術力の高さを中須賀教授が認め、東大と超小型衛星の共同研究を行うことになった。ルワンダ共和国の衛星や水推進エンジン実証衛星、ガンダム衛星などの開発や製造に福井のエンジニアが携わった。「電子回路基板の設計や機械加工の技術に優れている。実際に物づくりを行う技術者たちの真剣さや知見は、学生にとっても刺激になった」(中須賀教授)

中村社長も「部品レベルで使える企業はあるが、システムレベルまで担当できる企業はなかなかない」と福井のエンジニアの技術力を高く評価する。

「自治体が宇宙を使える」モデルケースに

福井県では現在64の県内企業が「ふくい宇宙産業創出研究会」に入り、宇宙産業についての調査や人工衛星の共同研究を進めている。また、2018年12月に打ち上げられたGRUS初号機のデータを使って、福井県民衛星技術研究組合で衛星画像利用システムを開発中だ。

県民衛星プロジェクト紹介資料より。(提供:福井県)

たとえば、初号機のデータから、ある港の積み荷の有無の変化、河川の土砂堆積の状況変化などを捉えられることを確認。防災・土木管理、森林管理などに活用するほか、県外のU・Iターン相談窓口で移住や定住を検討する人たちに、衛星データ+病院や学校等の位置情報から生活環境を理解してもらうなど、様々な分野での活用を検討している。福井県産業労働部産業技術課の村田大志さんは「県民衛星『すいせん』には宇宙で良い仕事をしてもらい、福井の皆様の快適・安心な暮らしに精一杯貢献して欲しい。県(組合)が人工衛星を所有するという初の試みが世の中に広まり、新しい未来を切り開く一助になれば嬉しい」と語る。

あまり知られていないけれど福井県は「子供の学力・体力日本一」、「社長排出力日本一」、「幸福度日本一」であることを、村田さんとやりとりする中で知った(福井県出身なのに「幸福度日本一」以外、知らなかった!)。さらに人工衛星を所有する「宇宙県」代表として大胆で面白い試みと行動力を持つ県ということに誇りをもち、衛星の活用例をぜひ世の中に見せてほしい。

中須賀教授は「日本人はできないことをゼロからやるより、どこかがやるとやり始める。だからこそ、まずスタートして成功例を示すこと。『衛星を使って、こんなに面白いことができた!』と見せることが大事」とエールを送る。中村社長も「自治体が宇宙を使えるというモデルケースになる」と期待を語る。

衛星のシェアリングエコノミー。日本の都道府県が一つずつ衛星をもったら50機ぐらいの衛星コンステレーションが実現するのでは!?まずは衛星打ち上げ成功、そして福井県の衛星利用にご注目を。

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