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めぐる家電、めぐるくらし。
三菱電機と考える
サーキュラーエコノミー

「捨てない」は、
つくる前から始まっている。
素材とデザインで考える、
これからの家電

第1回では、使い終えた家電がどこへ行き、どのように資源として次へつながるのかを入り口に、
サーキュラーエコノミーの基本を整理しました。では、実際の製品づくりの現場では、
「捨てない」という考え方をどのように形にしているのでしょうか。
今回は、三菱電機で使用済み家電から回収されるプラスチックを研究し、製品への適用拡大にも携わってきた藤村一正と、冷蔵庫やテレビなどのプロダクトデザインを担当する大橋美紗子に話を聞きました。素材を循環させる技術と、
長く使いたくなるデザイン。それぞれの立場から、「捨てない」を設計する現場を見ていきます。

PROFILE

藤村一正

三菱電機株式会社
リビング・デジタルメディア事業本部
サーキュラーエコノミー推進プロジェクトグループ
企画グループ
Associate Expert

2008年入社。先端技術総合研究所において、家電リサイクルプラントで回収されるプラスチックの劣化状態を研究。2019年から、家電製品群へのリサイクルプラスチック適用拡大推進活動の取りまとめに従事し、2026年から現職。

大橋美紗子

三菱電機株式会社
統合デザイン研究所
ライフクリエーションデザイン部

2018年入社。冷蔵庫やテレビのプロダクトデザイン、CMFデザインを担当。リサイクル材を活用した意匠の検討やブランディング支援など、循環型社会に向けた社会実装の研究プロジェクトに参画。グッドデザイン賞などを受賞。

つくる側とつかう側が、両手をつなぐ

まず、家族や友人に「サーキュラーエコノミーって何?」と聞かれたら、どう説明しますか。

藤村一正(以下、藤村)私は「お客さまと三菱電機が共に創る、資源循環とCO2排出削減の取り組み」だと説明します。当社製品をご購入いただいているお客さまや、興味を持ってくださっているお客さまと当社が、片方の手をつないでいる状態を想像してください。これが今までの関係です。

その関係が、さらに先へ続いていくのでしょうか。

藤村そうです。サーキュラーエコノミーではもう片方の手もつなぎ、一つの円を描くようなイメージになります。当社が販売した製品がお客さまの手に届き、ご使用いただき、いつか役目を終えて手を離れる。当社は、その製品の素材や部品を活用して新しい製品をつくり、再びお客さまのもとへ届けます。これがお客さまと三菱電機が共に創る資源循環であり、CO2排出削減の取り組みです。

なるほど、大橋さんはどのように説明しますか。

大橋美紗子(以下、大橋)一般には、まだなじみの薄い言葉だと思います。知らない方に説明するなら、まず「ごみを出さない循環型のものづくり」であることと、「エコノミー=経済」という言葉が入っていることを伝えます。

循環させるだけではなく、経済として続くことも大切だということですね。

大橋はい。ただ循環させるだけではなく、その仕組みが続かなければ意味がありません。続けるためには、お客さまにきちんと届き、「買いたい」と思っていただける商品であることが必要です。環境に配慮しているという理由だけではなく、選ばれるものを考えることまで含めて、サーキュラーエコノミーなのだと思います。

「捨てない」を設計する、二つの視点

「『捨てない』を設計する」という言葉から、どのような仕事や場面を思い浮かべますか。

藤村お客さまの手を離れ、当社に託していただいた製品を目の前にして、「ここからどうやって新しい製品をつくるか」を議論する場面です。素材や部品として再利用し、新しい製品をつくるには、従来のものづくりの考え方を変える必要があります。

大橋さん、デザイナーとしてはいかがでしょうか。

大橋長く使っていただくための素材選びやデザインも、「捨てない」を設計することの一つだと思います。形や色では、長く使っても飽きないことを意識しています。店頭で一目で魅力を感じるデザインも大切ですが、冷蔵庫のように10年以上使う製品には、流行に左右されない普遍性が必要です。

