大地とくらしを潤す
「水の旅」
—白山から
手取川へ、日本海へ
(石川・白山手取川ユネスコ世界ジオパーク)
山頂から海岸まで高低差2702mの間に広がり、
石川県白山市全域をエリアとする白山手取川ユネスコ世界ジオパーク。
白山と手取川を軸とし、山・川・平野・海がコンパクトな範囲に連なり、
豊かな自然・文化・歴史が息づいています。
「水」をテーマに、地質遺産と人々のくらしのつながりを見ることができるユニークなジオパークです。
水は山から川へ、
海へ、
雪となり再び山へ。

白山手取川ジオパークを語る際のキーワードのひとつが「水の旅・石の旅」です。白山に降り積もった雪は、雪解け水となり、手取川から日本海へと流れつきます。やがて海水は水蒸気となり、北西の季節風に乗って白山にぶつかり大量の雪を降らせます。山の雪が巡り巡って山に戻ってくる。この循環がコンパクトなエリアでみられるのがこの地域の特徴です。
本ジオパークを構成するのは3つのエリア。大量の積雪と雪解けが水の起点となる「山と雪のエリア」、水が大地を深く削ることで生まれた「川と峡谷のエリア」、上流・中流域で削られ運ばれた土砂が扇状に広がった「海と扇状地のエリア」からなります。つまり、いま人々が暮らす土地は、水と一緒に石が旅をすることによって、気の遠くなるほど長い年月をかけて、作られたものなのです。白山はその美しさから多くの歌人が、歌に詠んできました。修行僧が登拝する霊峰としても崇められてきました。


豪雪が育んだ人々
の営みと、
恐竜た
ちが生きた
時代の
記憶

「山と雪のエリア」である手取川の上流にある白峰地域は、平年の積雪が2mを超える国内有数の豪雪地帯です。谷間の狭い河岸段丘上に位置する集落では、雪に備えた街並みや特有の産業に対応した建物を見ることができます。上流域の山間部に位置するとは思えないほど密集した建物は、分厚い土壁や小さな縦長窓が特徴で、国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されています。厳しい自然に合わせて、かつては夏季のみ村を離れ、家族で山中に移り住み、焼畑農業などを行う「出作り」が営まれていました。養蚕も盛んであったことから、生糸を使った牛首紬という丈夫な絹織物が伝統工芸品とされています。



古来より修験信仰の対象だった白山。その登山口にあたる山麓の集落では案内や宿泊業が営まれ、登拝者との交流を通じてさまざまな情報がもたらされました。また、白山周辺には中生代のジュラ紀後期から白亜紀前期に形成された「手取層群」と呼ばれる地層が分布しています。この地層の一部が露出する「桑島化石壁」では、恐竜をはじめとする多様な動植物の化石が多数発見され、当時の生物多様性が明らかになりつつあります。ここは明治の初めに化石を手がかりとして地層の形成された時代が日本で初めて特定された場所です。このことから「日本地質学発祥の地」とも呼ばれています。この地層をつくったのも、恐竜時代の「水の旅・石の旅」なのです。

県名の由来にもなった
「暴れ川」が生んだ大地


世界屈指の急流河川でもある手取川。市民のくらしや農業、工業などを支えてきた一方で、「水の旅・石の旅」は時として災害ももたらしてきました。「暴れ川」とも呼ばれ、1980年に手取川ダムができるまでは度々土砂災害を起こしてきました。水が大地を侵食し、土石を運ぶことでさまざまな地形が形成されますが、県名の「石川」は元をたどれば石の多い川、すなわち手取川の別名が由来だと言われています。

中流域の「川と峡谷のエリア」では川が大地を深く削り込んだ、峡谷や平らな面が段々に広がる河岸段丘を作りました。手取峡谷は約8kmにわたり、高さ20~30mの絶壁が続く景勝地です。川の豊富な水を利用してこの地域では水力発電が古くから行われています。今でも明治時代に建てられた福岡第一発電所が活用され、国の登録有形文化財にもなっています。

下流域「海と扇状地のエリア」の入り口、鶴来地域にある白山比咩神社は白山信仰の拠点、白山神社の総本宮となっています。この鶴来から金沢にかけて通る森本・富樫断層帯の動きにより形成された獅子吼高原からは、扇状地と島状に点々とする集落、彼方には日本海を眺めることができます。手取川の扇状地は美しい扇型が特徴で、その幅は19km。幅の広さでは日本一を誇ります。扇状地の扇端に湧き出る白山美川伏流水群の地下水は、平成の名水百選にも選ばれ、水汲み場は地域の人や観光客でにぎわいます。清らかな伏流水の恵みは、酒造りや全国でも珍しいふぐの卵巣の糠漬けなどの食文化にも生かされてきました。


白山市は平成の大合併で誕生。それぞれの地域で、人々は地球の営みから生まれた地形を生かし、そこに根差した文化や歴史を築いてきました。高山帯から海岸部までにまたがる多彩な地形とくらしは、ジオパーク認定によって、ひとつに結び直されました。ここは「水の旅・石の旅」をテーマに、大地の成り立ち、動植物、人々のつながりが強く感じられる希有なエリアです。
写真提供:白山手取川ジオパーク推進協議会





2026.09.01

