Factory Automation

FA業界コラム ~識者の視点~

FA業界コラム 安全投資で生産性の向上を ― 新しい安全の考え方 ―
神余浩夫氏

2022年3月公開【全3回】

第1回 職場の安全性の考え方の変遷

 かつては、「ケガと弁当は自分持ち」など、労働災害は事業者側の責任ではなく労働者の問題だとされていました。しかし、世界各国は労働災害の低減に向けて制度や技術開発を進め、いまや機械製造業者や事業者(雇用者)の責任で機械の安全性を保証するようになりました。その裏付けになるのが、機械安全規格群です。

 欧州では、1989年に欧州機械指令が発令され、EU内で流通する機械は関連する国際規格への適合が義務付けられました。日本から機械を輸出する場合も欧州機械指令に従うため、国内企業も機械の設計製造において、ISO/IEC等の機械安全規格への適合を余儀なくされました。厚生労働省も、2001年に「機械の包括的な安全基準に関する指針」を発表し、機械安全規格への適合を機械製造業者および事業者に促しました。

 機械安全規格の特徴は、機械に潜む危険性を「リスク」として定量的に評価し、リスクを使用者が許容できる程度にまで低減することです。リスクは、被害(ケガ)の大きさとその発生可能性から、その事故被害の期待値として見積もられます。つまり、致命傷が多発する機械は高リスクであり、ばんそうこう災害がたまにしか起きないなら低リスク=許容できます。使用する機械のリスクが許容できるとき、その機械は安全とみなすことができます。機械の設計者は、機械に潜むリスクを見出し、推定して許容できるか評価して、必要ならば適切な安全対策を施してリスク低減を行います。

(図:リスクの考え方)(図:リスクの考え方)

 ここで、ひとつ課題がありました。機械のリスク低減のための安全対策は、やはり安全規格に適合する構成や方式でなければ、十分な効果があるとみなされないことです。例えば、非常停止スイッチに一般的な構造のスイッチを使用すると、スイッチの接点溶着(常時電気が流れていれば溶接と同じなので)が起こって、非常停止スイッチを押しても電気が切れない、機械が止まらない、事故が起きてしまいます。したがって、機械安全規格に適合した構造を持つ(二重化接点)非常停止スイッチを使用しなければいけません。

 こうして、安全な機械を設計するため、十分な信頼性を備えた安全対策を構築するため、各社から安全規格に適合した安全制御機器が発売されるようになりました。安全規格に適合した安全制御機器を用いることで、適切な安全対策が施された安全な機械を設計および製造できるようになりました。当社も、2006年の安全シーケンサMELSEC-QSシリーズおよびCC-Link Safetyの発表に始まって、多くの安全制御機器をご提供しております。

 安全制御機器は、スイッチやセンサだけでなく、シーケンサやリモートI/O、サーボやインバータなどの制御機器や駆動機器も含まれます。安全規格は、故障や不具合に対応するための多重化構造や自己診断機能を求めています。さらに、より高度で複雑な安全システムを構築するための安全機能が安全規格に規定されており、安全制御機器はこれらの安全機能のサポートを進めました。次回は、これらの安全制御機器についてご紹介いたします。

(図:安全制御機器の種類、「安全ガイドブック((一社)NECA制御安全委員会より」)(図:安全制御機器の種類、「安全ガイドブック((一社)NECA制御安全委員会より」)

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