「戻ってきた製品」を、ものづくりの起点に

藤村さんが考える、従来とは異なるものづくりについて、もう少し詳しく教えてください。

藤村これまでは、工場をものづくりの起点と考えてきました。これからは、お客さまの手を離れ、当社に託していただいた製品こそが、次のものづくりの起点になると考えています。私は仮に、これを「ライフエンド・スタートのものづくり」と表現しています。

戻ってきた製品から考え始めると、製品のつくり方も変わりますか。

藤村使用済み製品から素材や部品を効率よく取り出すには、製品自体が解体しやすく、分別しやすい構造でなければなりません。今、市場から戻ってくるのは10年、20年前に設計された製品です。現在の回収工程で生じる課題を解決すると同時に、これから世に出す製品は、10年後、20年後に戻ってきた時に、素材や部品を取り出しやすい構造を見据えて設計する必要があります。組み立て方や製造工程も含めて考え直していくことになります。

素材の選び方では、どのようなことが課題になりますか。

藤村使用する素材の種類をできるだけ少なくする「モノマテリアル化」です。家電には鉄、銅、アルミなど複数の金属が使われ、プラスチックも一つの製品に10種類以上使われることがあります。素材の種類を絞れば、回収後の選別が効率的になるだけでなく、回収した素材の品質も高められます。究極的には単一素材に近づけることを目指し、取り組んでいく必要があります。

20年使ったプラスチックは、どれくらい劣化するのか

藤村さんは、使用済み家電から回収したプラスチックの劣化状態を研究してきたそうですね。どのようなことが分かりましたか。

藤村使用済み家電からのプラスチック自己循環リサイクルを進めるには、お客さまが長年使った製品のプラスチックが、経年でどの程度劣化するのかを定量的に把握する必要がありました。そこで、実際の使用済み製品をサンプリングして評価しました。

結果はいかがでしたか。

藤村20年間使用された製品のプラスチックでも、劣化しているのは表層から約0.02ミリ、両面を合わせても約0.04ミリ程度でした。家電に使われるプラスチックの厚さを約2.5ミリとすると、劣化の影響は全体の約1.6%です。適切な再生処理を行えば、家電で使用されたプラスチックを繰り返し安心して使えることを示す根拠の一つになっています。

全体が劣化してしまうわけではないのですね。では、実際に製品へ使う時には、何が難しいのでしょうか。

藤村品質に関係する課題の中でも、特に難しいのは色味です。10年以上使われたプラスチックには、初期状態より黄色みを帯びる「黄変(おうへん)」が生じます。さらに、家電にはさまざまな色のプラスチックが使われています。リサイクルの際に異なる色が混ざると、反射する光が少なくなり、全体として黒ずんだ色になります。そのため、白物家電で求められる美しい白を、再生プラスチックで表現するのは非常に難しいのです。

研究で可能性が分かっても、量産する段階には別の難しさもありますか。

藤村家電リサイクルプラントでは、使用済み家電を破砕処理し、さまざまな素材が混ざった状態から選別します。そのため、選別後のプラスチックにも、銅線のくずや僅かな異物、種類の異なるプラスチックが混入することがあります。それによって品質基準を満たせず、製品に適用できないことがありました。

その壁を、どのように乗り越えてきたのでしょうか。

藤村異物を除去する技術や、選別精度を高める技術を一つずつ開発してきました。ハードルの低い用途から適用を始め、少しずつ使用量を増やしています。リサイクル材だからといって、品質基準を下げることは絶対にありません。新品素材(バージン材)と同じ品質基準、強度基準を満たしたものだけを製品に適用し、使用環境を踏まえた長期信頼性試験も必ず行います。また、自分自身も一人の生活者なので、「自分が長く使いたいと思える製品をつくっているか」は意識しています。

長く使われるデザインは、あとから良さに気づく

大橋さんは流行に左右されないデザインを考える時、どんなことを大切にしていますか。

大橋以前は、共通のテレビ番組や雑誌から大きなトレンドが生まれ、皆が同じものを追うことも多かったと思います。今は価値観が細分化され、求めるものも人によって違います。その中で意識しているのは、一時的な流行ではなく、人が普遍的に持っている感覚に働きかけることです。例えば、自然に触れると心が落ち着くといった、人の根本にある価値観をデザインのベースにすることがあります。

