火山と人が
共生する暮らし

(北海道・洞爺湖有珠山ユネスコ世界ジオパーク)

世界的に見ても火山活動が活発な有珠山の周辺では、
火山の恵みをもって地域の価値を高めるだけでなく、
減災文化を伝承することで持続可能な地域社会の実現を目指しています。
自然と共存する様子は、世界のお手本になっています。

火山に育まれてきた
自然と人の営み

2009年に日本で初めて「世界ジオパーク」に認定された洞爺湖有珠山。その周辺は、日本でも特に火山活動が活発な地域です。約11万年前の大噴火によって形成された巨大カルデラは、長い年月をかけて洞爺湖に。その後も噴火は繰り返され、湖の中央には中島が、南側には有珠山が誕生しました。有珠山は今も活動を続け、20世紀だけでも4度噴火。2000年には山麓噴火があり、街のすぐそばに火口が開きました。

災害のリスクを背負いながらも人々が火山と共生するのは、さまざまな恩恵があるためです。温泉や景勝地を中心とした観光業、火山灰が育てた大地を活用しての農業。漁業も盛んです。海の生き物が集う豊かな岩礁は、約8,000年前の有珠山の大規模な山崩れにより生まれました。本ジオパーク内には世界文化遺産にもなった縄文時代の遺跡群が残されており、人々が数千年にわたって定住した痕跡があります。有珠山は湧き水や海の幸に恵まれ、暮らしやすい土地であったためと言われています。

噴火がもたらす、
破壊と再生

火山の噴火は破壊をもたらす一方で、大地と生態系をリセットし、新たな命を育む契機にもなります。一度裸地となった森には、風や鳥が運んだ種が芽吹き、草木が広がり、やがて成熟した森へ。噴火のたびに新たな森が生まれることから、有珠山には115歳、80歳、50歳、25歳と、年齢の異なる森が存在します。これら植生の変化の様子を段階的に比較できることは教育的にも価値が高いため、減災教育だけでなく、生物の学習にも活用されてきました。

火山性の地質は、農業においても良い面があります。ゴボウや長芋、ジャガイモといった特産品が生まれた背景には、火山灰が厚く積もった台地では、土が均質で根菜類が根を伸ばしやすかったことがあげられます。また、有珠山の灰は、珍しいことに酸性に傾いた土を中和させる性質を持ち、農作物の栽培に適した土壌を育みます。さらには、1977年の噴火では大量の火山灰が洞爺湖に降り注ぎ、酸性に傾いていた湖の水質の改善を助けたという説も。火山灰はときとして想像を超えた働きをし、私たちを驚かせます。

火山を正しく恐れる
——減災文化の継承

火山と隣り合わせで暮らす人々は、減災文化の伝承も行ってきました。その担い手は地域で「洞爺湖有珠火山マイスター」に認定された人たち。現在70名以上が認定されています。彼らの本業は、自然ガイド、旅館の女将、主婦、教員、役場職員などさまざま。学校での減災教育や火山でのガイド活動では、年間2万人近くの方々を対象としてきました。噴火による影響を生々しく残した建物「災害遺構」を活用した伝承もこの地ならではです。有珠山では、2000年の噴火時には事前避難が徹底されたことで犠牲者は一人も出ませんでした。火山マイスター制度は、次回噴火でも、事前避難を成功させることを目的の一つに掲げ、取り組まれてきました。このことは国内外から注目され、火山マイスター制度は御嶽山やコスタリカでも導入。2024年には、内閣府と国土交通省が創設した災害の教訓を伝承する活動などを認定する制度「NIPPON防災資産」で、国内第一号の優良認定を受けました。

火山を入り口として減災文化を世界へと発信し、地質災害のリスクを減らす。こうして持続可能な地域づくりを推進することこそが、洞爺湖有珠山ユネスコ世界ジオパークの役割です。

「減災文化」で地質災害のリスクを軽減し、「火山の恵み」で地域のブランド力を高める。
火山と隣り合わせという特異な環境にあることを強みに、
自然と共存する洞爺湖有珠山の取り組みは、世界を少しずつ動かし始めています。