秋・冬から始める水耕栽培秋・冬から始める水耕栽培

暑かった夏が終わり、秋がやってきました。
身近な植物は光や風、気温の変化を敏感に感じ取り、私たちに季節の変化を教えてくれる存在でもあります。
水耕栽培で、植物のある生活を始めるとともに、冬や春の訪れを植物と一緒に感じてみませんか?
東京・祐天寺のフラワーショップ「THE LITTLE SHOP OF FLOWERS」のオーナー、壱岐ゆかりさんにお話を伺いました。

私たちと植物の距離を近づける水耕栽培 私たちと植物の距離を近づける水耕栽培

水耕栽培には植物の成長がはっきり見えるという楽しさがあります。根を伸ばし、芽を出し、やがて花芽が伸びて花が咲く。その過程を眺めることは、日常接する植物が土の中でどのように育っているのかということへの想像力を育んでくれます。私たちと植物との距離をグッと近づけてくれるのが水耕栽培の魅力だと考えています。

すぐに花を楽しめる秋咲き球根 すぐに花を楽しめる秋咲き球根

秋から水耕栽培を楽しめる球根として、まずおすすめしたいのはサフランです。香辛料としてご存知でも、実際に花を育てたことがある方は少ないかもしれません(ちなみに花の雄しべを乾燥させ、粉末にしたものが香辛料として使われているサフランです)。9月~10月頃になれば、秋咲きのサフランとして花芽が付いた球根が花屋さんの店頭に並びます。この球根なら1~2週間で花が咲きます。水耕栽培はもちろん、水や土がなくても開花する植物なので、初めての方でも安心して育てられます。
そのほかにおすすめしたいのは、ヒヤシンス、クロッカスなど。秋咲きのサフランと違いこれらは3~4月に花をつけるので、植物が育つ様子をじっくり観察したい方にぴったり。秋に始めれば、年末~春先には根や芽が出てくる様子を楽しめます。

球根選びもぜひ楽しんでいただけたらと思います。秋咲きのもの、春咲きのもの、1年限りのもの、何年も繰り返し芽を出すものなど色々あります。どの球根が自分に合っているのか、ぜひ花屋さんに積極的に質問してみてください。近年は独自のポリシーをもって球根を作る生産者のほか、そのストーリーを消費者に届けたいと考える花屋さんも増えています。ほかにも球根から咲く花の花言葉や色で選ぶ手もありますし、逆に咲くまで花の色がわからない球根を選ぶのも楽しみ方のひとつ。こだわりの八百屋さんで野菜を選ぶような感覚で、ご自身にあった球根を見つけてほしいと思います。

特別な道具も準備も必要ありません 特別な道具も準備も必要ありません

水耕栽培というと「特別な準備が必要なのでは?」と身構えてしまう方もいますが、その心配は無用です。シンプルに根に水をつけられればいいので、お皿でもグラスでもお猪口でも、身の回りのものを使って気軽に始められます。やがて根が伸びれば小さなお皿やグラスには収まらなくなってきますので、そのタイミングで大きな器に変えるなど、植物の成長に合わせて環境を整えましょう。
土植えで育つ植物は、土の中で根をぐんぐん伸ばします。それが水に置き換わるのが水耕栽培です。大きな容器なら大きいなりに、小さな容器なら小さいなりに根を伸ばして育ちますので、ぜひ大らかな気持ちで植物が成長する様子を見守ってあげてください。
注意してほしいのは、水につけるのは根の部分だけということ。球根に水がかぶると腐ってしまいます。また、日光によって水温が上がると悪い菌が繁殖し根を腐らせることがあるため、直射日光に当てないことも大事です。その意味でも、なるべくこまめに水を変えて清潔な状態を保ちましょう。与える水は水道水で構いません。それ以外には、水耕栽培をするうえで特別気にかけることはありません。きっと、「こんな環境でも育つのか」と、植物が持つ生命力の強さを実感してもらえるはずです。

自分なりの工夫でさらなる楽しみが 自分なりの工夫でさらなる楽しみが

ちょっと変わった水耕栽培の楽しみ方として、プランターなどで土に植えた球根の花芽が出てきたら掘り起こし、水耕栽培に切り替えて楽しむという方法もあります。また、翌年も芽を出す球根の場合は花は切花として楽しんで、球根は土に植えることもできます。自由な発想で、自分のスタイルに合わせて楽しむと良いでしょう。

少し話は逸れますが、水耕栽培よりもっと手軽に植物を生活に取り入れたい方にご紹介したいのがマジックアマリリスです。空気中の水分を吸収して育つため、土も水もいらない、その名の通り魔法のような植物です。植物のある生活に関心はあるものの枯らすことが心配な方はこのあたりからスタートして、水耕栽培などに挑戦してもいいでしょう。

植物の美しさを生活に取り入れよう 植物の美しさを生活に取り入れよう

花屋という仕事柄、植物について調べていると、ユリやアジサイ、ショウブなど日本に原種を持つものがとても多いことに驚かされます。そのどれもが大きくて華やかというよりは、小ぶりで素朴な魅力を持つものです。小さくても成長し花が咲き、そして枯れていく。昔の日本人はこうした植物を育てることで、植物が生を全うするプロセスに「美」を見出してきたのかもしれません。植物の一生という美を、日々の暮らしに手軽に取り入れられるのが水耕栽培です。構えず、まずは気軽に挑戦してもらえればと思います。

2025.10.01

壱岐ゆかりさん

壱岐ゆかりさん

フラワーアーティスト、ショップオーナー。国内2店舗を展開する「THE LITTLE SHOP OF FLOWERS」や植物と食のシームレスな展開をコンセプトにした「babajiji house」など、独自の活動を展開。2025年からは「花の都」オランダ・アムステルダムに生活の拠点を移している。

THE LITTLE SHOP OF FLOWERS

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