長く使いたいと思ってもらうために、デザインではどのようなことを意識していますか。

大橋製品は基本的に気に入って選ぶものですが、購入する時点で、どのくらい長く使うかまで考えることは少ないと思います。使い続けた後に、「気づけば20年使っていた」「これは自分に馴染んでいた」と感じるものなのではないでしょうか。そのため、購入時の強いインパクトだけでなく、使い勝手の良さや細かな気遣いを製品の中に散りばめることを意識しています。ストレスなく使える体験が積み重なり、結果として「これでないと困る」と思っていただけることが、長く使われることにつながると思います。

また、デザイナーにとってトレンドは単なる流行ではなく、「いまの価値観に合ったもの」という意味もあります。CO2排出量の増加や地球温暖化への意識も、以前とは異なる現在の価値観の一つです。時代背景を捉えながら、いま求められているものは何かを考えることも、トレンドをとらえることの一つだと思っています。

再生材の色ぶれや異物を、質感として成立させる

リサイクル材を製品の外観に使う場合、デザイン面ではどんな難しさがありますか。

大橋今まさに取り組んでいる課題ですが、リサイクル材には「色ぶれ」と「異物」があります。意匠面に使うと、微小な異物が表面に見えることがあります。

その見え方を、デザインで工夫することはできますか。

大橋弊社の先端技術総合研究所と連携し、例えば表面を光沢仕上げではなく、微細な凹凸を付ける「シボ」にすることで、異物を目立ちにくくできないか検証しています。単に隠すのではなく、素材の特性を踏まえて、質感として成立させる方法を探っています。

つくる時だけでなく、販売する時の説明も必要になりそうですね。

大橋異物が見える可能性があることは、売り場でお客さまにきちんと伝える必要があります。知らずに購入して、「汚れや不良ではないか」と思われることがないよう、再生材の特性として理解していただける伝え方も、製品づくりと同じくらい重要です。

仕上げの工程そのものを変える取り組みもありますか。

大橋例えば冷蔵庫のハンドルでは、金属のような高級感を出すために塗装を施すことがあります。ただ、塗装は次にリサイクルする時の異物になり得ます。そこで塗装を使わず、金型でプラスチック表面に細かなヘアライン調のシボを施し、素材のままで魅力的に見せる方法を考えています。傷が目立ちにくく、塗装がはがれることもありません。色や素材、表面仕上げの工夫が、リサイクル性と長期使用の両方に貢献できる例だと思います。

長く使うためには、手入れのしやすさも大切ですか。

大橋指紋が付きにくい、汚れを拭き取りやすい、ほこりがたまりにくいといった点を大切にしています。小さな溝に汚れが入り、取れなくなるだけでも、愛着が薄れるきっかけになり得ます。長くきれいに保てることも、長期使用を支えるデザインです。

技術とデザインの切磋琢磨が、循環を前へ進める

技術者とデザイナーでは、考え方がぶつかることもありますか。

藤村技術者としては、デザイナーが実現したいことを、できる限り技術でかなえたいと思っています。ただ、例えば再生材で理想的な白を出そうとすれば、選別や加工の工程が増えたり、白い素材だけを優先して回収することでほかの素材を使えなくしたりする可能性があります。

きれいな白をつくれても、別の負荷が増えてしまうことがあるのですね。

藤村資源を有効活用し、CO2排出を減らすために取り組んでいるのに、工程や廃棄が増えて本末転倒になってはいけません。サーキュラーエコノミーの目的から外れない範囲で、お客さまに欲しいと思っていただけるデザインと、技術の双方が納得できる点を探すことが重要です。

大橋さんは、技術者とのやり取りをどのように感じていますか。

大橋専門的な内容をデザイナーにも分かる言葉で説明してもらえるので、とても助かっています。その情報をもとに、「この表面の質感なら目立ちにくいのではないか」「別の見せ方ができるのではないか」と考えられます。

サーキュラーエコノミーの社内プロジェクトに参加して、大橋さん自身の意識にも変化はありましたか。

大橋プロジェクトでは、リサイクルプラントや埋立地、生ごみを堆肥化する施設なども見学しました。自分が捨てたものが最後にどうなるのかを実感し、製品開発だけでなく、私生活でも分別をきちんとしようという意識が強くなりました。

二人で取り組んだ中で、印象に残っているものはありますか。

大橋当初、担当していた製品に再生材を使いたいと考え、藤村からリサイクル材の情報をもらいながら検討していました。結果的にその製品への採用には至りませんでしたが、現在はその素材を換気扇で製品化する方向へ展開しています。カラープレートや材料サンプルを送ってもらい、遠隔でやり取りしたことを覚えています。また、各工場の担当者が集まるリサイクルプラスチックのワーキングでも、藤村を中心に情報交換を重ねました。

「環境に良いから仕方ない」では、つづかない

環境に配慮しているから、多少の不便や価格の高さは仕方がない、ではなく「これがいい」と選んでもらうためには何が大切でしょうか。

藤村環境に配慮したことで価格が高くなるというだけでは、まだ受け入れられにくいと思っています。明確な付加価値がない限り、環境対応のコストをそのまま価格に転嫁するのではなく、お客さま自身やご家族にとって良いことだと感じていただける製品にすることが大切です。

大橋環境に良いから仕方がないと思う時には、価格が高い、欲しい見た目ではないなど、何かを我慢しているのだと思います。我慢があると、取り組みは続きません。

無理に環境配慮を意識して選ぶのではなく、自然に選べることが大切なのでしょうか。

大橋そう思います。「これが欲しい」と強く思うところまでいかなくても、使い勝手やデザインに不満がなく、自然に選んだ製品が実は環境にも配慮されていた。その背景を知った時に共感できる、というくらいの在り方が、無理なく続いていくのではないでしょうか。

家電が、思い出と資源を次の世代へつなぐ

5年後、10年後、家電はどのような存在になっていくと思いますか。

藤村当社には「しあわせをシェアしよう。」という、三菱電機の製品が幸せづくりの起点になるという考え方があります。その役割は、今後も変わらないと思います。その上でサーキュラーエコノミーの視点が加わることで、家電を使った時の思い出や、製品に使われていた資源を、次の時代や世代へつなぐバトンのような役割も加わっていくのではないでしょうか。

大橋価値観やトレンドが細分化し、一人ひとりが「自分にはこれが合う」と思えるものが増えていくと思います。毎回新しいものを追い求めるのではなく、中の機能をアップデートしたり、それぞれの暮らしに合わせて最適化したりできれば、家電にも今以上に愛着を持っていただけるのではないでしょうか。

最後に、家電を長く大切に使うためのヒントを教えてください。

大橋家電は、暮らしの中で主張するというより、生活を支えるサポート役だと思っています。自分が好きなものやライフスタイルを理解し、暮らしにしっくりなじむものを選ぶことが、結果として長く使うことにつながるのではないでしょうか。

藤村機会があれば、当社グループの家電リサイクルプラントや工場を見学していただきたいです。お客さまの手を離れ、当社に託された製品がどのように解体・選別され、素材へ戻り、新しい製品に生まれ変わるのかを知ると、今お使いの家電を、これまで以上に大切に末永く使いたいと思っていただけるのではないかと考えています。

「捨てない」ものづくり、使い続けるための仕組みづくり

使い終わった家電を、次のものづくりの起点にする。再生材の特性を技術とデザインの両面から受け止め、長く使いたいと思える製品へつなげる。「捨てない」は、製品が役目を終えた時に始まるのではありません。素材を選び、形を考え、つくり方を決める、その前から始まっています。
次回は、こうした現場の取り組みを製品や部門を越えてつなぐ、サーキュラーエコノミー推進プロジェクトグループの中山に話を聞きます。「売って終わり」ではない家電との長い付き合い方を、サーキュラーエコノミー推進の視点から考えます。